【ヘンダーソン】慢性心不全 急性増悪[高血圧・糖尿病あり](0023)| 9.環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする

ヘンダーソン

事例の要約

慢性心不全を基礎疾患に持つ患者が、急性増悪により救急搬送され入院した事例。患者は高血圧症と2型糖尿病の既往があり、自宅で突然の呼吸困難と胸部不快感を自覚し救急要請した。入院後は心不全治療とともに、患者の日常生活動作の拡大と再発予防に向けた指導を行っている。介入日は11月15日、入院後5日目である。

9.環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする

A氏は72歳の男性で、慢性心不全の急性増悪により入院中である。認知機能は良好で、日常生活に支障をきたすような認知機能の低下は認められず、会話の理解力も良好で医療者の説明を理解する能力に問題はない。このことから、危険箇所の理解や安全に対する指導内容の理解は可能である。しかし、A氏は自分の体調管理には無頓着な一面もあり、危険性の認識や安全行動への意識が不足している可能性がある。

A氏は入院時には急性心不全の症状が強く、安静臥床であったが、現在は病棟内の歩行が許可されている。ただし、まだふらつきがみられることがあり、手すりを使用して歩行している状態である。入院前の転倒エピソードはなかったが、入院環境の変化や体力低下により転倒リスクが高まっている。特に足底の感覚がやや鈍い印象があり、糖尿病性神経障害の初期症状の可能性が示唆されていることから、足底からの感覚情報が低下しており、バランス維持に影響を与える可能性がある。

入院3日目からはトイレ歩行が許可され、入院4日目には病棟内の歩行が許可されているが、歩行時に軽度の息切れを認めるため、心臓リハビリテーションが開始されている状況である。活動範囲の拡大に伴い、新たな環境での危険因子への対応が必要となってきている。今後一週間を目処に病棟内歩行から院内歩行へと活動範囲が拡大される予定であり、環境の変化に伴う危険因子の認識と対応能力の評価が重要である。

点滴ルート類については、入院3日目からフロセミドが内服へと変更され、静脈内投与の薬剤は終了しているため、現在は点滴による行動制限はない状態である。これにより身体的な動きの制限は少なくなっているが、一方で活動範囲の拡大に伴い転倒リスクが高まる可能性がある。

術後せん妄については、A氏は今回の入院では手術を施行していないため、術後せん妄のリスクはない。しかし、入院環境の変化や急性疾患によるストレス、睡眠障害などにより、高齢者ではせん妄状態を呈することがあるため注意が必要である。現在の情報からは、A氏にせん妄の徴候は認められていない。入院3日目からはゾルピデム5mgが眠前に処方され、内服後は6時間程度の連続した睡眠が取れるようになっており、日中の傾眠もみられないことから、睡眠-覚醒リズムは整いつつあると考えられる。

皮膚損傷の有無については、入院時に下肢の浮腫を認めていたが、利尿剤による治療で現在は浮腫が改善している。浮腫の改善に伴い皮膚の状態も変化している可能性があるため、継続的な観察が必要である。特に浮腫の改善後は皮膚のたるみや乾燥が生じやすく、摩擦やずれによる皮膚損傷のリスクが高まる可能性がある。また、糖尿病を合併しているため微小血管障害や末梢神経障害による皮膚トラブルのリスクも高い。情報からは現在の皮膚の状態について詳細な記述がないため、特に下肢を中心とした皮膚の観察と記録が必要である。

感染予防対策については、A氏は感染症はなく、アレルギーは花粉症とエビ・カニによるアレルギー(軽度)があるとされている。しかし、A氏は高齢であり、糖尿病や慢性腎臓病など複数の基礎疾患を有することから、感染症に罹患するリスクは高いと考えられる。特に糖尿病患者は免疫機能の低下により感染症のリスクが高まるため、標準予防策の徹底や感染予防行動の指導が重要である。手洗いの実施状況や面会制限についての具体的な情報は提供されていないため、これらの情報収集と適切な指導が必要である。

血液データについては、WBCは入院時11,200/μLと上昇していたが、入院5日目には8,500/μLと改善傾向にある。CRPについては情報が提供されていないため、炎症反応の評価には追加情報が必要である。WBCの上昇は急性心不全による生体ストレスに対する反応と考えられるが、感染症の可能性も念頭に置いて継続的な観察が必要である。

A氏は72歳と高齢であり、加齢に伴う身体機能の変化が安全に影響を与える可能性がある。高齢者は筋力や関節の柔軟性の低下、バランス能力の低下、反応時間の延長などにより転倒リスクが高まる。また、視力や聴力の低下により環境の危険因子を認識しにくくなる場合もある。A氏は近視であり老眼鏡を使用しているが、新聞や書類の読み書きは眼鏡使用下で問題なく行えており、聴力も年齢相応で通常の会話には支障はないとされている。しかし、やや大きめの声で話しかけると反応が良いとの情報から、軽度の聴力低下が示唆される。このような感覚機能の変化も考慮した環境整備と指導が必要である。

看護介入としては、まず環境整備による転倒予防が重要である。病室内やトイレ、廊下などの環境を点検し、段差や障害物の除去、手すりの設置、照明の確保などを行う必要がある。特に夜間のトイレ移動時には転倒リスクが高まるため、ナースコールの位置を適切に配置し、夜間照明を確保することが重要である。

次に、A氏の転倒リスクの評価と対応が必要である。歩行時のふらつきの程度や息切れの状況を継続的に観察し、必要に応じて歩行器の使用や見守りの強化を検討する。特に活動範囲が拡大される際には、新たな環境での安全確認と指導が重要である。

また、A氏と家族への教育的介入も重要である。転倒予防の重要性や安全な移動方法、危険因子の認識と対応方法などについて具体的に指導する必要がある。特に心不全症状の変化に伴う活動耐性の変化を自覚し、適切に対応できるよう支援することが重要である。

感染予防については、標準予防策の徹底と指導が必要である。適切な手洗い方法やタイミングの指導、面会者に対する感染予防の説明なども重要である。また、糖尿病患者は感染症のリスクが高いため、感染徴候の早期発見のための観察と指導も重要である。

皮膚の保護については、特に下肢を中心に皮膚の状態を定期的に観察し、乾燥や損傷の早期発見と対応が必要である。適切な保湿ケアや圧迫予防の指導も重要である。

退院に向けては、自宅環境の評価と調整が必要である。A氏と妻に対して、自宅での転倒リスクの評価と環境調整、安全な生活方法の指導を行うことが重要である。特に家具の配置や照明の確保、浴室やトイレの手すり設置などの環境整備について具体的に検討する必要がある。

環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにするというニーズに関しては、現在のところ部分的に充足されている状態である。A氏の認知機能は良好で指導内容の理解は可能であるが、活動範囲の拡大に伴い新たな環境での危険因子への対応が必要となっており、完全に充足されているとは言えない。特に糖尿病性神経障害の可能性による足底感覚の低下や、心不全症状による活動耐性の変化など、疾患による影響を考慮した継続的な評価と介入が必要である。退院に向けては、自宅環境を含めた包括的な安全管理の支援が重要であり、A氏と家族が主体的に安全行動をとれるよう教育的支援を継続する必要がある。

看護問題の明確化

心不全による活動耐性低下と糖尿病性神経障害に関連した転倒リスク

事例の目次

この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

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