本事例の要約
慢性膵炎の急性増悪で緊急入院となった65歳男性の事例。強い腹痛、背部痛、嘔吐を主訴に救急搬送され、入院となる。長年のアルコール多飲が原因と考えられる。入院後は絶食・補液管理となり、疼痛コントロールを実施している。介入日は6月15日(入院2日目)である。
9.環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする
A氏は65歳の男性で、慢性膵炎の急性増悪により入院中である。認知機能に関しては、入院前から問題はなく、入院による環境変化での一時的な混乱もなく、意識清明で見当識も保たれている状態である。医療者とのコミュニケーションも良好であることから、危険因子の理解と回避に必要な認知機能は十分に保たれていると判断できる。
現在の身体状況としては、上腹部から背部にかけての疼痛があり、NRSで安静時3〜4/10、体動時6〜7/10と評価されている。このため、歩行は短距離のみゆっくり可能で、長距離は車椅子を使用している。移乗動作は自立しているが、急な体動で痛みが増強するため慎重に行動している状態である。この疼痛による動作制限は、転倒や外傷のリスク因子となり得る。入院前の転倒歴はないとされているが、疼痛や入院環境への不慣れさから、転倒リスクが高まっている可能性がある。
点滴ルートについては、末梢静脈路が確保されており、補液が1日2000ml継続されている。点滴ルートの自己管理能力に関する具体的な情報はないが、認知機能に問題がないことから基本的な理解はあると推測される。しかし、疼痛による動作制限があるため、体動時にルートを引っ張るなどの事故が起こる可能性はある。点滴刺入部の皮膚損傷や感染兆候の有無に関する情報は不足しているため、アセスメントが必要である。
皮膚損傷の有無については具体的な記載がないが、65歳という年齢と、疼痛による活動制限から、特に仙骨部や踵部など圧迫を受けやすい部位の皮膚損傷リスクを評価する必要がある。また、末梢静脈路確保部位の皮膚状態も確認が必要である。
感染予防対策に関しては、A氏自身の手洗い習慣や面会制限に関する具体的な情報は記載されていない。しかし、血液データでは入院時のWBCが12500/μLと基準値(3500-9500/μL)より上昇しており、CRPも5.8mg/dLと著明に上昇していた。入院2日目には、WBCが10800/μL、CRPが4.2mg/dLと若干の改善傾向はあるものの、依然として炎症反応が持続している。このような状態では、免疫機能が低下している可能性があり、感染リスクに注意が必要である。
加齢に関連する要素として、A氏は65歳であり、若年者と比較すると平衡機能や筋力がやや低下している可能性がある。このことは転倒リスクに影響を与え得る要素である。また、視力については矯正視力1.0で普段は近用眼鏡を使用しているとのことだが、入院環境での夜間の視認性や、眼鏡の使用状況によっては、環境把握に影響が出る可能性もある。
アルコール摂取については、日本酒を毎晩2〜3合、週末は4〜5合と大量に摂取する習慣があった。入院による強制的な断酒状態となっているが、現時点ではアルコール離脱症状の出現はないとされている。しかし、入院後数日での離脱症状出現の可能性は残されており、アルコール離脱せん妄のリスクについても継続的な観察が必要である。特に振戦や発汗過多、幻覚などの症状が出現した場合には、安全確保のための迅速な対応が必要となる。
看護介入としては、まず環境整備と転倒リスクの軽減が重要である。病室内の環境確認を行い、ベッド周囲の不必要な物品を整理し、転倒の危険因子となる障害物を除去する。また、必要な物品(ナースコール、水分、眼鏡など)を手の届く範囲に配置し、特に夜間のトイレ使用時の安全確保について指導する。
点滴管理に関しては、点滴ルートの固定状態を定期的に確認し、体動時にルートが引っ張られないよう適切な長さと固定方法を工夫する。また、刺入部の観察を継続し、発赤や腫脹などの感染兆候がないか確認する。
皮膚の保護については、特に圧迫を受けやすい部位の定期的な観察と、体位変換の実施が重要である。必要に応じて減圧マットレスの使用や、皮膚の保湿ケアも検討する。
感染予防の観点からは、A氏自身の手指衛生の重要性について教育し、特に食事再開後は食前の手洗いの徹底を図る。また、医療者も標準予防策を遵守し、特に侵襲的な処置の際には無菌操作を徹底する。面会者に対しても、手指衛生の実施や、感冒症状がある場合の面会制限について説明する必要がある。
アルコール離脱症状の観察も重要であり、特に入院後3〜4日間は注意深く観察を続ける必要がある。振戦、発汗過多、頻脈、血圧上昇、幻覚などの症状が出現した場合には迅速に対応し、必要に応じて医師と協議して薬物療法を検討する。
さらに、A氏の心理的側面にも配慮が必要である。入院による環境変化やストレスが不安や焦燥感を引き起こし、それが安全行動に影響を与える可能性がある。特に「早く復帰しないと部下に迷惑がかかる」という発言からは、仕事への焦りが窺えるため、焦りによる無理な行動を防ぐための心理的支援も重要である。
A氏の妻が協力的であることを活かし、家族と連携した安全確保の体制を構築することも有効である。面会時に安全な移動方法や環境の利用について説明し、共通理解を深める。
以上のアセスメントから、A氏の「環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする」ニーズは、認知機能は保たれているものの、疼痛による動作制限とアルコール離脱症状の潜在的リスクがあるため、現時点では部分的に充足されていない状態である。適切な環境調整と継続的な観察、予防的介入により、このニーズの充足を図る必要がある。
看護問題の明確化
#慢性膵炎の急性増悪に伴う疼痛に関連した転倒リスク
事例の目次
【ヘンダーソン】慢性膵炎 入院2日目(0019)| 今回の情報
1.正常に呼吸する
2.適切に飲食する
3.あらゆる排泄経路から排泄する
4.身体の位置を動かし、また良い姿勢を保持する
5.睡眠と休息をとる
6.適切な衣類を選び、着脱する
7.体温を生理的範囲内に維持する
8.身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する
9.環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする
10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは気分を表現して他者とコミュニケーションを持つ
11.自分の信仰に従って礼拝する
12.達成感をもたらすような仕事をする
13.遊び、あるいはさまざまな種類のレクリエーションに参加する
14.正常な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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