本事例の要約
非小細胞肺癌(腺癌)Stage IIIBと診断され、化学放射線療法後に維持療法としてペムブロリズマブによる免疫チェックポイント阻害剤治療を受けている患者が、治療3クール目で間質性肺炎を発症し、ステロイドパルス療法を行った事例。11月15日介入(入院11日目)。
7.自己知覚-自己概念
A氏は65歳の男性で、性格は几帳面で真面目であると情報に記載されている。このような性格特性は、A氏の疾患管理と治療に対する姿勢にも表れており、自分の病気や治療について積極的に知識を得ようとする姿勢がある。治療や服薬に対するアドヒアランスは良好であり、入院前は全ての内服薬を自己管理し、ピルケースに1週間分セットして管理していた。このことから、A氏は自己管理能力が高く、自律性を重視する傾向があると考えられる。また、インスリン療法については「間違えたら危険だから、しっかり覚えてから自分でやりたい」と慎重な態度を示しており、安全性と自己効力感を大切にする姿勢が窺える。
一方、妻からは「主人は心配させないように我慢するタイプ」という情報があり、A氏は自分の感情や不安を表出せずに抱え込む傾向があることが推測される。このことは、他者への配慮と自己抑制という性格特性を示唆している。この特性は、日本の伝統的な文化における「他者を思いやる」「迷惑をかけない」という価値観と関連している可能性があるが、A氏の育った文化的背景や家族環境に関する詳細な情報は不足しているため、さらなる情報収集が必要である。
A氏のボディイメージに関する直接的な情報は少ないが、肺癌診断と治療、間質性肺炎の発症により、身体的な変化と機能制限を経験していることが推測される。特に、長距離歩行時や階段昇降時に息切れを認め、連続歩行は100m程度が限界となっている現状は、以前の活動的な生活(近所を30分程度散歩する習慣があった)と比較して大きな変化である。また、BMIは20.1で標準体重を維持しているが、建設会社の現場監督として働いていた頃と比較すると、身体的な強さや耐久性に関する自己認識に変化が生じている可能性がある。身体機能の低下に伴う自己概念の変化については、A氏自身がどのように受け止めているかを詳細に把握する必要がある。
疾患に対する認識としては、A氏は「癌が進行するのではないか」という不安と「この先の治療はどうなるのだろうか」という将来への不確実性に悩んでいることが記載されている。これらの不安は、自分の健康状態や生命に関わる重大な懸念であり、A氏の自己概念に影響を与える要素となっている。特に、根治的化学放射線療法後の維持療法としてのペムブロリズマブによる治療が中断となり、今後の治療方針が間質性肺炎の改善を待って検討される状況は、A氏にとって疾患の進行や治療効果に対する不確実性を高めている。このような状況下で、「自分はこの病気と闘えるのか」「治療の効果はあるのか」という実存的な問いがA氏の中に生じている可能性がある。
A氏の自尊感情については、「自分の病気と向き合いたい」「できる限りのことはしたい」という前向きな姿勢が記載されており、困難な状況にあっても自分の価値や能力を肯定的に捉えようとする意志が窺える。A氏は定年まで建設会社の現場監督として勤務していたことから、職業的なアイデンティティと責任感を持ち、それが自尊感情の基盤となっていた可能性がある。現在は退職して年金生活を送っているが、疾患管理において自律性と主体性を発揮しようとする姿勢は、A氏の自尊感情を維持する重要な要素となっている。
家族からの期待や社会的役割については、A氏は妻(62歳)と二人暮らしであり、長男(38歳)と長女(35歳)は独立して別世帯である。妻はA氏のキーパーソンとして頻繁に面会に訪れており、家族全体でA氏の回復を支援する姿勢を示している。このような家族の支援は、A氏の心理的な安定と自己価値感の維持に寄与していると考えられる。一方、家族から「早く良くなってほしい」「以前のように元気になってほしい」といった期待がA氏にとってプレッシャーとなっている可能性も考慮する必要がある。特に、A氏が「心配させないように我慢するタイプ」であることを考慮すると、家族の期待に応えようとする心理的負担が生じている可能性がある。
加齢に伴う自己概念の変化も考慮すべき要素である。65歳という年齢は、多くの人にとって身体機能の緩やかな低下や社会的役割の変化(退職など)を経験する時期である。A氏の場合、定年退職という人生の転機に加えて、肺癌診断と治療という健康上の重大な課題に直面している。これらの変化がA氏のアイデンティティや自己価値感にどのような影響を与えているかを理解することが重要である。
今後の看護介入としては、まずA氏の自己概念や自尊感情に関するより詳細な情報収集が必要である。具体的には、疾患や治療に対する個人的な意味づけ、身体機能の変化に対する感情、将来の見通しに関する考えなどを、信頼関係を構築した上で丁寧に聴く機会を設けることが重要である。
また、A氏の自律性と自己効力感を高める支援として、インスリン自己注射や血糖測定などのセルフケアスキルの獲得を段階的に支援することが効果的である。A氏の几帳面さや自己管理能力の高さを肯定的に評価し、小さな成功体験を積み重ねることで自信を育むアプローチが望ましい。同時に、A氏が不安や懸念を表出しやすい環境を整え、感情表現を促進することも重要である。
身体機能の制限に対しては、リハビリテーションスタッフと連携し、現在の身体状態でできることを明確にし、達成可能な目標設定を行うことで、自己効力感の維持・向上を図ることが重要である。また、病状の変化や治療の進行に伴い、ボディイメージや自己概念がどのように変化するかを継続的に観察し、適切な心理的支援を提供する必要がある。
家族との関係においては、A氏が自分の感情や不安を素直に表現できるよう、家族とのコミュニケーションを促進する支援が有効である。妻を中心とした家族に対して、A氏の心理状態や自己表現の特徴について情報提供し、協力して支援する体制を整えることが望ましい。
最後に、A氏の人生における意味や価値観に焦点を当てた実存的なアプローチも考慮すべきである。疾患や治療に対する不確実性がある中で、A氏自身の人生の意味や目的を再確認する機会を提供することで、心理的な安定と自己肯定感の維持を支援することができる。このようなアプローチは、A氏の全人的なケアにおいて重要な要素となる。
看護問題の明確化
#肺癌治療の中断と身体機能の低下に関連した自己概念の混乱
事例の目次
【ゴードン】肺癌 化学療法中に副作用(0020)| 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
看護の攻略部屋wiki
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