本事例の要約
アルツハイマー型認知症と診断され5年が経過した83歳女性が、自宅で転倒し入院となった事例である。30年間小学校教諭として勤務していた患者は、夫の他界後に認知症症状が急速に進行し、長男夫婦との同居を機に医療機関を受診していた。入院後は環境の変化により見当識障害が悪化し、教師時代の記憶と現実が混在した発言が増加。さらに誤嚥性肺炎を合併し、食事摂取量が著しく低下している。長男の妻が献身的にケアを続けているものの、介護負担が限界に近づいており、今後の療養方針の検討が必要な状況である。20XX年1月15日入院、介入7日目の事例である。
2.適切に飲食する
A氏の食事と水分摂取状況について、入院前は長男の妻が準備した食事を自力で摂取していたが、むせ込みや食事途中での健忘がみられていた。入院後は 認知機能低下と誤嚥性肺炎の影響により、摂取量が著しく低下し、全介助での食事摂取を要する状態となっている。現在の食事形態はミキサー食で、とろみ剤を使用し、一回量を少なくして時間をかけて摂取している状況である。摂取量は3割程度にとどまり、拒否がみられることもある。水分摂取量については具体的な情報がないため、詳細な評価が必要である。
食事に関するアレルギーについては、花粉症のアレルギーの既往があるが、食物アレルギーの情報は得られていない。食物アレルギーの有無について、本人と家族からの追加情報収集が必要である。
身体計測値については、身長148cm、体重42kgであり、これらから算出される体格指数(体重(kg)÷身長(m)²)は19.2kg/m²となる。これは 低体重の範囲内であり、栄養状態の悪化が懸念される。現在の必要栄養量について詳細に検討する。まず標準体重は身長から算出すると(1.48m)²×22=48.1kgとなる。基礎代謝量は、高齢者の場合、標準体重×20~25kcalで算出するため、48.1kg×20~25kcal=962~1,202kcalとなる。これに活動係数(ベッド上安静のため1.1)をかけると1,058~1,322kcal、さらにストレス係数(発熱と感染症により1.2)を考慮すると、1日の必要エネルギー量は1,270~1,586kcalと算出される。たんぱく質必要量は、治癒促進のため1.2~1.5g/kg/日を目標とすると、標準体重から57.7~72.2g/日が必要である。身体活動レベルは、現在は誤嚥性肺炎の治療のためベッド上安静が必要な状態であり、極めて低い。
食欲については、環境の変化や認知機能低下により、食事に対する認識が低下しており、拒否がみられる状態である。嚥下機能は 加齢による生理的変化に加え、アルツハイマー型認知症とパーキンソニズムの影響により著しく低下している。入院前から一口大への食形態変更が必要な状態であり、入院後はさらなる嚥下機能の低下により、ミキサー食とトロミ使用が必要となっている。口腔内の状態に関する具体的な情報は得られていないため、歯の状態、義歯の使用状況、口腔衛生状態などの評価が必要である。
嘔吐や吐気に関する明確な情報は得られていないが、誤嚥性肺炎の存在から、不顕性誤嚥の可能性が高い状態と考えられる。
血液データについては、総タンパク6.2g/dL(基準値6.6-8.1g/dL)、アルブミン2.8g/dL(基準値4.1-5.1g/dL)と著明に低下しており、重度の低栄養状態にある。ヘモグロビン値も10.2g/dL(基準値11.6-14.8g/dL)と低下しており、貧血を認める。中性脂肪値の情報は得られていないため、追加の検査が必要である。
必要な看護介入として、以下の対応が重要である。誤嚥予防のため、30度以上のギャッジアップを保持し、一回量を少なくして時間をかけた食事介助を行う。食事前の口腔ケアを徹底し、覚醒状態を確認した上で食事介助を実施する。食事中はむせ込みや呼吸状態の変化に注意を払い、異常が認められた場合は直ちに中止する。認知機能低下に対しては、落ち着いた環境を整え、本人のペースに合わせた介助を心がける。また、教師時代の話題を取り入れるなど、本人が安心できる環境づくりを行う。定期的な体重測定と血液検査により、栄養状態の推移を観察する必要がある。
継続的な観察が必要な項目として、食事摂取量、水分摂取量、むせ込みの頻度、呼吸状態の変化、体重の推移、血液データの変動などが挙げられる。また、認知機能の状態や、食事に対する反応についても注意深く観察を続ける必要がある。
以上のアセスメントから、A氏の適切な飲食に関するニーズは充足されていない状態にあると判断される。その理由として、重度の低栄養状態、嚥下機能の著しい低下、食事摂取量の不足、認知機能低下による食事認識の低下が挙げられる。これらの問題に対する包括的な看護介入と継続的な観察が必要である。
看護問題の明確化
#アルツハイマー型認知症とパーキンソニズムに関連した嚥下機能障害
#誤嚥性肺炎と認知機能低下に関連した栄養摂取不足
事例の目次
【ヘンダーソン】アルツハイマー型認知症 入院7日目(0007)| 今回の情報
1.正常に呼吸する
2.適切に飲食する
3.あらゆる排泄経路から排泄する
4.身体の位置を動かし、また良い姿勢を保持する
5.睡眠と休息をとる
6.適切な衣類を選び、着脱する
7.体温を生理的範囲内に維持する
8.身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する
9.環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする
10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは気分を表現して他者とコミュニケーションを持つ
11.自分の信仰に従って礼拝する
12.達成感をもたらすような仕事をする
13.遊び、あるいはさまざまな種類のレクリエーションに参加する
14.正常な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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