【ヘンダーソン】慢性膵炎 入院2日目(0019)| 4.身体の位置を動かし、また良い姿勢を保持する

ヘンダーソン

事例の要約

慢性膵炎の急性増悪で緊急入院となった65歳男性の事例。強い腹痛、背部痛、嘔吐を主訴に救急搬送され、入院となる。長年のアルコール多飲が原因と考えられる。入院後は絶食・補液管理となり、疼痛コントロールを実施している。介入日は6月15日(入院2日目)である。

4.身体の位置を動かし、また良い姿勢を保持する

A氏の日常生活動作(ADL)については、入院前は自立していたが、現在は慢性膵炎の急性増悪による腹部痛・背部痛のため活動制限がある。歩行は短距離のみゆっくり歩行可能で、長距離移動時は車椅子を使用している。移乗動作は自立しているが、急な体動で痛みが増強するため慎重に行動している。排泄に関しては排尿は尿器を自力で使用可能だが、腹圧による疼痛増強がある。入浴は実施せず、清拭で身体清潔を保持している。衣類の着脱は基本的に自立だが、上肢挙上時に疼痛増強があり、一部介助を要する状況である。これらの活動制限は疾患に伴う一時的なものであり、基本的な運動機能は保たれているが、疼痛による防御性の動作制限が主な要因となっている。神経学的な麻痺は認められず、骨折の既往もない。

ドレーンや点滴に関しては、末梢静脈路が確保されており、補液療法が実施されている。具体的な点滴の部位や固定状況、輸液ポンプの使用有無などの詳細情報はないが、A氏は現役の経理部長であり手指の巧緻性は保たれていると推測され、点滴自己抜去のリスクは低いと考えられる。ただし、疼痛や体動に伴う点滴トラブル(閉塞、漏れ、固定の緩み等)のリスクはあるため、移動時や体位変換時の点滴ラインの管理が必要である。また、ドレーンの有無については明確な記載がないが、膵炎の重症度や治療方針から判断して現時点では留置されていない可能性が高い。

生活習慣については、A氏は中小企業の経理部長として現役で働いており、几帳面で真面目な性格である。仕事のストレスから休日の飲酒量が多い傾向にあり、日本酒を毎晩2~3合、週末は4~5合と大量に摂取する習慣があった。喫煙歴は20本/日×30年だが、5年前に禁煙に成功している。認知機能に問題はなく、意識清明で見当識も保たれている。入院による環境変化での一時的な混乱もなく、医療者とのコミュニケーションは良好である。これらの情報から、A氏は指示理解力があり、協力的な態度を示していると考えられる。しかし、几帳面な性格と仕事への責任感から、早期退院への焦りや自身の回復状況に対する過度な期待を持つ可能性があり、無理な活動により症状が悪化するリスクに注意が必要である。

ADLに関連した呼吸機能については、来院時は呼吸数22回/分と軽度の頻呼吸を呈していたが、入院2日目には呼吸数18回/分、SpO₂98%(room air)と改善している。疼痛により深呼吸が制限される状況にあり、体動時や深呼吸時にはNRS(Numerical Rating Scale)で6~7/10程度の疼痛が生じる。そのため、無意識的に浅い呼吸パターンとなりやすく、特に活動時の呼吸状態に注意が必要である。また、65歳という年齢と長期喫煙歴(20本/日×30年)を考慮すると、潜在的な呼吸機能低下の可能性があり、活動に伴う呼吸状態の変化を観察する必要がある。長期的には活動制限による廃用症候群のリスクもあり、特に肺合併症(無気肺、肺炎等)の予防を意識した早期離床の促進が重要である

転倒転落のリスクに関しては、A氏は転倒歴がなく、意識清明で認知機能に問題はない。しかし、複数の転倒リスク因子が存在する。65歳という年齢、急性疾患による全身状態の変化、疼痛による動作制限、点滴の使用、夜間の睡眠状態が断続的であること、環境の変化などが挙げられる。特に疼痛による注意力の分散や防御性の姿勢、体動時の急な痛みによるバランス崩れのリスクがある。さらに、入院前はアルコールを大量に摂取する習慣があり、アルコール離脱症状の出現による転倒リスクも考慮する必要がある。現時点では明らかな離脱症状は認めていないが、継続的な観察が必要である。

看護介入としては、まず疼痛コントロールを適切に行い、活動への影響を最小限にすることが重要である。現在実施されているペンタゾシンによる疼痛管理に加え、体位の工夫や温罨法・冷罨法の活用など、非薬物的な疼痛緩和策も検討する。移動時には必要に応じた見守りや介助を行い、点滴の管理にも配慮する。また、可能な範囲での早期離床を促進し、ベッド上でも関節可動域を維持するための運動を指導することが望ましい。

環境整備としては、ベッドの高さの調整、夜間のトイレ誘導の時間設定、必要物品の配置の工夫などを行い、安全な活動を支援する。特に疼痛による急な動作の制限を考慮し、ベッド周囲の整理整頓や転倒防止策(滑り止めマットの使用、ベッド柵の適切な配置など)を講じる必要がある。

また、A氏と妻に対して、現在の活動制限が一時的なものであること、回復に伴って段階的に活動を拡大していくことの説明を行い、過度な不安や焦りを軽減することも重要である。特に「早く復帰しないと部下に迷惑がかかる」という思いから無理をするリスクがあるため、適切な疾患理解と現実的な回復見通しを共有することが望ましい。

以上のアセスメントから、A氏の身体の位置を動かし、また良い姿勢を保持するというニーズは現時点では部分的に充足されていない状態にある。基本的な運動機能は保たれているものの、疼痛による活動制限があり、特に歩行や上肢の挙上、腹圧をかける動作などに制限がある。この状況は疾患の回復とともに改善が期待されるが、長期化すると廃用症候群のリスクが高まるため、早期からの適切な活動支援と段階的な活動拡大が必要である。また、転倒リスクがあることから安全面への配慮も欠かせない。疼痛コントロールの改善、環境調整、早期離床の促進など、複合的な看護介入を通じて、このニーズの充足を目指すことが重要である。

看護問題の明確化

#慢性膵炎の急性増悪に伴う疼痛に関連した活動耐性低下

事例の目次

この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

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