本事例の要約
慢性膵炎の急性増悪で緊急入院となった65歳男性の事例。強い腹痛、背部痛、嘔吐を主訴に救急搬送され、入院となる。長年のアルコール多飲が原因と考えられる。入院後は絶食・補液管理となり、疼痛コントロールを実施している。介入日は6月15日(入院2日目)である。
7.体温を生理的範囲内に維持する
A氏は65歳の男性で、現在慢性膵炎の急性増悪により入院している。入院時(6月14日)のバイタルサインは体温37.8℃、脈拍96回/分・整、血圧158/92mmHg、呼吸数22回/分、SpO₂96%(room air)であり、入院2日目(6月15日)のバイタルサインは体温37.2℃、脈拍84回/分・整、血圧142/88mmHg、呼吸数18回/分、SpO₂98%(room air)となっている。入院時と比較すると、体温は0.6℃低下し、脈拍数も減少しているが、依然として微熱状態が持続している。
血液データでは、入院時のWBCが12500/μLと基準値(3500-9500/μL)より明らかに上昇しており、CRPも5.8mg/dLと著明に上昇していた。入院2日目には、WBCが10800/μL、CRPが4.2mg/dLと若干の改善傾向はあるものの、依然として炎症反応の持続を示している。これらの所見から、膵炎に伴う炎症反応の存在が体温上昇の主な要因と考えられる。
感染症に関しては、現病歴や既往歴で明らかな感染症の記載はなく、また入院後の経過からも新たな感染症を示唆する所見は認められていない。しかし、慢性膵炎の急性増悪に伴う膵周囲の炎症が存在し、これが体温上昇の原因となっていると考えられる。
ADLについては、入院前は自立していたが、現在は腹痛・背部痛のため活動が制限されている。短距離のみゆっくり歩行可能で、長距離は車椅子を使用している状態である。疼痛による活動制限があるため、熱産生と放熱のバランスに影響を与えている可能性がある。特に、安静にしていることで筋活動による熱産生は低下しているが、同時に体動による放熱も減少していると考えられる。
療養環境の温度、湿度、空調に関する具体的な情報は提供されていないため、情報収集が必要である。季節は6月であり、一般的に病室の温度管理は適切に行われていると推測されるが、患者の体温調節機能に影響を与える環境因子として、室温や寝具の状態を確認する必要がある。
年齢的要素として、A氏は65歳であり、加齢に伴う体温調節機能の変化が生じている可能性がある。高齢者では熱放散機能や発汗機能が低下していることがあり、微熱の持続に影響を与えている可能性も考慮する必要がある。しかし、A氏は65歳という比較的若い高齢者であり、加齢による体温調節機能の著明な低下は少ないと考えられる。
また、A氏は禁酒による離脱症状に注意が必要な状態であるが、現時点では振戦や発汗過多、幻覚などの明らかな離脱症状は認められていない。しかし、アルコール離脱症状が出現した場合、自律神経機能の変調により体温調節に影響を与える可能性があるため、継続的な観察が必要である。
看護介入としては、まず定期的なバイタルサイン測定による体温の推移の観察が重要である。体温測定は少なくとも1日4回(朝・昼・夕・就寝前)実施し、37.5℃以上の発熱がある場合には医師に報告し、解熱剤の使用を検討する必要がある。
次に、適切な環境調整を行うことが重要である。室温は25〜26℃程度、湿度は50〜60%程度に維持し、患者の快適性を確保する。寝具は必要に応じて調整し、発熱時には衣類や掛け物を軽減して放熱を促進させる配慮が必要である。
また、十分な水分摂取を確保することも重要である。A氏は現在絶食中で末梢静脈からの補液(1日2000ml)を受けているが、口渇感が強いとの訴えがあるため、医師の許可を得て少量の水分摂取を検討することも有益かもしれない。
さらに、体温上昇の原因となっている膵炎の治療効果を継続的に評価することが重要である。血液検査値の推移、特に膵酵素値(アミラーゼ、リパーゼ)や炎症反応(WBC、CRP)の変化を注意深く観察し、治療の効果や疾患の経過を評価していく必要がある。
アルコール離脱症状の出現にも注意を払い、振戦、発汗過多、頻脈、血圧上昇などの徴候が見られた場合には速やかに対応する準備が必要である。特に離脱症状が悪化した場合には、体温上昇を伴うことがあるため、注意深い観察が求められる。
以上のアセスメントから、A氏の「体温を生理的範囲内に維持する」ニーズは現時点では部分的に充足されていない状態である。微熱が持続しており、膵炎に伴う炎症反応が存在するためである。しかし、入院時と比較して体温は低下傾向にあり、治療の効果が現れ始めていると考えられる。継続的な観察と適切な看護介入により、このニーズの充足を図ることが重要である。
看護問題の明確化
#慢性膵炎の急性増悪の可能性
事例の目次
【ヘンダーソン】慢性膵炎 入院2日目(0019)| 今回の情報
1.正常に呼吸する
2.適切に飲食する
3.あらゆる排泄経路から排泄する
4.身体の位置を動かし、また良い姿勢を保持する
5.睡眠と休息をとる
6.適切な衣類を選び、着脱する
7.体温を生理的範囲内に維持する
8.身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する
9.環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする
10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは気分を表現して他者とコミュニケーションを持つ
11.自分の信仰に従って礼拝する
12.達成感をもたらすような仕事をする
13.遊び、あるいはさまざまな種類のレクリエーションに参加する
14.正常な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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