【ヘンダーソン】慢性心不全 急性増悪[高血圧・糖尿病あり](0023)| 14.”正常”な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる

ヘンダーソン

事例の要約

慢性心不全を基礎疾患に持つ患者が、急性増悪により救急搬送され入院した事例。患者は高血圧症と2型糖尿病の既往があり、自宅で突然の呼吸困難と胸部不快感を自覚し救急要請した。入院後は心不全治療とともに、患者の日常生活動作の拡大と再発予防に向けた指導を行っている。介入日は11月15日、入院後5日目である。

14.”正常”な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる

A氏は72歳の男性であり、エリクソンの発達段階では「統合 対 絶望」の段階にある。この段階では、これまでの人生を振り返り、意味や価値を見出すことが発達課題となる。A氏は5年前に定年退職しており、職業的役割から離れ、趣味や家族との関係性を通じて新たな生きがいを模索している時期であると考えられる。「趣味の庭仕事や散歩を続けたい」という希望を持っており、これらの活動を通じて自己実現を図りたいという思いがうかがえる。高齢期における自己実現と生きがいの追求が、A氏の現在の発達段階における重要な課題である。

A氏の疾患と治療方法の理解については、「また同じことを繰り返してしまった」という発言から、自身の慢性心不全が再発したことを認識している様子がうかがえる。さらに「今回こそは医師や看護師の言うことをしっかり守らないといけない」という前向きな発言があることから、治療の重要性についても一定の理解があると考えられる。一方で「好きな料理や飲み物を我慢するのは辛い」という発言もあり、治療の必要性は理解しているものの、実際の生活の中で治療を継続することへの葛藤や困難さを感じている状況である。

A氏の認知機能は良好で、日常生活に支障をきたすような認知機能の低下は認められず、会話の理解力も良好であり、医療者の説明を理解する能力に問題はないとされている。このことから、疾患や治療に関する情報を適切に理解し、学習する能力は保持されていると判断できる。しかし、高齢であることを考慮すると、一度に多くの情報を提供するよりも、重要な情報を分かりやすく、段階的に提供する教育的アプローチが効果的である。また、高齢に伴う感覚機能の変化として、近視であり老眼鏡を使用していることや、聴力は年齢相応であるがやや大きめの声で話しかけると反応が良いなどの特徴があるため、教育的介入を行う際には、視覚・聴覚機能を補完するための配慮が必要である。

学習意欲については、直接的な情報が限られているが、「今回こそは医師や看護師の言うことをしっかり守らないといけない」という発言からは、健康管理に対する意欲の高まりが感じられる。このような前向きな姿勢は、新たな知識や技術を学ぶ上での基盤となるものであり、退院指導や自己管理教育において活かすべき重要な要素である。しかし、内服薬の管理に関しては、入院前は自己管理であったが「飲み忘れがたまにある」という状況があり、特に外出時や疲れている時に服薬を忘れることがあった。また、糖尿病に対する自己管理意識が低く、内服の重要性についての理解が十分でない面があるという情報もある。これらの点から、疾患や治療に対する理解度にはばらつきがあり、特に慢性疾患の自己管理に関する教育的ニーズがあると考えられる。

家族の参加度合いについては、キーパーソンである妻が入院時の手続きや面会に来ており、「夫が友人と会う機会が増えると、つい飲酒や塩分の多い食事を摂ってしまう」と心配している発言や、「私が目を光らせていないといけないのが大変」と介護負担を感じている様子が見られる。一方で「食事の工夫をもっと勉強したい」と前向きな姿勢も示している。このことから、妻はA氏の健康管理に積極的に関わる意欲を持っており、学習への参加意欲も高いと判断できる。妻との二人暮らしであることを考慮すると、妻もA氏の疾患管理に重要な役割を担っており、退院後の生活においても重要なサポート者となることが予想される。そのため、妻を含めた教育的介入を計画することが、退院後の自己管理の成功につながる可能性が高い。

A氏の学習ニーズとしては、慢性心不全の自己管理(塩分・水分制限、体重管理、症状の自己モニタリング)、高血圧・糖尿病・慢性腎臓病などの基礎疾患の管理、服薬管理などが挙げられる。特に「好きな料理や飲み物を我慢するのは辛い」という発言から、食事・水分制限に関する実践的な知識(例:減塩の工夫、水分制限の中での喉の渇きへの対応など)が必要と考えられる。また、服薬アドヒアランスの向上に向けた工夫や、症状悪化の早期発見のためのセルフモニタリング方法なども重要な学習内容となる。

看護介入としては、まずはA氏の現在の疾患理解度や自己管理の状況を詳細に評価し、個別の教育計画を立案する必要がある。その際には、高齢であることを考慮し、一度に多くの情報を提供せず、優先度の高い内容から段階的に進めることが重要である。また、視覚・聴覚機能を補完するために、大きな文字で書かれた資料の使用や、静かな環境での説明、適切な照明の確保などの工夫が必要である。

退院指導においては、妻も含めた指導を行い、特に妻の「食事の工夫をもっと勉強したい」という意欲を活かした調理指導や、服薬管理の方法(一包化した薬剤の活用、お薬手帳の利用など)についての具体的な説明が有効である。また、症状悪化のサイン(呼吸困難感、浮腫の増加、急激な体重増加など)と対応策についての説明も重要である。

さらに、退院後も継続的な学習の機会を提供するために、外来での定期的なフォローアップや、地域の訪問看護サービスの活用、糖尿病教室などの患者教育プログラムへの参加を促すことが望ましい。特に、医師からは「退院後の糖尿病教室への参加が推奨されている」との情報があり、このような機会を活用することで学習を継続することができる。

A氏の「正常な発達および健康を導くような学習」に関するニーズの充足状況を評価すると、疾患や治療に関する基本的な理解はあるものの、具体的な自己管理スキルやその重要性についての理解が不十分であり、特に服薬管理や食事・水分制限の実践面での課題が見られる。また、複数の慢性疾患を持つ高齢者であることから、包括的かつ個別的な健康教育が必要な状況にある。現時点では入院という環境下で医療者からの指導を受ける機会はあるが、退院後の生活における自己管理の実践に向けた準備は途上であり、学習に関するニーズは部分的にしか充足されていない状態である。今後の退院指導や外来でのフォローアップを通じて、段階的にニーズを充足していくことが必要である。

看護問題の明確化

慢性心不全の自己管理に関連した知識不足

事例の目次

この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

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