本事例の要約
アルツハイマー型認知症と診断され5年が経過した83歳女性が、自宅で転倒し入院となった事例である。30年間小学校教諭として勤務していた患者は、夫の他界後に認知症症状が急速に進行し、長男夫婦との同居を機に医療機関を受診していた。入院後は環境の変化により見当識障害が悪化し、教師時代の記憶と現実が混在した発言が増加。さらに誤嚥性肺炎を合併し、食事摂取量が著しく低下している。長男の妻が献身的にケアを続けているものの、介護負担が限界に近づいており、今後の療養方針の検討が必要な状況である。20XX年1月15日入院、介入7日目の事例である。
5.睡眠と休息をとる
A氏の睡眠状況について、入院前は夕方からの帰宅願望や夜間の不穏があり、「家に帰りたい」「主人が待っているの」との訴えが強く、不眠がみられていた。クエチアピンの内服により、不穏は若干改善していたものの、現在は環境の変化により睡眠リズムが乱れており、日中の覚醒が悪い状態となっている。加齢に伴う睡眠パターンの変化として、睡眠の質の低下や中途覚醒の増加が生じやすい状態にあることも考慮する必要がある。具体的な睡眠時間や睡眠の質については、詳細な情報収集が必要である。
疼痛について、3ヶ月前の転倒による右膝打撲と今回の転倒による影響を考慮する必要があるが、現時点での疼痛の有無や程度に関する具体的な情報は得られていない。知覚に関しては温痛覚や触覚に異常はないとされており、掻痒感に関する訴えも記載されていない。安静度については、誤嚥性肺炎の治療のためベッド上での安静が必要な状態であり、これによる活動制限がストレスとなる可能性がある。
薬剤使用状況について、入眠剤の使用はないが、夜間の不穏に対してクエチアピン錠25mgを1日1回夕食後に内服している。ただし、環境の変化により、従来の薬剤使用では十分な睡眠が確保できていない可能性がある。
疲労の状態については、誤嚥性肺炎による呼吸状態の悪化(呼吸数24回/分、SpO2 93%)や発熱(37.8℃)により、身体的な消耗状態にあると考えられる。また、認知機能低下による見当識障害や環境変化へのストレスが、精神的な疲労を引き起こしている可能性がある。
療養環境への適応状況について、環境の変化により見当識障害が増悪しており、「ここは学校?」「授業の準備をしないと」などの発言が頻回にみられ、現状認識が十分でない状態である。また、教師時代の長期記憶は保たれており、その時期の話をすると表情が明るくなるという特徴がある。ストレス状況としては、環境の変化、活動制限、コミュニケーションの困難さなどが挙げられる。特に、長年連れ添った夫の他界から2年という時期であり、夜間の「主人が待っているの」という発言から、夫の不在による精神的なストレスも持続していると考えられる。
必要な看護介入として、以下の対応が重要である。日中の覚醒を促し、活動を取り入れることで、生活リズムの調整を図る。夜間は適切な照明調整と静かな環境を整え、安眠を促す。不穏時には、教師時代の話題を取り入れるなど、本人が安心できる話題での関わりを持つ。体位変換や清潔ケアは睡眠を妨げないよう時間を調整して実施する。
継続的な観察が必要な項目として、睡眠時間、睡眠の質、夜間の不穏の有無、日中の覚醒状態、疲労の程度、バイタルサインの変化などが挙げられる。また、環境変化への適応状況や不安・焦燥感の有無についても注意深く観察を続ける必要がある。
以上のアセスメントから、A氏の睡眠と休息に関するニーズは充足されていない状態にあると判断される。その理由として、環境変化による睡眠リズムの乱れ、認知機能低下による見当識障害、誤嚥性肺炎による身体的消耗、夜間の不穏が挙げられる。これらの問題に対する看護介入と継続的な観察が必要である。
看護問題の明確化
#アルツハイマー型認知症と環境変化に関連した睡眠パターンの混乱
#アルツハイマー型認知症と配偶者喪失に関連した不安
事例の目次
【ヘンダーソン】アルツハイマー型認知症 入院7日目(0007)| 今回の情報
1.正常に呼吸する
2.適切に飲食する
3.あらゆる排泄経路から排泄する
4.身体の位置を動かし、また良い姿勢を保持する
5.睡眠と休息をとる
6.適切な衣類を選び、着脱する
7.体温を生理的範囲内に維持する
8.身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する
9.環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする
10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは気分を表現して他者とコミュニケーションを持つ
11.自分の信仰に従って礼拝する
12.達成感をもたらすような仕事をする
13.遊び、あるいはさまざまな種類のレクリエーションに参加する
14.正常な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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