本事例の要約
非小細胞肺癌(腺癌)Stage IIIBと診断され、化学放射線療法後に維持療法としてペムブロリズマブによる免疫チェックポイント阻害剤治療を受けている患者が、治療3クール目で間質性肺炎を発症し、ステロイドパルス療法を行った事例。11月15日介入(入院11日目)。
10.コーピング-ストレス耐性
A氏は65歳の男性で、薬剤性間質性肺炎の治療のため約11日前に入院している。入院環境については、環境の変化やステロイド投与による興奮作用から入眠困難を訴えており、夜間の点滴管理や血糖測定、夜間排尿の増加などにより睡眠の質が低下している。ゾルピデム5mg 1錠の頓用処方があり必要時に使用しているが、睡眠の質の低下は明らかである。入院生活の制限に対してストレスを感じることがあることが情報から読み取れる。入院前は日常生活動作(ADL)が自立しており活動的であったが、現在は間質性肺炎の影響により長距離歩行時や階段昇降時に息切れを認めるなど、活動範囲が制限されていることも精神的ストレスとなっている可能性がある。
A氏のパーソナリティとしては、几帳面で真面目な性格であり、自分の病気や治療についても積極的に知識を得ようとする姿勢がある。治療や服薬に対するアドヒアランスは良好であるが、入院生活の制限に対してはストレスを感じることがある。この性格傾向は、ストレスに対するコーピング方法にも影響を与えていると考えられる。特に、インスリン療法については「間違えたら危険だから、しっかり覚えてから自分でやりたい」と慎重な態度を示しており、健康管理に対して責任感を持って取り組む姿勢がストレス対処の一つの形となっていると推測される。
A氏は定年まで建設会社の現場監督として勤務していたが、現在は退職して年金生活を送っている。仕事に関するストレスは現在はないと考えられるが、長年の職業生活で培われた几帳面さや責任感が、現在の病気に対する向き合い方にも反映されている可能性がある。特に「自分の病気と向き合いたい」「できる限りのことはしたい」という前向きな姿勢は、過去の職業生活での課題解決能力が基盤となっていると推測される。
生活におけるストレス状況としては、肺癌の診断と治療プロセス、特に免疫チェックポイント阻害剤による治療中の間質性肺炎発症という予期せぬ合併症の発生が大きなストレス要因となっている。A氏は「癌が進行するのではないか」という不安を抱えており、症状の改善に伴い精神的には落ち着きを取り戻しつつあるが、「この先の治療はどうなるのだろうか」という将来への不確実性に悩んでいる。疾患の予後に対する不安と治療方針の変更による不確実性が、現在の最も大きなストレス要因であると考えられる。
ストレス発散方法については情報が限られているが、入院前は定期的に近所を30分程度散歩する習慣があり、これが一つのストレス解消法として機能していた可能性がある。しかし、現在は間質性肺炎の影響により活動が制限されており、従来のストレス発散方法が使えなくなっていることが推測される。入院中のストレス発散方法については追加の情報収集が必要である。特に、趣味や関心事、精神的な安定をもたらす活動などについて確認することが重要である。
家族のサポート状況については、妻(62歳)がキーパーソンであり、入院中も頻繁に面会に訪れている。妻はA氏の前では「大丈夫よ、良くなってきているんだから」と励ましており、情緒的サポートの重要な源となっている。また、看護師には「主人は心配させないように我慢するタイプ」と夫の性格を伝え、退院後の生活指導を求めていることから、A氏の妻は夫の健康状態と心理状態を十分に理解し、適切なサポートを提供できる状況にあると考えられる。長男(38歳)と長女(35歳)も週末を中心に訪問しており、家族全体でA氏の回復を支援する姿勢を示している。これらの家族からの情緒的サポートはA氏のストレス耐性を高める重要な要素となっている。
生活の支えとなるものについては、家族の存在が最も大きいと考えられるが、それ以外の精神的支柱や生きがいについては情報が不足している。宗教的な信仰は特にないようだが、妻が地元の神社で健康祈願をしているという情報から、家族の健康を願う妻の思いがA氏にとっての精神的支えになっている可能性がある。
A氏は喫煙歴が40本/日×40年と重度であったが、肺癌診断時に禁煙し現在も継続している。アルコールも以前はビール500ml/日程度の習慣があったが、肝機能障害を指摘されてから完全に禁酒している。これらの生活習慣の改善は、A氏の意志の強さと健康への取り組み姿勢を示している。同時に、喫煙や飲酒がストレス発散の手段となっていた可能性もあり、それらを断ったことで代替のストレス対処法が必要となっている可能性がある。
看護介入としては、まず現在のストレス状況をより詳細に把握するための情報収集が必要である。特に、入院前のストレス発散方法、現在のストレス度合い、ストレスの具体的症状(不眠、食欲不振、焦燥感など)について確認することが重要である。また、A氏の性格が几帳面で真面目であることから、過度の心配や不安を抱えやすい傾向がある可能性があり、そのような心理状態を把握することも重要である。
次に、入院環境の調整を行うことが有効である。可能な範囲で個人的な空間を確保し、面会時間を柔軟に設定するなど、ストレス軽減のための環境調整を検討する。また、睡眠の質改善のために、夜間の処置や観察をできるだけまとめて行い、睡眠の中断を最小限にする工夫も重要である。
A氏の情報探索ニーズに応えるため、疾患や治療に関する適切な情報提供を継続的に行うことが重要である。特に、間質性肺炎の治療経過や肺癌治療の今後の見通しについて、A氏の理解度に合わせた説明を行い、不確実性に対する不安の軽減を図る。同時に、過度の情報によるストレス増加を防ぐため、A氏の心理状態を見極めながら情報提供のタイミングと内容を調整することも必要である。
入院中の代替ストレス発散方法を見つけるための支援も重要である。A氏の興味関心に合わせた活動(読書、音楽鑑賞、軽い手工芸など)を提案し、病室内でも実施可能なリラクゼーション方法を指導することが有効である。また、病状が許す範囲での軽い運動(病棟内歩行など)を促進し、活動制限によるストレスを軽減する。
家族との連携も重要な介入である。妻をはじめとする家族に対して、A氏の病状や心理状態についての情報共有を行い、効果的なサポート方法について助言する。特に、A氏が「心配させないように我慢するタイプ」であることを考慮し、本人が表出しない不安や心配事についても家族が気づけるようサポートする。
また、退院後の生活に向けて、ストレス管理方法や対処技術について指導を行うことも重要である。特に、ステロイド治療の継続に伴う気分変動や、継続的な通院治療によるストレスへの対処法について、具体的な助言を提供する。
A氏の状態観察を継続し、特にステロイド減量に伴う気分や情緒の変化に注意を払う必要がある。ステロイドの急激な減量は時に離脱症状として抑うつや不安を引き起こすことがあるため、減量過程におけるA氏の精神状態を注意深く観察することが重要である。また、間質性肺炎の症状改善に伴う活動範囲の拡大が、ストレス軽減にどのように影響するかについても継続的に評価することが必要である。
看護問題の明確化
#疾患の予後の不確実性と治療方針変更に関連した不安
事例の目次
【ゴードン】肺癌 化学療法中に副作用(0020)| 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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