本事例の要約
慢性心不全を基礎疾患に持つ患者が、急性増悪により救急搬送され入院した事例。患者は高血圧症と2型糖尿病の既往があり、自宅で突然の呼吸困難と胸部不快感を自覚し救急要請した。入院後は心不全治療とともに、患者の日常生活動作の拡大と再発予防に向けた指導を行っている。介入日は11月15日、入院後5日目である。
3.あらゆる排泄経路から排泄する
A氏は入院前、排尿は日中4〜5回、夜間1〜2回であり、尿失禁はなかった。排便は1日1回から2日に1回程度で、便秘傾向があった。便性状は硬めであることが多く、市販の酸化マグネシウムを週に2〜3回服用していた。これらの排泄パターンは、高齢者における腸管運動の低下や腹筋力の減弱などの加齢変化と関連していると考えられる。また、A氏は高血圧症、2型糖尿病、慢性腎臓病(CKD: stage G3a)、慢性心不全という複数の慢性疾患を有しており、薬物療法の影響も排泄パターンに影響を与えている可能性がある。
入院後はフロセミドの投与により尿量が増加し、入院2〜3日目は1日8〜10回のトイレ通いが必要であった。現在(入院5日目)は日中5〜6回、夜間2回程度に落ち着いている。排尿はポータブルトイレまたはトイレで自立して行えている。排尿の性状については詳細な記載がないが、尿検査では入院時に蛋白(2+)、糖(2+)が検出されていた。これは糖尿病と腎機能障害の影響と考えられる。最近(11/15)の尿検査では蛋白(±)、糖(±)と改善傾向にある。
排便に関しては、入院後2日間はなかったが、3日目に緩下剤(酸化マグネシウム330mg 1日3回)の内服を開始し、4日目に排便がみられた。現在も同様の緩下剤を継続中で、便性状は普通便である。入院による環境変化、活動量の低下、食事内容の変化などが排便パターンに影響を与えたと考えられる。A氏は腹圧をかけると息切れが生じることがあるため、無理な力みは避けるよう指導されている点にも注意が必要である。
発汗に関する情報は記載されていないが、心不全患者では交感神経系の過剰な活性化により発汗が増加することがある。また、糖尿病患者では自律神経障害による発汗異常が生じる可能性もある。A氏の場合、HbA1c 7.5%と血糖コントロールは不十分であり、糖尿病性自律神経障害の可能性も考慮する必要がある。体温は36.5℃で平熱であり、現時点では異常な発汗は報告されていない。
入出バランス(in-outバランス)については、A氏は現在、水分制限(1,000mL/日)が指示されている。入院2日目より利尿反応は良好で、尿量の増加とともに下肢浮腫は徐々に軽減した。体重は入院時から3.5kg減少し、現在71.5kgとなっている。これは利尿による過剰な体液の排出を反映していると考えられる。具体的な1日の尿量については記載がないが、フロセミドの効果により十分な尿量が確保されていると推測される。正確な入出バランスの評価のためには、水分摂取量と尿量の継続的な測定が必要である。
排泄に関連した食事、水分摂取状況については、A氏は入院前、濃い味付けを好み、特に塩分の多い食品を多く摂取していた。また、アルコールも週3〜4回程度(ビール500ml缶を1〜2本)摂取していた。これらは尿量増加や夜間頻尿の原因となりうる。現在は心不全食(塩分6g/日制限、エネルギー1,600kcal、水分1,000ml/日制限)が提供されており、塩分・水分摂取は管理されている。しかし、「喉が渇く」と訴えることがあり、水分制限の遵守には継続的な支援が必要である。食物繊維の摂取状況については情報がないが、心不全食では野菜や果物の摂取が制限される場合もあり、便秘傾向に影響を与える可能性がある。
麻痺の有無については、A氏に明らかな麻痺は記載されていない。しかし、糖尿病患者では末梢神経障害が生じることがあり、「足底の感覚がやや鈍い印象がある」との記載から、糖尿病性神経障害の初期症状の可能性が示唆される。神経障害は膀胱直腸障害を引き起こす可能性もあるため、排尿・排便機能への影響も注意深く観察する必要がある。
腹部膨満や腸蠕動音に関する情報は記載されていないため、追加の評価が必要である。心不全患者では右心不全による肝うっ血や腹水貯留が生じることがあり、腹部の状態は重要な評価項目である。また、緩下剤の使用や活動量の変化による腸蠕動への影響も考慮する必要がある。
A氏の血液データについて、入院時のBUN(血中尿素窒素)は32mg/dL(基準値:8-20mg/dL)、Cr(クレアチニン)は1.5mg/dL(基準値:0.6-1.1mg/dL)、eGFR(推算糸球体濾過量)は45mL/分/1.73m²(基準値:≥60mL/分/1.73m²)と、腎機能障害を示す値であった。最近(11/15)のデータではBUN 25mg/dL、Cr 1.3mg/dL、eGFR 52mL/分/1.73m²と改善傾向にあるが、依然として腎機能低下の状態である。これはCKD: stage G3aに相当し、薬物代謝や水・電解質バランスに影響を与える重要な因子である。高齢者では生理的に腎機能が低下するが、A氏の場合は2型糖尿病や心不全などの基礎疾患が腎機能障害の原因となっていると考えられる。ACE阻害薬(エナラプリル)の使用も腎機能に影響を与える可能性があるため、腎機能の定期的な評価が必要である。
A氏の排泄に関する看護介入としては、まず水分バランスの管理が重要である。水分制限(1,000mL/日)を遵守しながら、脱水を防ぐためのバランスの取れた水分摂取計画を立案する必要がある。また、口渇感に対しては氷をなめる、少量ずつこまめに水分を摂取するなどの対処法を指導することが有効である。排尿パターンの観察を継続し、尿量減少や尿の濃縮、浮腫の増加などの心不全悪化の兆候を早期に発見することが重要である。
排便管理については、現在の緩下剤(酸化マグネシウム)の継続と、可能な範囲での活動量増加を促進する。また、食物繊維の摂取状況を評価し、必要に応じて食事内容の調整を提案する。腹圧をかけることによる息切れを防ぐため、適切な排便姿勢や呼吸法の指導も考慮する。
腎機能低下に対しては、薬剤の投与量や種類が適切に調整されているか確認し、腎毒性のある薬剤や検査の使用に注意する。また、腎機能保護のための指導として、高血糖や高血圧の管理、十分な水分摂取(ただし心不全の状態とのバランスが重要)などが含まれる。
糖尿病性神経障害の可能性については、足底感覚の定期的な評価と、排尿・排便機能への影響を注意深く観察する。自覚症状がない場合でも、残尿感や排尿困難などの症状出現に注意し、必要に応じて残尿測定などの評価を行う。
退院に向けては、自宅での体重測定や尿量観察の方法、水分制限の継続方法、便秘予防のための生活習慣指導などを行い、セルフモニタリング能力の向上を図る。また、腎機能保護のための生活指導として、高血糖や高血圧の管理、適切な水分摂取などの重要性を繰り返し説明する。
以上のことから、A氏の排泄に関するニーズは現時点では概ね充足されているが、心不全と慢性腎臓病を併せ持つ高齢者として、排泄機能と腎機能の維持は継続的な課題である。特に退院後の自己管理においては、水分制限と十分な排尿の確保、便秘予防と適切な排便習慣の維持が重要となる。また、腎機能の定期的な評価と保護のための生活習慣の継続が、A氏の長期的な健康維持に不可欠である。
看護問題の明確化
慢性心不全による体液貯留に関連した水分バランス管理の困難さ
腎機能低下(CKD: stage G3a)に関連した薬物代謝の変化
活動制限と緩下剤使用に関連した排便パターンの変化
事例の目次
【ヘンダーソン】慢性心不全 急性増悪[高血圧・糖尿病あり](0023)| 今回の情報
1.正常に呼吸する
2.適切に飲食する
3.あらゆる排泄経路から排泄する
4.身体の位置を動かし、また良い姿勢を保持する
5.睡眠と休息をとる
6.適切な衣類を選び、着脱する
7.体温を生理的範囲内に維持する
8.身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する
9.環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする
10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは気分を表現して他者とコミュニケーションを持つ
11.自分の信仰に従って礼拝する
12.達成感をもたらすような仕事をする
13.遊び、あるいはさまざまな種類のレクリエーションに参加する
14.正常な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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