【ゴードン】肺癌 化学療法中に副作用(0020)| 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
本事例の要約
非小細胞肺癌(腺癌)Stage IIIBと診断され、化学放射線療法後に維持療法としてペムブロリズマブによる免疫チェックポイント阻害剤治療を受けている患者が、治療3クール目で間質性肺炎を発症し、ステロイドパルス療法を行った事例。11月15日介入(入院11日目)。
この事例で勉強できること
・免疫チェックポイント阻害剤による間質性肺炎の管理
・ステロイド療法に伴う二次的合併症(高血糖)への対応
・呼吸機能低下患者の日常生活援助
・治療中断による患者・家族の不安への精神的支援
・インスリン自己管理指導と退院支援
今回の情報
基本情報
A氏は65歳の男性で、身長170cm、体重58kg(BMI 20.1)である。家族構成は妻(62歳)との二人暮らしで、長男(38歳)と長女(35歳)は独立しており別世帯である。キーパーソンは妻であり、入院中も頻繁に面会に訪れている。定年まで建設会社の現場監督として勤務していたが、現在は退職して年金生活を送っている。性格は几帳面で真面目、几帳面であり、自分の病気や治療についても積極的に知識を得ようとする姿勢がある。治療や服薬に対するアドヒアランスは良好だが、入院生活の制限に対してはストレスを感じることがある。感染症はなく、薬剤アレルギーとしてペニシリン系抗生物質でじんましんの既往がある。認知機能は正常で日常会話や意思疎通に問題はなく、治療の説明も十分理解できている。
病名
病名:右上葉原発非小細胞肺癌(腺癌)cT2aN2M0 Stage IIIB。
手術適応外と判断され、根治的化学放射線療法(シスプラチン+ペメトレキセド併用放射線療法60Gy/30fr)を6か月前に完了し、その後維持療法としてペムブロリズマブ(免疫チェックポイント阻害剤)による治療を行っていた。3クール目投与後に薬剤性間質性肺炎を発症し、現在治療中である。
既往歴と治療状況
既往歴として高血圧症(10年前から)があり、アムロジピン5mg 1回1錠 朝食後で血圧コントロールは良好である。また、2型糖尿病(8年前から)に対してはメトホルミン500mg 1回1錠 朝・夕食後を服用しており、HbA1cは6.5%前後で推移している。喫煙歴は40本/日×40年(ブリンクマンテスト1600)と重度であったが、肺癌診断時に禁煙し現在も継続している。アルコール性肝障害の既往もあるが、禁酒により肝機能は改善傾向である。
入院から現在までの情報
A氏は10日前(11月5日)、ペムブロリズマブ投与3クール目の4日後から続く乾性咳嗽、労作時呼吸困難、微熱を主訴に外来受診した。SpO2 94%(室内気)と軽度の低酸素血症を認め、胸部CTで両側肺底部を中心にすりガラス陰影を認めたため、免疫関連有害事象(irAE)による間質性肺炎が疑われ即日入院となった。
入院後、ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1000mg/日×3日間)が開始され、その後プレドニゾロン60mg/日の内服に切り替えられた。治療開始2日目から咳嗽の改善を認め、5日目には呼吸困難感も軽減した。入院7日目の胸部CT再検では両肺のすりガラス陰影の改善を認めた。現在は入院11日目であり、プレドニゾロン50mg/日に減量され、間質性肺炎のコントロールは良好である。
入院中、ステロイド誘発性の高血糖(随時血糖値最高340mg/dL)を認め、強化インスリン療法(ランタス12単位 1日1回、ノボラピッド食前6-6-6単位)が導入された。また、ニューモシスチス肺炎予防としてST合剤の予防投与も行われている。ステロイド減量に伴い血糖値も改善傾向にあるが、依然インスリン管理が必要な状態である。
今後の治療計画として、間質性肺炎の完全寛解を目指してステロイドを漸減していく予定である。ペムブロリズマブによる維持療法は間質性肺炎発症のため中止となり、肺癌に対する今後の治療方針は間質性肺炎の改善を待って検討される予定である。
バイタルサイン
来院時(11月5日)のバイタルサインは、体温37.6℃と微熱を認め、血圧138/84mmHg、脈拍92回/分と軽度頻脈であった。呼吸数は24回/分とやや増加し、SpO2は室内気で94%と軽度の低酸素血症を呈していた。また、胸部聴診で両側下肺野を中心にファインクラックルを聴取した。
現在(入院11日目)のバイタルサインは、体温36.5℃と解熱し、血圧132/78mmHg、脈拍78回/分と安定している。呼吸数は18回/分と正常範囲内に改善し、SpO2は室内気で98%まで回復している。胸部聴診でも前回聴取されたファインクラックルは著明に減少している。安静時の呼吸困難感はほぼ消失しているが、長時間の歩行や階段昇降などの中等度以上の労作時にはSpO2が95%程度まで低下する場合がある。
食事と嚥下状態
入院前は1日3食を規則的に摂取していたが、ペムブロリズマブ投与後の倦怠感や食欲不振により食事量は全体の約7割程度に減少していた。嚥下機能に問題はなく、むせや誤嚥の既往はない。喫煙歴は40本/日×40年と重度であったが、肺癌診断時(約8ヶ月前)に禁煙し現在も継続している。飲酒は以前はビール500ml/日程度の習慣があったが、肝機能障害を指摘されてから完全に禁酒している。
現在の食事は糖尿病食1600kcal(塩分6g制限)が提供されている。ステロイド投与による食欲亢進がみられ、提供された食事を全量摂取できている。間質性肺炎の症状改善に伴い、咳嗽による食事中断もなくなり、摂取状況は良好である。嚥下機能に変化はなく問題ない。
排泄
入院前の排尿は1日7〜8回で、夜間排尿は1〜2回程度であった。排便は1日1回の規則的な習慣があり、便秘や下痢の問題はなく下剤の使用はなかった。
現在の排尿は1日8〜10回と若干増加傾向で、これは点滴による水分負荷とステロイド投与の影響と考えられる。夜間排尿も2〜3回と増加している。排便については、活動量の低下とオピオイド系鎮咳薬の使用により軽度の便秘傾向がみられ、現在は酸化マグネシウム330mg 1日3回の内服を行っている。下剤使用により1日1回の排便が得られるようになったが、便の硬さは硬めでブリストルスケール2〜3程度である。
睡眠
入院前は22時就寝、6時起床の規則的な睡眠習慣があった。慢性的な咳による中途覚醒はあったものの、睡眠薬の使用はなく休息は概ね取れていた。
入院後は環境の変化やステロイド投与による興奮作用から入眠困難を訴えるようになった。また、夜間の点滴管理や血糖測定、夜間排尿の増加などにより睡眠の質が低下している。現在はゾルピデム5mg 1錠の頓用処方があり、必要時に使用している。使用することで約6時間程度の連続した睡眠が得られるようになったが、朝方の早期覚醒がみられることもある。ステロイド減量に伴い睡眠の質は徐々に改善傾向にある。
視力・聴力・知覚・コミュニケーション・信仰
視力は軽度の老視があり、新聞や書類を読む際には老眼鏡を使用している。遠方視力は問題なく、日常生活に支障はない。定期的な眼科検診も受けており、白内障の初期所見を指摘されているが経過観察中である。
聴力は年齢相応で、通常の会話レベルでは問題なく聞き取れている。騒がしい環境では聞き取りにくさを感じることがあるが、補聴器は使用していない。
知覚に関しては、両下肢末端に軽度のしびれ感があり、糖尿病による末梢神経障害の初期症状と考えられている。痛覚・温度覚・触覚などの表在感覚は保たれているが、振動覚がやや低下している。また、上肢の感覚は正常である。
コミュニケーションは良好で、言語理解力や表現力に問題はない。自分の症状や不安を適切に表現でき、医療者とのコミュニケーションも円滑である。性格的にはやや遠慮がちな面もあり、痛みや不快感を我慢する傾向がある。
信仰は特になく、宗教的な制約による治療上の制限はない。しかし、病状の好転を祈願するため、妻が地元の神社で健康祈願をしているという。
動作状況
入院前の日常生活動作(ADL)は自立しており、歩行や移動に制限はなかった。化学放射線療法中は倦怠感による活動性の低下がみられたが、徐々に回復していた。定期的に近所を30分程度散歩する習慣があり、筋力維持に努めていた。移乗動作も問題なく自立していた。
現在は間質性肺炎の影響により、長距離歩行時や階段昇降時に息切れを認める。病棟内の平地歩行は自立しているが、連続歩行は100m程度が限界で、その後は呼吸困難感の増強とSpO2の低下(95%程度)がみられる。移乗動作は自立しているが、動作時の急激な体位変換で一過性のめまいを感じることがある。
排尿・排便は自立しており、トイレまでの移動や衣服の着脱も問題なく行える。夜間は点滴ラインがあるため、ポータブルトイレを使用することもあるが、日中はトイレを使用している。
入浴に関しては、入院中はシャワー浴を週3回実施している。息切れ予防のため、シャワー椅子に座って行うようにしており、看護師が付き添っている。洗髪や体を洗う動作は自立しているが、長時間の立位や前屈み姿勢で呼吸困難感が増強するため、適宜休憩を取りながら行っている。
衣類の着脱は基本的に自立しているが、息切れによりペースはやや遅くなっている。特に上衣の着脱時に腕を上げる動作で呼吸困難感が増強するため、時間をかけて行う必要がある。
転倒歴はこれまでになく、現在も転倒リスクアセスメントでは中等度リスク(転倒リスクスケール10点)と評価されている。しかし、ステロイド投与による筋力低下や夜間の頻尿、また血糖値の変動による低血糖リスクがあるため注意が必要である。
内服中の薬
内服中の薬:
- プレドニゾロン 50mg 1日1回 朝食後
- アムロジピン 5mg 1日1回 朝食後
- ランソプラゾール 15mg 1日1回 朝食後
- スルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST合剤)400mg・80mg 1日1回 朝食後(月・水・金のみ)
- 酸化マグネシウム 330mg 1日3回 毎食後
- メトホルミン 500mg 1日2回 朝・夕食後(現在は中止中)
- ゾルピデム 5mg 1錠 不眠時 頓用
- インスリン グラルギン(ランタス)12単位 1日1回 就寝前
- インスリン アスパルト(ノボラピッド)6-6-6単位 毎食直前
服薬状況: 入院前は全ての内服薬を自己管理しており、服薬アドヒアランスは良好であった。A氏は几帳面な性格で、自宅では薬をピルケースに1週間分セットして管理していた。
入院後は、ステロイド治療の開始と血糖コントロールの必要性から、現在は看護師管理となっている。特にインスリン療法が新たに導入されたため、血糖測定とインスリン投与の手技を練習中である。血糖測定は看護師の見守りのもとで実施できるようになったが、インスリン注射はまだ不安があり看護師が実施している。
プレドニゾロンは漸減していく予定であり、用量変更が頻繁に行われる可能性があるため、内服薬も当面は看護師管理としている。A氏自身は退院後の自己管理に向けて、積極的に薬の名前や効果、副作用について質問しており、学習意欲は高い。
検査データ
検査項目 | 基準値 | 入院時(11/5) | 最近(11/15) | 単位 |
---|---|---|---|---|
血液学的検査 | ||||
WBC | 3.5-9.0 | 11.8 | 9.2 | ×10³/μL |
RBC | 4.0-5.5 | 4.2 | 4.3 | ×10⁶/μL |
Hb | 13.0-17.0 | 12.2 | 12.5 | g/dL |
Ht | 40.0-50.0 | 38.5 | 40.2 | % |
Plt | 150-350 | 182 | 195 | ×10³/μL |
生化学的検査 | ||||
TP | 6.5-8.2 | 6.8 | 6.7 | g/dL |
Alb | 3.8-5.2 | 3.5 | 3.6 | g/dL |
T-Bil | 0.2-1.2 | 0.8 | 0.7 | mg/dL |
AST | 8-38 | 45 | 32 | U/L |
ALT | 4-43 | 58 | 40 | U/L |
ALP | 106-322 | 280 | 275 | U/L |
LDH | 121-245 | 268 | 232 | U/L |
γ-GTP | 10-73 | 85 | 68 | U/L |
BUN | 8-20 | 18 | 19 | mg/dL |
Cre | 0.6-1.1 | 0.8 | 0.9 | mg/dL |
eGFR | ≥60 | 75 | 72 | mL/min/1.73m² |
Na | 135-145 | 138 | 139 | mEq/L |
K | 3.5-5.0 | 4.2 | 4.3 | mEq/L |
Cl | 98-108 | 102 | 103 | mEq/L |
Ca | 8.6-10.2 | 9.2 | 9.3 | mg/dL |
P | 2.5-4.5 | 3.5 | 3.6 | mg/dL |
CRP | <0.3 | 3.8 | 0.8 | mg/dL |
血糖関連検査 | ||||
空腹時血糖 | 70-109 | 145 | 132 | mg/dL |
随時血糖 | <140 | 182 | 156 | mg/dL |
HbA1c | 4.6-6.2 | 6.8 | 6.9 | % |
凝固系検査 | ||||
PT-INR | 0.85-1.15 | 1.08 | 1.10 | – |
APTT | 26.9-38.1 | 32.5 | 33.2 | 秒 |
D-dimer | <1.0 | 2.1 | 0.8 | μg/mL |
動脈血ガス分析(室内気) | ||||
pH | 7.35-7.45 | 7.42 | 7.41 | – |
PaO₂ | 80-100 | 72 | 85 | mmHg |
PaCO₂ | 35-45 | 32 | 38 | mmHg |
HCO₃⁻ | 22-26 | 23 | 24 | mEq/L |
BE | -2.0-+2.0 | -1.5 | -0.8 | mEq/L |
呼吸機能検査 | ||||
%VC | ≥80 | 72 | 75 | % |
FEV₁.₀% | ≥70 | 65 | 68 | % |
腫瘍マーカー | ||||
CEA | <5.0 | 8.2 | 7.8 | ng/mL |
CYFRA | <3.5 | 4.8 | 4.5 | ng/mL |
免疫学的検査 | ||||
KL-6 | <500 | 1250 | 980 | U/mL |
SP-D | <110 | 245 | 188 | ng/mL |
今後の治療方針と医師の指示
今後の治療方針と医師の指示については、まず間質性肺炎の治療を最優先とし、プレドニゾロンを現在の50mg/日から2週間ごとに10mgずつ漸減していく計画となっている。その間、間質性肺炎の再燃がないか胸部CT検査とKL-6値を定期的にモニタリングしていく。ステロイド減量中もニューモシスチス肺炎予防のためST合剤の予防投与は継続する。また、ステロイド長期投与に伴う骨粗鬆症予防として、ビスホスホネート製剤の開始も検討されている。
血糖コントロールについては、プレドニゾロン減量に応じてインスリン投与量も調整していく。現時点では退院時もインスリン療法を継続する方針であり、自己血糖測定とインスリン自己注射の手技獲得が退院の条件となっている。また、ステロイド減量による血糖値の改善に応じて、将来的には経口血糖降下薬への切り替えも検討される。
肺癌の治療に関しては、免疫チェックポイント阻害剤(ペムブロリズマブ)による治療は間質性肺炎のためGrade 3の有害事象と判断され永久中止となった。間質性肺炎が改善した後の肺癌治療として、セカンドラインの化学療法(ドセタキセル単剤療法)を検討しているが、開始時期については間質性肺炎の完全寛解とステロイド減量状況を考慮して決定する予定である。現状では少なくとも1〜2ヶ月後の開始が見込まれている。
医師からは、退院後の日常生活における指示として、十分な休息を取りながら徐々に活動量を増やしていくこと、呼吸困難感が増強する無理な運動は避けること、そして風邪などの感染症予防のためマスク着用や手洗いの徹底が強調されている。また、ステロイド服用中の感染リスク上昇を考慮し、混雑した場所や感染症流行時の外出を控えるよう指導されている。
本人と家族の想いと言動
本人であるA氏は、間質性肺炎の発症により免疫療法が中断されたことで、「癌が進行するのではないか」という不安を抱えている。症状の改善に伴い精神的には落ち着きを取り戻しつつあるが、「この先の治療はどうなるのだろうか」という将来への不確実性に悩んでいる。
A氏は几帳面で自己管理能力が高く、「自分の病気と向き合いたい」「できる限りのことはしたい」と前向きな姿勢を見せている。一方、インスリン療法については「間違えたら危険だから、しっかり覚えてから自分でやりたい」と慎重な態度である。
妻は毎日面会に訪れ、A氏の前では「大丈夫よ、良くなってきているんだから」と励ましている。看護師には「主人は心配させないように我慢するタイプ」と夫の性格を伝え、退院後の生活指導を求めている。
長男と長女は週末を中心に訪問し、家族全体でA氏の回復を支援する姿勢を示している。しかし、癌治療の中断による今後の見通しの不確かさに家族全員が不安を抱えている。
【ゴードン】肺癌 化学療法中に副作用(0020)| 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
看護の攻略部屋wiki
看護学生をお助け | 看護過程の見本 | 完全無料でコピー&ペースト(コピペ)OK
コメント