本事例の要約
非小細胞肺癌(腺癌)Stage IIIBと診断され、化学放射線療法後に維持療法としてペムブロリズマブによる免疫チェックポイント阻害剤治療を受けている患者が、治療3クール目で間質性肺炎を発症し、ステロイドパルス療法を行った事例。11月15日介入(入院11日目)。
11.価値-信念
A氏は65歳の男性で、右上葉原発非小細胞肺癌(腺癌)に対する治療中であり、免疫チェックポイント阻害剤による薬剤性間質性肺炎の治療のため入院している。A氏の信仰については、特に宗教的な信仰はないと記載されており、宗教的な制約による治療上の制限はないとされている。しかし、A氏の妻が地元の神社で健康祈願をしているという情報からは、家族の中で伝統的な日本文化における神道的習慣が生活の一部となっている可能性がある。A氏自身がこの祈願についてどのように考えているかについての情報はないため、A氏自身の精神的支えや病気の回復に対する信念についてさらに情報収集が必要である。
A氏の価値観や信念については、いくつかの特徴が読み取れる。まず、A氏は「自分の病気と向き合いたい」「できる限りのことはしたい」と前向きな姿勢を示している。このことから、困難な状況においても自己管理と積極的な取り組みを重視する価値観を持っていることがうかがえる。また、A氏は几帳面で真面目な性格であり、自分の病気や治療についても積極的に知識を得ようとする姿勢がある。この姿勢は、情報に基づいた意思決定を重視する価値観の表れと考えられる。
インスリン療法については「間違えたら危険だから、しっかり覚えてから自分でやりたい」と慎重な態度を示していることから、安全性と確実性を重視する価値観も持ち合わせていると推測される。また、A氏は定年まで建設会社の現場監督として勤務していたことから、責任感が強く、計画的で段階的なアプローチを好む傾向があると考えられる。
A氏の家族関係からも価値観が読み取れる。A氏は妻(62歳)との二人暮らしであり、妻は頻繁に面会に訪れている。長男と長女も週末を中心に訪問しており、家族全体でA氏の回復を支援する姿勢を示している。このことから、家族との絆を重視する価値観がA氏の生活において重要な位置を占めていると考えられる。
A氏の健康に関する価値観も注目すべきである。A氏は肺癌診断時に喫煙を中止し、肝機能障害を指摘されてからは禁酒している。これらの行動からは、健康を重視し、医学的アドバイスを尊重する価値観が読み取れる。また、治療や服薬に対するアドヒアランスが良好であることも、この価値観を裏付けている。
A氏の目標については、明示的な情報は少ないが、現在の状況からいくつかの目標を推測できる。まず、間質性肺炎から回復し、肺癌治療を継続することが短期的な目標であると考えられる。また、「癌が進行するのではないか」という不安を抱えていることからは、癌の進行を抑制し、可能な限り長く生存することが長期的な目標であると推測される。また、家族との関係性の強さから、家族との時間をより多く持ち、家族の支えとなり続けることも重要な目標である可能性が高い。加えて、A氏は入院生活の制限にストレスを感じることがあることから、可能な限り自立した生活を維持することも目標の一つであると考えられる。
A氏は65歳という年齢であり、退職して年金生活を送っていることから、人生の振り返りや今後の人生の意味づけを考える時期にある可能性がある。エリクソンの発達理論に基づけば、この年齢は「統合対絶望」の段階にあたり、自分の人生を肯定的に受け止め、残された時間をどのように有意義に過ごすかを考える時期である。重篤な疾患に直面することで、この発達課題への取り組みがより顕在化している可能性がある。A氏が自分の人生をどのように振り返り、残された時間にどのような意味を見出しているかについての情報収集が必要である。
看護介入としては、まずA氏の価値観や信念、人生の目標についてより詳細に把握するための対話を持つことが重要である。特に、病気や治療に関する意思決定において何を最も重視しているか、どのような生活の質を維持したいと考えているかについて理解することが必要である。この対話は、A氏が自分の価値観や目標を明確にする機会ともなり、病気との向き合い方に肯定的な影響を与える可能性がある。
また、A氏の価値観や目標に沿った治療計画や看護ケアを提供することも重要である。例えば、A氏が情報に基づいた意思決定を重視していることから、疾患や治療に関する情報を適切に提供し、意思決定を支援することが必要である。同時に、家族との絆を重視する価値観を尊重し、家族の面会や参加を促進する環境を整えることも重要である。
さらに、A氏の自己管理能力を高めるためのサポートも重要な介入である。インスリン自己注射の手技獲得が退院の条件となっていることから、A氏の価値観に沿った形で安全かつ確実に手技を習得できるよう支援することが必要である。これには、段階的な指導や繰り返しの練習、成功体験の強化などが含まれる。
A氏の精神的な側面へのケアも重要である。特に、「癌が進行するのではないか」という不安に対しては、A氏の価値観や信念を尊重しながら、現実的な希望を持ち続けられるよう支援することが必要である。これには、現在の治療状況や見通しについての正確な情報提供、A氏の感情表出の促進、必要に応じたカウンセリングの提供などが含まれる。
今後の治療過程において、A氏の価値観や目標が変化する可能性があるため、継続的な観察と対話が必要である。特に、ステロイド減量や肺癌治療の再開など、治療方針の変更点においては、A氏の価値観や希望を再確認し、治療計画に反映させることが重要である。A氏が自分の価値観や目標に沿った治療を受け、意思決定に参加できているという実感を持てるよう支援することが、A氏の自己効力感と治療への積極的な取り組みを促進すると考えられる。
看護問題の明確化
#疾患の予後の不確実性に関連した人生の意味・目標の再考
事例の目次
【ゴードン】肺癌 化学療法中に副作用(0020)| 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
看護の攻略部屋wiki
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