本事例の要約
非小細胞肺癌(腺癌)Stage IIIBと診断され、化学放射線療法後に維持療法としてペムブロリズマブによる免疫チェックポイント阻害剤治療を受けている患者が、治療3クール目で間質性肺炎を発症し、ステロイドパルス療法を行った事例。11月15日介入(入院11日目)。
9.性-生殖
A氏は65歳の男性であり、妻(62歳)と二人暮らしをしている。長男(38歳)と長女(35歳)は独立しており別世帯である。現在のA氏の状態は、右上葉原発非小細胞肺癌(腺癌)に対する治療中であり、さらに薬剤性間質性肺炎を発症して入院加療中である。また、基礎疾患として高血圧症と2型糖尿病を有している。
性・生殖機能に関する直接的な情報は限られているが、65歳という年齢を考慮すると、加齢に伴う性機能の変化が生じている可能性がある。一般的に高齢男性では、テストステロン分泌の減少により性欲の低下や勃起機能の変化が起こりうる。また、A氏の場合は進行性肺癌の治療中であり、化学放射線療法や免疫チェックポイント阻害剤による治療が性機能に影響を及ぼしている可能性がある。特に抗がん剤治療は性欲減退や精子形成障害などの副作用を引き起こすことがある。
さらに、現在はステロイド大量療法を受けており、プレドニゾロン50mg/日の投与は性ホルモンバランスに影響を与え、性機能に変化をもたらす可能性がある。ステロイドの長期使用は、視床下部-下垂体-性腺軸に作用し、性ホルモン分泌を抑制することがある。また、ステロイド使用による容姿の変化(満月様顔貌、中心性肥満など)が生じた場合、ボディイメージの変化から性的自己概念にも影響を及ぼす可能性がある。
A氏は妻との二人暮らしであり、長年の伴侶関係が構築されていると考えられる。入院中も妻が頻繁に面会に訪れていることから、夫婦関係は良好であると推測される。しかし、重篤な疾患に罹患している状況では、夫婦間の役割変化や関係性の変化が生じていることも考慮する必要がある。特に、A氏は定年まで建設会社の現場監督として働いていたことから、退職後も家庭内での役割意識が強い可能性がある。疾患によりそれらの役割が果たせないことでの自己価値感の低下が、性的自己概念にも影響を及ぼす可能性がある。
糖尿病の既往があることも性機能への影響要因として重要である。長期間の糖尿病は血管障害や神経障害を引き起こし、男性の勃起機能障害の原因となりうる。A氏の場合、糖尿病歴は8年であり、すでに両下肢末端に軽度のしびれ感があり、糖尿病による末梢神経障害の初期症状が認められていることから、性機能にも影響が出ている可能性がある。
A氏は几帳面で真面目な性格であり、自分の病気や治療について積極的に知識を得ようとする姿勢がある。しかし、性機能の問題については医療者に自発的に相談することが難しい場合が多く、本人から性に関する悩みが表出されない可能性がある。特に日本の文化的背景では、高齢者の性の問題は話題にされにくい傾向があり、A氏自身も遠慮がちな面があることから、性機能に関する悩みがあっても表出していない可能性が高い。
重要な点として、肺癌の進行状況や治療方針の変更による心理的影響も性機能に関与していると考えられる。A氏は免疫療法が中断されたことで「癌が進行するのではないか」という不安を抱えており、この精神的ストレスが性機能や性的関心に影響を与えている可能性がある。特に将来への不確実性は性的関心を減退させる要因となりうる。
看護介入として、まず患者のプライバシーに配慮しながら、性機能や性生活についての情報収集を行う必要がある。具体的には、病気や治療が性生活に与えている影響、性機能の変化の有無、それに伴う悩みなどについて、適切なタイミングと環境を設定して確認することが重要である。A氏の場合、妻が主要なサポート者であることから、夫婦関係や性生活に関する悩みについて、必要に応じて夫婦一緒に相談する機会を設けることも考慮すべきである。
また、薬物療法が性機能に与える影響についての情報提供も重要な介入である。特にステロイド療法やインスリン療法が及ぼす可能性のある影響について、適切な情報を提供し、症状の変化があれば相談できることを伝えておくことが望ましい。
さらに、入院中の療養環境におけるプライバシーの確保も重要な配慮点である。A氏と妻が必要に応じて二人だけで過ごせる時間や空間を確保することも、夫婦関係の維持に有効な支援となる。
退院後の生活に向けては、疾患や治療の経過に伴う性機能の変化と対処法について、必要に応じて情報提供を行い、夫婦間のコミュニケーションを促進するような支援が必要である。特に、性生活は身体的な側面だけでなく、親密さや情緒的な結びつきの表現でもあることを踏まえ、身体接触やコミュニケーションなど、性行為以外の親密さの表現方法についても情報提供することが有用である。
今後も間質性肺炎の治療およびステロイドの減量過程において、性機能や性的自己概念の変化について継続的に観察・評価していく必要がある。また、今後予定されている化学療法(ドセタキセル単剤療法)が開始された際には、新たな治療による性機能への影響についても注意深く観察し、必要に応じて支援を行うことが重要である。
看護問題の明確化
なし
事例の目次
【ゴードン】肺癌 化学療法中に副作用(0020)| 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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