本事例の要約
アルツハイマー型認知症と診断され5年が経過した83歳女性が、自宅で転倒し入院となった事例である。30年間小学校教諭として勤務していた患者は、夫の他界後に認知症症状が急速に進行し、長男夫婦との同居を機に医療機関を受診していた。入院後は環境の変化により見当識障害が悪化し、教師時代の記憶と現実が混在した発言が増加。さらに誤嚥性肺炎を合併し、食事摂取量が著しく低下している。長男の妻が献身的にケアを続けているものの、介護負担が限界に近づいており、今後の療養方針の検討が必要な状況である。20XX年1月15日入院、介入7日目の事例である。
11.自分の信仰に従って礼拝する
現在の情報では、A氏に特定の信仰はないとされている。しかし、83歳という年齢を考慮すると、長年の生活の中で培われた価値観や信念について、より詳細な情報収集が必要である。特に30年間の教師経験を通じて形成された教育者としての信念や価値観は、現在の生活や治療に対する考え方に影響を与えている可能性がある。
食事に関する制限や禁忌については明確な記載がないが、現在はミキサー食やとろみ剤を使用した食事形態となっている。これは誤嚥性肺炎予防のための医学的な必要性に基づくものであり、信仰や信念による制限ではない。治療に関しても、現在行われている投薬治療や医療処置について、信仰上の制限は確認されていない。
しかし、認知機能の低下により、自身の価値観や希望を明確に表現することが困難な状況にある。長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)が12点と低値であることから、現在の意思決定能力には制限があると考えられる。このため、これまでの生活歴や価値観について、家族からより詳細な情報を得る必要がある。特に長男の妻がキーパーソンとなっていることから、A氏の生活史や大切にしてきた価値観について聞き取りを行うことが重要である。
また、2年前に夫を亡くしており、「主人が待っているの」という発言がみられることから、配偶者との死別による喪失体験が現在の心理状態に影響を与えている可能性がある。死生観や葬儀に関する考え方、故人を偲ぶ習慣などについても、情報収集が必要である。
必要な看護介入として、まず家族からの詳細な情報収集を行い、A氏の価値観や信念を理解することが重要である。その上で、日々のケアにおいてそれらの価値観を尊重し、可能な限り反映させていく必要がある。特に教師としての誇りや信念が強く残っていることから、それらを尊重した関わりが求められる。
これらの状況を総合的に評価すると、信仰に従って礼拝するというニーズについては、特定の信仰は確認されていないため、従来の意味でのニーズの充足状況を評価することは困難である。しかし、個人の価値観や信念を尊重し、それに基づいた生活を送るというより広い意味でのニーズについては、認知機能の低下により十分な自己表現が困難な状況にあることから、現時点では十分に充足されているとは言えない。今後は、家族からのより詳細な情報収集を行い、A氏の価値観や信念をケアに反映させていく必要がある。
看護問題の明確化
なし
事例の目次
【ヘンダーソン】アルツハイマー型認知症 入院7日目(0007)| 今回の情報
1.正常に呼吸する
2.適切に飲食する
3.あらゆる排泄経路から排泄する
4.身体の位置を動かし、また良い姿勢を保持する
5.睡眠と休息をとる
6.適切な衣類を選び、着脱する
7.体温を生理的範囲内に維持する
8.身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する
9.環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする
10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは気分を表現して他者とコミュニケーションを持つ
11.自分の信仰に従って礼拝する
12.達成感をもたらすような仕事をする
13.遊び、あるいはさまざまな種類のレクリエーションに参加する
14.正常な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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