本事例の要約
慢性膵炎の急性増悪で緊急入院となった65歳男性の事例。強い腹痛、背部痛、嘔吐を主訴に救急搬送され、入院となる。長年のアルコール多飲が原因と考えられる。入院後は絶食・補液管理となり、疼痛コントロールを実施している。介入日は6月15日(入院2日目)である。
看護計画#1
看護問題
#慢性膵炎の急性増悪の可能性
長期目標
退院までに膵炎の再燃なく経過し、自己管理方法を習得して再発予防ができる
短期目標
1週間以内に炎症所見(体温、WBC、CRP、膵酵素値)が改善し、疼痛が軽減する
≪O-P≫観察計画
・体温、脈拍、血圧、呼吸数、SpO2の変動を1日4回(朝・昼・夕・就寝前)確認する
・腹痛や背部痛の程度をNRSを用いて評価し、増強因子と緩和因子を確認する
・食事再開後の腹部症状(腹痛、嘔気、嘔吐、腹部膨満感)の有無と程度を確認する
・血液検査結果(WBC、CRP、アミラーゼ、リパーゼ)の推移を確認する
・腸蠕動音の頻度と性状を確認する
・排便の有無、性状、量を確認する
・尿量、尿の色調、濃度を確認する
・アルコール離脱症状(振戦、発汗過多、不眠、焦燥感、幻覚)の出現を確認する
・口渇感や口腔内の乾燥状態を確認する
・睡眠状態(入眠状況、中途覚醒、疼痛による睡眠妨害)を確認する
・患者の膵炎や生活習慣に関する知識レベルと理解度を確認する
≪T-P≫援助計画
・疼痛時はペンタゾシン15mgを医師の指示に従って4~6時間ごとに静脈注射する
・冷たいタオルを腹部に当てるなど、非薬物的な疼痛緩和方法を実施する
・体動時や深呼吸時に疼痛が増強しないよう、動作はゆっくり行うよう支援する
・末梢静脈からの補液(1日2000ml)を確実に実施し、輸液管理を行う
・寝衣交換や体位変換時は、疼痛を最小限にするよう配慮して介助する
・口腔ケアを1日3回実施し、口腔内の湿潤状態を保持する
・医師の許可範囲内で少量の水分摂取を支援する
・室温25~26℃、湿度50~60%程度に環境を調整する
・食事再開時は消化の良い流動食から段階的に開始し、患者の反応を観察する
・排便がない状態が続く場合は、医師と相談の上で緩下剤の使用を検討する
・安静時でも可能な範囲でのベッド上での軽い運動を支援する
・睡眠環境を整え、夜間の疼痛コントロールに努める
≪E-P≫教育・指導計画
・慢性膵炎の病態と急性増悪の原因について説明する
・アルコール摂取と膵炎の関連性について具体的に説明する
・膵炎再発予防のための生活習慣の改善点を説明する
・退院後の食事療法(脂肪制限食)について説明し、具体的な食品選択の指導を行う
・薬剤師と連携し、消化酵素薬など内服薬の作用と服用方法について説明する
・アルコールに代わるストレス対処法について情報提供し、患者に合った方法を一緒に検討する
・疼痛や体調不良時の対応方法と医療機関受診の目安について説明する
・家族(特に妻)に対して、患者の食事管理や服薬確認などの支援方法を説明する
・断酒会などの社会資源について情報提供する
・定期的な外来受診の重要性とスケジュールについて説明する
看護計画#2
看護問題
#慢性膵炎の急性増悪に伴う絶食管理に関連した栄養摂取不足
長期目標
退院までに適切な食事摂取が可能となり、膵臓に負担をかけない食事内容を理解し実践できる
短期目標
1週間以内に段階的な経口摂取が開始され、消化器症状なく摂取できる
≪O-P≫観察計画
・膵酵素値(アミラーゼ、リパーゼ)の推移を確認する
・腹痛や腹部不快感の有無と程度をNRSを用いて評価する
・吐き気・嘔吐の有無と程度、時間的変動を確認する
・口腔内の状態(乾燥、粘膜損傷、口内炎)を確認する
・口渇感の程度と水分摂取に対する反応を確認する
・食事再開後の食事摂取量と食欲の状態を確認する
・食事に対する嗜好や好み、アレルギーの有無を確認する
・排便の有無、性状、回数を確認する
・体重の変化を毎日同じ時間帯に測定する
・血液データの推移、特にアルブミン値と電解質値を確認する
・食事に関する知識レベルと理解度を確認する
≪T-P≫援助計画
・医師の指示に基づき末梢静脈からの補液(1日2000ml)を確実に実施する
・口腔ケアを1日6回(食前、食後、就寝前など)に増やし、保湿剤を使用する
・口渇感が強い場合は、医師に相談の上で少量の氷片や水分摂取を検討する
・食事再開時は、消化の良い流動食から開始し、患者の状態に合わせて段階的に食上げを行う
・食事摂取時は上半身を30度以上挙上し、誤嚥や消化不良を予防する
・食事は時間をかけてゆっくり摂取するよう支援する
・食事摂取量を正確に記録し、必要栄養量との差を評価する
・吐き気が強い場合は、医師と相談の上で制吐剤の使用を検討する
・腹部膨満感がある場合は、腹部のマッサージや温罨法を実施する
・定期的な体位変換を行い、腸蠕動を促進する
・食事再開後は、食事と薬剤の相互作用に注意し、服薬タイミングを調整する
・ストレスによる過食を防ぐため、リラックスできる食事環境を整える
≪E-P≫教育・指導計画
・慢性膵炎と食事の関係について説明し、膵臓に負担をかけない食事内容を指導する
・脂質制限食の必要性と具体的な食品選択方法について説明する
・アルコールが膵臓に及ぼす影響を説明し、禁酒の重要性を強調する
・1日3食規則正しい食事摂取の重要性と、少量頻回の食事方法について指導する
・外食時の食品選択方法や、市販食品の表示の見方について説明する
・栄養士と連携し、退院後の具体的な献立例や調理方法について指導する
・家族(特に妻)に対して、退院後の食事管理方法や支援方法を説明する
・食事摂取と体調変化の関連性について説明し、セルフモニタリングの方法を指導する
・水分摂取の重要性と適切な摂取量について説明する
・高血圧、脂質異常症、痛風の食事管理との統合的な食事計画について説明する
看護計画#3
看護問題
#慢性膵炎の急性増悪に伴う疼痛に関連した転倒リスク
長期目標
退院までに疼痛が緩和し、自立歩行が可能となり、転倒なく安全に日常生活を送ることができる
短期目標
1週間以内に疼痛が軽減し(NRS3以下)、短距離歩行時の安全な動作方法を習得する
≪O-P≫観察計画
・疼痛の程度をNRSで評価し、部位や性状、増強因子、緩和因子を確認する
・歩行状態、姿勢、バランス能力を観察する
・移動・移乗動作時の安全性を確認する
・点滴ルートの自己管理状況と刺入部の皮膚状態を確認する
・夜間のトイレ使用頻度と行動パターンを確認する
・眼鏡の使用状況と視覚的環境把握能力を確認する
・アルコール離脱症状(振戦、発汗過多、幻覚、不安、焦燥感)の有無を確認する
・睡眠状態と日中の覚醒度を確認する
・体動時の疼痛増強に対する対処行動を確認する
・環境認識や危険予測能力、安全に関する理解度を確認する
・焦りや不安など心理状態の変化を確認する
≪T-P≫援助計画
・ベッド周囲の環境を整備し、不要な物品を撤去する
・ナースコール、飲み物、眼鏡など必要物品をベッドサイドの手の届く位置に配置する
・夜間はセンサーライトなどを活用し、適切な照明を確保する
・トイレ誘導時は特に注意し、必要に応じて見守りや付き添いを行う
・点滴ルートは適切な長さと固定方法で管理し、移動時に引っ張られないよう調整する
・疼痛時には速やかに対応し、医師の指示に従って鎮痛薬を投与する
・体位変換時や移動時は疼痛を考慮し、ゆっくりと動作するよう支援する
・初回歩行時や長距離移動時は必ず付き添い、安全を確保する
・定期的に体位変換を促し、同一体位による圧迫を避ける
・車椅子使用時はフットレストの位置や車椅子のブレーキ確認を徹底する
・廊下の歩行訓練時は手すりの使用を促し、近くで見守る
・転倒リスクの高い時間帯(夜間、早朝、疼痛増強時)は特に注意し、必要に応じてベッド柵を使用する
≪E-P≫教育・指導計画
・疼痛時の適切な報告と対処方法について説明する
・点滴ルート管理の注意点と移動時の取り扱い方を説明する
・ナースコールの使用方法と、援助が必要な際の連絡方法を説明する
・夜間トイレに行く際の安全な移動方法(ゆっくり起き上がる、明かりをつける等)を説明する
・無理な体動を避け、痛みに応じた動作調整の必要性を説明する
・妻に対して、面会時の安全な移動介助方法や注意点を説明する
・退院に向けて自宅環境の危険因子(段差、照明不足等)確認と対策について説明する
・アルコール離脱症状の初期徴候と、症状出現時の対応について説明する
・早期離床と段階的な活動拡大の重要性について説明する
・退院後の生活における転倒予防策(手すりの設置、適切な履物の選択等)について説明する
事例の目次
【ヘンダーソン】慢性膵炎 入院2日目(0019)| 今回の情報
1.正常に呼吸する
2.適切に飲食する
3.あらゆる排泄経路から排泄する
4.身体の位置を動かし、また良い姿勢を保持する
5.睡眠と休息をとる
6.適切な衣類を選び、着脱する
7.体温を生理的範囲内に維持する
8.身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する
9.環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする
10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは気分を表現して他者とコミュニケーションを持つ
11.自分の信仰に従って礼拝する
12.達成感をもたらすような仕事をする
13.遊び、あるいはさまざまな種類のレクリエーションに参加する
14.正常な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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