本事例の要約
慢性膵炎の急性増悪で緊急入院となった65歳男性の事例。強い腹痛、背部痛、嘔吐を主訴に救急搬送され、入院となる。長年のアルコール多飲が原因と考えられる。入院後は絶食・補液管理となり、疼痛コントロールを実施している。介入日は6月15日(入院2日目)である。
5.睡眠と休息をとる
A氏の睡眠状態については、入院前は仕事の疲れもあり入眠は比較的容易であったものの、アルコールの影響で睡眠の質は良くなかった。中途覚醒が多く、特に夜間3時頃に目覚め、その後再入眠困難なことがしばしばあった。睡眠時間は平均5~6時間程度であり、一般的な成人の推奨睡眠時間(7~8時間)よりやや短い状態であった。眠剤の常用はなかった。このような睡眠パターンは、アルコールによる睡眠の質の低下と、仕事のストレスによる睡眠障害の可能性を示唆している。特にアルコールは入眠を促進する作用がある一方で、睡眠の後半に覚醒を増加させ、睡眠の質を低下させることが知られている。A氏の場合、長期間のアルコール摂取習慣により、健全な睡眠サイクルが阻害されていた可能性が高い。
入院後の睡眠状態は、入院初日は腹痛により断続的な睡眠となり、疼痛時には看護師を呼び鎮痛薬の投与を受けていた。入院2日目の夜間は疼痛のコントロールが改善し、4時間程度のまとまった睡眠が取れるようになったが、病棟環境に慣れていないこともあり浅眠傾向である。現在のA氏の睡眠は、疼痛という身体的要因と、入院環境への適応という環境的要因の両方の影響を受けている。また、アルコール摂取の急な中断による生理的な変化も睡眠パターンに影響を与える可能性がある。
疼痛に関しては、現在上腹部から背部にかけての疼痛があり、安静時のNRS(Numerical Rating Scale)は3~4/10、体動時や深呼吸時には6~7/10程度と変動する。ペンタゾシン15mg/回を4~6時間ごとに静脈注射で疼痛コントロールが行われており、それにより若干の鎮静効果も得られている状態である。疼痛は睡眠の質と量に直接的な影響を与える主要な因子であり、特に夜間の疼痛増強は中途覚醒や入眠困難の原因となる。A氏の場合、日中の疼痛コントロールは比較的良好だが、夜間の体位変換や深呼吸時に疼痛が増強する可能性があり、睡眠への影響が懸念される。また、冷たいタオルを腹部に当てることで疼痛が和らぐとの本人の訴えがあり、これは非薬物的な疼痛緩和策として活用できる。掻痒感については情報がなく、評価が必要である。
安静度に関しては、腹痛・背部痛のため短距離のみゆっくり歩行可能で、長距離は車椅子を使用している。移乗動作は自立しているが、急な体動で痛みが増強するため慎重に行動している状況である。このような活動制限は、日中の活動量を減少させ、結果として夜間の睡眠に影響する可能性がある。通常、適度な日中活動は夜間の深い睡眠を促進するが、過度の安静は逆に睡眠の質を低下させることがある。
入眠剤については、現在は使用されていない。入院前も眠剤の常用はなく、アルコールが実質的な入眠促進剤として機能していた可能性がある。看護介入としては、現時点では非薬物的な睡眠促進策(就寝前のリラクゼーション、快適な睡眠環境の整備など)を優先し、それでも睡眠が得られない場合に医師と相談の上で適切な薬剤の使用を検討することが望ましい。
疲労の状態については、A氏は中小企業の経理部長という責任ある立場で働いており、日常的に仕事のストレスを抱えていた。今回の入院に際して3週間の休職届を提出しているが、「早く復帰しないと部下に迷惑がかかる」と焦りの言葉も聞かれており、心理的な疲労や緊張状態にあると推測される。また、疼痛による身体的な疲労も存在すると考えられる。疲労の具体的な程度や日内変動については情報が少なく、詳細な評価が必要である。65歳という年齢を考慮すると、若年者と比較して疲労からの回復に時間を要する可能性があり、休息の質と量の確保がより重要となる。
療養環境への適応状況については、A氏は意識清明で見当識も保たれており、入院による環境変化での一時的な混乱もなく、医療者とのコミュニケーションは良好である。しかし、病棟環境に慣れていないことが睡眠の浅さに影響していると記録されており、入院環境への適応過程にあると考えられる。特に病院特有の音(医療機器の音、スタッフの会話、他患者の物音など)や照明、ベッドの寝心地などが睡眠に影響している可能性がある。ストレス状況については、仕事関連のストレスに加え、今回の入院の原因が自身の飲酒習慣にあることを認識し、複雑な心境を抱えている。「こんなに痛いなら、もう酒は控えなきゃいけないのかな」と自問自答する様子や、「医者の言うことを聞いておけばよかった」と後悔の念を表すなど、心理的な葛藤状態にある。このような心理状態は睡眠に直接影響を与える要因となり得る。
看護介入としては、まず疼痛コントロールの最適化が重要である。就寝前の計画的な鎮痛薬投与や、非薬物的な疼痛緩和策(冷罨法、安楽な体位の工夫など)の活用を検討する。また、睡眠環境の整備(適切な室温・湿度・照明の調整、騒音の軽減など)や、睡眠前のリラクゼーション促進(温かい飲み物の提供、リラックスできる音楽の活用など)も効果的である。日中は可能な範囲での活動を促し、生活リズムの調整を図ることも重要である。さらに、A氏の心理的ストレスに対しては、傾聴の機会を設け、不安や葛藤の表出を促すことが望ましい。
アルコール依存の可能性についても考慮し、睡眠障害がアルコール離脱症状の一部である可能性にも注意を払う必要がある。現時点では振戦や発汗過多、幻覚などの明らかな離脱症状は認めていないが、不眠はより軽微な離脱症状として出現する可能性がある。必要に応じて精神科医師との連携も検討する。
以上のアセスメントから、A氏の睡眠と休息に関するニーズは現時点では十分に充足されていない状態にある。入院初日は疼痛により断続的な睡眠となり、入院2日目にはやや改善したものの4時間程度の睡眠で浅眠傾向が続いている。入院前から存在していた睡眠の質の問題に加え、現在は疼痛、入院環境への適応、アルコール摂取中止の影響、心理的ストレスなど、複数の要因が睡眠を阻害している可能性がある。特に急性疾患の回復過程において十分な休息と睡眠は治癒を促進する重要な要素であり、A氏の場合は膵炎の改善と疼痛コントロールが進むことで睡眠状態も改善することが期待される。しかし、入院が長期化した場合や、アルコール問題が根本的に解決されない場合は、睡眠障害が慢性化するリスクもある。そのため、短期的な睡眠改善のための介入と、長期的な生活習慣改善を含めた包括的なアプローチが必要である。
看護問題の明確化
#慢性膵炎の急性増悪に伴う疼痛と療養環境の変化に関連した睡眠障害
事例の目次
【ヘンダーソン】慢性膵炎 入院2日目(0019)| 今回の情報
1.正常に呼吸する
2.適切に飲食する
3.あらゆる排泄経路から排泄する
4.身体の位置を動かし、また良い姿勢を保持する
5.睡眠と休息をとる
6.適切な衣類を選び、着脱する
7.体温を生理的範囲内に維持する
8.身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する
9.環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする
10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは気分を表現して他者とコミュニケーションを持つ
11.自分の信仰に従って礼拝する
12.達成感をもたらすような仕事をする
13.遊び、あるいはさまざまな種類のレクリエーションに参加する
14.正常な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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