【ヘンダーソン】慢性心不全 急性増悪[高血圧・糖尿病あり](0023)| 1.正常に呼吸する

ヘンダーソン

事例の要約

慢性心不全を基礎疾患に持つ患者が、急性増悪により救急搬送され入院した事例。患者は高血圧症と2型糖尿病の既往があり、自宅で突然の呼吸困難と胸部不快感を自覚し救急要請した。入院後は心不全治療とともに、患者の日常生活動作の拡大と再発予防に向けた指導を行っている。介入日は11月15日、入院後5日目である。

1.正常に呼吸する

A氏は慢性心不全の急性増悪により入院した72歳男性である。慢性心不全は心臓のポンプ機能が低下し、全身に十分な血液を送り出せなくなる疾患である。その結果、肺うっ血が生じて呼吸困難や酸素化不良を引き起こし、末梢では浮腫が現れる。A氏の場合、心エコー検査では左室駆出率40%と左室収縮機能低下がみられ、心電図では心房細動を呈している。これらの心機能低下が肺うっ血を引き起こし、呼吸状態に悪影響を及ぼしていると考えられる。

A氏は来院時、呼吸数28回/分と著明な頻呼吸を呈し、SpO2は室内気で88%と低下していた。また聴診では両側下肺野で湿性ラ音を聴取しており、胸部レントゲンでは肺うっ血像が認められた。これらの所見から、心不全による肺うっ血が呼吸状態悪化の主因であることが示唆される。入院5日目の現在では、利尿薬治療と安静により呼吸状態は改善し、呼吸数18回/分、SpO2は室内気で96%と正常範囲に回復している。また湿性ラ音も消失しており、肺うっ血が改善していることが示唆される。しかし、労作時の息切れは残存しており、特に階段昇降や長距離歩行時に息切れが出現するため、完全な回復には至っていない。動脈血ガス分析では、来院時はpH 7.32、PaO₂ 65mmHg、PaCO₂ 48mmHgと軽度の呼吸性アシドーシスと低酸素血症を呈していたが、現在ではpH 7.38、PaO₂ 85mmHg、PaCO₂ 42mmHgと改善している。

A氏は来院時、呼吸困難感が強く、会話が断続的となるほどであった。また1週間前から徐々に呼吸困難感と下肢浮腫が増悪していたとの情報がある。現在は安静時の呼吸困難感は消失しているが、労作時の息切れは残存している。咳や痰については明確な記載がないが、湿性ラ音が聴取されていたことから、肺うっ血に伴う湿性咳嗽があった可能性がある。今後は咳や痰の有無、性状についても観察を継続する必要がある。

A氏には45年間の長期喫煙歴があり、20歳から65歳まで1日20本の喫煙をしていた。現在は禁煙して7年が経過しているが、長期喫煙による肺の器質的変化が残存している可能性がある。慢性閉塞性肺疾患(COPD)の合併の有無について評価することが望ましい。加齢による肺の弾性低下や呼吸筋力の低下も考慮すると、A氏の呼吸機能は複合的な要因で低下している可能性が高い。

呼吸に関するアレルギーとしては花粉症があるが、現在の症状に直接影響を及ぼしている様子はない。エビ・カニによる軽度のアレルギーもあるが、呼吸器症状との関連は認められない。

A氏は入院時、酸素2L/分を経鼻カニューレで投与されていた。入院2日目には症状改善に伴い1L/分に減量され、入院4日目には酸素投与が終了している。これは治療による肺うっ血の改善を反映している。

今後の具体的な看護介入としては、まず心不全管理の徹底が最優先される。具体的には1日3回のバイタルサイン測定を行い、特に呼吸数やSpO2の変動に注意する必要がある。また、同じ時間、同じ衣服での毎日の体重測定と記録により体液バランスを評価する。利尿反応については1日の尿量測定を行い、1,500〜2,000mL/日を目標とすることが望ましい。水分摂取量の正確な測定と記録を行い、1,000mL/日の制限を厳守するとともに、塩分制限食(6g/日)の提供と摂取状況を確認する。カルベジロール、エナラプリル、フロセミド、スピロノラクトンなどの内服薬の確実な服用確認も重要である。また、下肢浮腫の程度を毎日評価し、圧痕の深さや範囲を記録するとともに、仰臥位での頸静脈怒張の有無も観察する必要がある。

次に、段階的な心臓リハビリテーションの実施が重要である。リハビリ前後のバイタルサイン測定を行い、活動強度を修正ボルグ指数3〜4(やや楽〜やや楽でない)に維持する。毎日の歩行距離を病室内から病棟内、さらに院内へと徐々に延長していく。活動と休息のバランスを考慮したスケジュールを作成し、たとえば午前中に軽い活動を行い、午後は休息をとるなどの調整が必要である。また、効率的な呼吸法として腹式呼吸や口すぼめ呼吸の指導と実践確認を行う。さらに、6分間歩行試験を実施し、その結果に基づいて活動計画を調整していくことが望ましい。

A氏は几帳面で真面目であるが自己の体調管理に無頓着な一面もあるため、セルフマネジメント能力の向上への支援が必要である。心不全手帳を活用し、毎日の体重、血圧、脈拍、症状を記録する方法を指導する。また、呼吸困難感や浮腫の増加、急激な体重増加(2〜3日で2kg以上)などの心不全悪化の早期兆候を認識できるよう教育し、症状悪化時のかかりつけ医への連絡方法や救急受診の判断基準を説明する。服薬カレンダーの作成と活用方法を指導し、服薬時間の設定や服薬確認の方法を具体的に示す。自宅での運動プログラムとして、1日20分の散歩から開始し徐々に延長していくことを提案する。外出時や友人との食事会での塩分・水分管理として、外食メニューの選び方や飲み物の選択肢を具体的に説明する。また、週1回の自己モニタリングシートの記入と評価を促すことも有効である。

さらに、禁煙は継続できているが、長期喫煙歴があることから呼吸機能評価の継続も重要である。スパイロメトリー検査を実施し、その結果を説明することで自己理解を深める。深呼吸や呼吸筋強化のための簡単な呼吸エクササイズの方法を指導するとともに、喀痰の色・量・性状の観察方法を説明する。呼吸器感染予防のための手洗いやマスク着用の重要性を説明し、必要に応じて禁煙継続のための心理的サポートを提供することも大切である。

最後に、A氏の妻も介護負担を感じており、家族支援も重要である。栄養士による塩分制限食(6g/日)の調理方法の実践指導を行い、味付けの工夫や減塩調味料の活用法を説明する。妻へのレスパイトケアとして、デイサービスなどの一時的な介護サービスの情報を提供する。週1回の健康状態確認や服薬管理の支援のための訪問看護サービスの導入を検討する。地域の心不全患者会や家族会の情報を提供し、経験共有の場を確保する。また、かかりつけ医、訪問看護ステーション、救急医療機関などの緊急時の連絡先リストを作成し確認しておくことも重要である。

以上のことから、A氏の呼吸に関するニーズは現時点では部分的に充足されているが、労作時の息切れがあること、再発予防のためのセルフマネジメント能力の向上が必要であることから、継続的な看護介入が必要である。長期的には在宅での生活を維持しながら、再入院を防止するための支援が重要となる。

看護問題の明確化

慢性心不全の急性増悪に伴う肺うっ血に関連した呼吸機能の低下
不適切な塩分・水分摂取と服薬の不規則さに関連した心不全再発リスクの増大
長期喫煙歴(45年間)に関連した潜在的呼吸機能障害のリスク

事例の目次

この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

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