本事例の要約
慢性心不全を基礎疾患に持つ患者が、急性増悪により救急搬送され入院した事例。患者は高血圧症と2型糖尿病の既往があり、自宅で突然の呼吸困難と胸部不快感を自覚し救急要請した。入院後は心不全治療とともに、患者の日常生活動作の拡大と再発予防に向けた指導を行っている。介入日は11月15日、入院後5日目である。
13.遊び、あるいはさまざまな種類のレクリエーションに参加する
A氏は72歳の男性で、元会社員である。5年前に定年退職しており、現在は慢性心不全の急性増悪のため入院している。入院前の趣味や余暇活動に関する直接的な情報は限られているが、A氏自身が「趣味の庭仕事や散歩を続けたい」という希望を持っていることが確認されている。このことから、庭仕事と散歩がA氏にとって重要な活動であり、生活の質を維持するために継続したい活動であると考えられる。また、妻の言葉から「友人と会う機会が増えると、つい飲酒や塩分の多い食事を摂ってしまう」という情報があり、友人との交流が余暇活動の一部を占めており、社会的交流を大切にしていることが推測される。
これらの活動は、A氏の精神的健康に寄与している可能性が高いが、同時に健康管理面では課題があることがわかる。特に友人との交流時には食事制限や飲酒制限が守れなくなることが指摘されており、余暇活動と疾病管理のバランスをどう取るかが課題となっている。退職後の生活においては、これらの趣味や社会的交流が日常生活の中心となっていることが推測され、高齢者にとって重要な自己実現や生きがいの源となっている可能性がある。
入院中の気分転換方法については明確な情報がないため、詳細な情報収集が必要である。現在の入院5日目においては、症状が安定し病棟内の移動が可能となっているが、階段昇降や長距離歩行では息切れが出現するため、活動範囲が制限されている。このような状況下での気分転換方法を確認し、入院環境に適応した余暇活動を提案することが必要である。テレビ視聴や読書、家族との面会など、現在の活動状況と嗜好を把握する必要がある。特に面会時には妻の存在が精神的支えとなっており、面会時には表情が明るくなる傾向があるという情報から、家族との交流がA氏にとって重要な気分転換となっていることが推測される。
運動機能障害については、入院前は日常生活動作のほとんどが自立していたが、この半年ほどは階段昇降時や長距離歩行時に息切れを自覚することが増えていた。入院5日目の現在は、病棟内の歩行が許可されているものの、まだふらつきがみられることがあり、手すりを使用して歩行している状況である。このような運動機能の低下は、心不全による心機能低下が主要因であると考えられ、左室駆出率(EF)40%の左室収縮機能低下という検査結果からも裏付けられる。また、慢性腎臓病や糖尿病など複数の基礎疾患を持っていることも、全身状態や体力低下に影響を与えている可能性がある。さらに、足底の感覚がやや鈍いという所見から、糖尿病性神経障害の初期症状の可能性も考えられ、転倒リスクとの関連性にも注意が必要である。
認知機能については、「認知機能は良好で、日常生活に支障をきたすような認知機能の低下は認められない」との情報があり、会話の理解力も良好で医療者の説明を理解する能力に問題はないとされている。ADLに関しては、入院前はほぼ自立していたが、現在は体力低下や心不全症状により一部制限がある。特に、かがむ動作や上肢を挙上する動作で息切れが生じるため、衣類の着脱などに時間を要している状況である。シャワー浴は看護師の見守りのもとで行っているが、長時間の立位では疲労感が強くなるためシャワーチェアを使用している。排泄は自立しているが、排便時に腹圧をかけると息切れが生じることがあるため注意が必要である。
A氏の遊びやレクリエーションに関するニーズの充足状況を評価すると、入院前は趣味の庭仕事や散歩、友人との交流など自分なりの余暇活動を行っていた点ではニーズは充足されていたと考えられる。しかし、心不全症状の悪化により活動制限が生じており、現在の入院環境においてはこれらの活動が制限されているためニーズは十分に充足されていない状態である。また、入院前から半年間は心不全症状が徐々に進行しており、その間も趣味活動が徐々に制限されていた可能性がある。
看護介入としては、まず現在の心身状態に合わせた無理のない範囲での余暇活動を提案することが重要である。読書や塗り絵、簡単な手芸など、ベッド上や椅子に座った状態でも行える活動を紹介し、心機能に負担をかけずに気分転換できる方法を一緒に見つけることが必要である。また、心臓リハビリテーションが開始されていることから、リハビリスタッフと連携して、心機能に応じた適切な運動レベルの設定と拡大を図ることも重要である。
退院に向けては、A氏の希望である庭仕事や散歩をどのように安全に継続できるかという点についての指導が必要である。特に、心不全患者にとっては適切な休息を取りながらの活動計画が重要であるため、活動と休息のバランスを取る方法や、症状悪化のサインを認識する方法についての教育が必要である。友人との交流についても、飲酒や塩分摂取の制限を守りながら交流を続ける具体的な方法(例:飲食店での注文の仕方、飲み物の選択など)についてのアドバイスが有効である。
また、妻からの「食事の工夫をもっと勉強したい」という前向きな発言を活かし、家族を含めた生活指導を行うことで、退院後の生活における余暇活動と疾病管理の両立を支援する必要がある。地域の訪問看護サービスの利用も検討されていることから、退院支援カンファレンスにおいて、A氏の趣味や余暇活動の重要性についても情報共有し、退院後の支援に活かすことが望ましい。
総じて、A氏の遊びやレクリエーションに関するニーズは、現在の入院環境においては十分に充足されていない状態である。しかし、心機能の回復に伴い活動範囲が拡大していることから、段階的なニーズの充足を図ることが可能である。退院に向けては、疾病管理と余暇活動のバランスを保ちながら、A氏の生活の質を維持・向上させるための継続的な支援が必要である。
看護問題の明確化
慢性心不全に関連したレクリエーション活動の制限
事例の目次
【ヘンダーソン】慢性心不全 急性増悪[高血圧・糖尿病あり](0023)| 今回の情報
1.正常に呼吸する
2.適切に飲食する
3.あらゆる排泄経路から排泄する
4.身体の位置を動かし、また良い姿勢を保持する
5.睡眠と休息をとる
6.適切な衣類を選び、着脱する
7.体温を生理的範囲内に維持する
8.身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する
9.環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする
10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは気分を表現して他者とコミュニケーションを持つ
11.自分の信仰に従って礼拝する
12.達成感をもたらすような仕事をする
13.遊び、あるいはさまざまな種類のレクリエーションに参加する
14.正常な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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