本事例の要約
非小細胞肺癌(腺癌)Stage IIIBと診断され、化学放射線療法後に維持療法としてペムブロリズマブによる免疫チェックポイント阻害剤治療を受けている患者が、治療3クール目で間質性肺炎を発症し、ステロイドパルス療法を行った事例。11月15日介入(入院11日目)。
4.活動-運動
A氏の入院前の日常生活動作(ADL)は自立しており、歩行や移動に制限はなかった。定期的に近所を30分程度散歩する習慣があり、筋力維持に努めていた。しかし現在は間質性肺炎の影響により、長距離歩行時や階段昇降時に息切れを認め、連続歩行は100m程度が限界となっている。この時点でSpO2の低下(95%程度)がみられている。病棟内の平地歩行は自立しているが、労作後の回復に時間を要する状態である。
移乗動作は自立しているものの、動作時の急激な体位変換で一過性のめまいを感じることがある。これはステロイド療法による一時的な血圧変動や自律神経への影響が考えられる。排泄に関しては、トイレまでの移動や衣服の着脱も問題なく行えている。夜間は点滴ラインの管理のためポータブルトイレを使用することもあるが、日中はトイレを使用している。
入浴は入院中、週3回のシャワー浴を実施している。息切れ予防のためシャワー椅子に座って行い、看護師が付き添っている。洗髪や体を洗う動作は自立しているが、長時間の立位や前屈み姿勢で呼吸困難感が増強するため、適宜休憩を取りながら行っている。衣類の着脱も基本的に自立しているが、特に上衣の着脱時に腕を上げる動作で呼吸困難感が増強するため、時間をかけて行う必要がある。
現在のバイタルサインは、体温36.5℃、血圧132/78mmHg、脈拍78回/分と安定している。呼吸数は安静時18回/分と正常範囲内だが、労作時には増加する。SpO2は室内気で安静時98%と良好だが、活動時には95%程度まで低下することがある。これは間質性肺炎による拡散障害と、長期喫煙歴(40本/日×40年)に関連した慢性的な呼吸機能低下の複合的影響と考えられる。
A氏の呼吸機能検査では、%VC 72%(基準値≥80)、FEV1.0% 65%(基準値≥70)と拘束性換気障害と閉塞性換気障害の混合パターンを示している。拘束性障害は間質性肺炎の影響、閉塞性障害は長期喫煙による影響と考えられる。KL-6値は980U/mL(入院時1250U/mL)と高値であるが、治療により改善傾向にある。これらの検査値からも、呼吸機能の回復には時間を要することが予測される。
職業歴として、A氏は定年まで建設会社の現場監督として勤務していたが、現在は退職して年金生活を送っている。住居環境については詳細な記載がないため、自宅の間取りや段差の有無、移動距離などの情報収集が必要である。特に自宅での日常生活再開に向けて、トイレや浴室までの距離、階段の有無、生活空間の配置などが重要な情報となる。
血液データでは、RBC 4.3×10⁶/μL(基準値4.0-5.5)、Hb 12.5g/dL(基準値13.0-17.0)、Ht 40.2%(基準値40.0-50.0)と、ヘモグロビン値がわずかに低値を示している。これは肺癌や化学療法の影響による軽度の貧血状態と考えられるが、急性期の炎症反応は改善傾向にあり、CRPは0.8mg/dL(入院時3.8mg/dL)まで低下している。この軽度の貧血も活動時の息切れや倦怠感に影響している可能性がある。
転倒リスクについては、これまでの転倒歴はなく、現在の転倒リスクアセスメントでは中等度リスク(転倒リスクスケール10点)と評価されている。しかし、ステロイド投与による筋力低下、夜間の頻尿、血糖値の変動による低血糖リスクが転倒要因として存在する。特に夜間のポータブルトイレ使用時や、急な体位変換時のめまいに注意が必要であり、転倒予防のための環境整備と教育的介入が重要である。
A氏の活動-運動パターンにおける主な問題は、間質性肺炎による呼吸機能低下と活動耐性の低下である。65歳という年齢も考慮すると、呼吸機能の完全回復には時間を要する可能性が高い。また、ステロイド長期使用による筋力低下も懸念される。
今後の看護介入としては、①労作時の呼吸困難に対する段階的な活動計画(呼吸法の指導、休息の取り方)、②日常生活動作の省エネルギー技術の指導(着衣の工夫、動作の分割)、③活動と休息のバランスを考慮したスケジュール管理支援、④転倒予防のための環境整備と教育、⑤筋力維持・向上のための適切な運動指導が重要である。
特に退院に向けては、自宅環境を考慮した活動計画の作成と、家族への支援体制の確立が必要である。間質性肺炎の改善に伴い活動耐性は徐々に向上すると予測されるが、活動拡大は息切れや酸素飽和度の変化を指標として段階的に進める必要がある。また、肺癌治療再開時に再び活動耐性が低下する可能性もあるため、長期的な視点での活動-運動パターンの評価と支援が求められる。
看護問題の明確化
#間質性肺炎に関連した活動耐性の低下
#呼吸機能障害に関連した日常生活動作の制限
#ステロイド療法と活動制限に関連した筋力低下リスク
#複合的要因(夜間頻尿、めまい、薬物療法)に関連した転倒リスク
事例の目次
【ゴードン】肺癌 化学療法中に副作用(0020)| 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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