本事例の要約
アルツハイマー型認知症と診断され5年が経過した83歳女性が、自宅で転倒し入院となった事例である。30年間小学校教諭として勤務していた患者は、夫の他界後に認知症症状が急速に進行し、長男夫婦との同居を機に医療機関を受診していた。入院後は環境の変化により見当識障害が悪化し、教師時代の記憶と現実が混在した発言が増加。さらに誤嚥性肺炎を合併し、食事摂取量が著しく低下している。長男の妻が献身的にケアを続けているものの、介護負担が限界に近づいており、今後の療養方針の検討が必要な状況である。20XX年1月15日入院、介入7日目の事例である。
14.正常な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる
A氏は83歳で、エリクソンの発達段階における統合対絶望の時期にあたる。30年間の教職経験があり、生徒思いで信望が厚く、教育者としての人生を全うした経験は、この時期における人生の統合に重要な意味を持つと考えられる。しかし、アルツハイマー型認知症の進行により、新たな学習や経験の蓄積が困難な状況にある。認知機能検査(HDS-R)の点数は過去3年間で22点から12点まで低下しており、特に近時記憶や見当識の障害が顕著である。
疾患と治療方法の理解については、認知機能の低下により、現在の入院状況や治療の必要性の理解が困難な状態である。「ここは学校?」「授業の準備をしないと」という発言が頻回にみられ、現実検討力の低下を示している。服薬管理も本人による管理が困難となり、入院前は長男の妻が管理し、現在は看護師管理となっている。誤嚥性肺炎の治療や予防に関する理解も十分とは言えず、食事摂取に対する拒否的な態度もみられている。
学習意欲については、教師時代の長期記憶は比較的保たれており、その時期の話をすると表情が明るくなることから、過去の経験に基づく話題には興味を示す様子がある。しかし、新しい情報の習得や状況への適応は困難であり、環境の変化による混乱も著しい。日中の覚醒状態が悪く、夜間の睡眠リズムも乱れていることから、新たな学習の機会も制限されている。
家族の参加については、長男の妻がキーパーソンとして積極的に関わっているものの、「認知症が進んでしまって、どう接していいのか分からなくなることがあります」と不安を感じている。長男は仕事が忙しく平日の面会は難しい状況だが、週末は必ず来院し母の状態を心配している。家族は本人の認知症の進行に戸惑いながらも、できる限りの支援を行おうとする姿勢がみられる。
加齢による感覚機能の変化として、軽度の老眼があり読書時には眼鏡を使用しているが、聴力は年齢相応で普通の会話は可能である。これらの感覚機能の状態は、情報提供や学習支援の方法を検討する上で考慮すべき要素となる。
看護介入として、以下の取り組みが重要である。まず、本人の認知機能に応じた情報提供の方法を工夫し、特に誤嚥予防や安全な活動に関する理解を促進する必要がある。その際、視覚的な手がかりを活用し、シンプルで具体的な説明を心がける。また、教師時代の経験を活かした回想法を取り入れ、本人の自尊心を支えながら、残存機能の活用を図ることも重要である。
家族への支援として、認知症の進行に伴う症状や対応方法について具体的な説明を行い、不安の軽減を図る必要がある。また、多職種カンファレンスを通じて、退院後の療養環境の調整や介護保険サービスの活用について検討し、家族の介護負担の軽減も考慮する必要がある。
継続的な観察項目として、日々の覚醒状態や認知機能の変化、コミュニケーションの質、家族との交流状況などを把握し、適切な支援方法の評価と修正を行うことが重要である。また、誤嚥性肺炎の治療経過や嚥下機能の状態についても、継続的な観察が必要である。
このニーズは現在充足されていない。認知症の進行による学習能力の低下、現実検討力の障害、環境変化による混乱などにより、新たな学習や適応が著しく困難な状況にある。本人の認知機能レベルに合わせた情報提供方法の工夫と、家族を含めた包括的な支援体制の構築が必要である。
看護問題の明確化
#アルツハイマー型認知症の進行に関連した学習能力の低下と現実認識の障害
事例の目次
【ヘンダーソン】アルツハイマー型認知症 入院7日目(0007)| 今回の情報
1.正常に呼吸する
2.適切に飲食する
3.あらゆる排泄経路から排泄する
4.身体の位置を動かし、また良い姿勢を保持する
5.睡眠と休息をとる
6.適切な衣類を選び、着脱する
7.体温を生理的範囲内に維持する
8.身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する
9.環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする
10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは気分を表現して他者とコミュニケーションを持つ
11.自分の信仰に従って礼拝する
12.達成感をもたらすような仕事をする
13.遊び、あるいはさまざまな種類のレクリエーションに参加する
14.正常な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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