本事例の要約
アルツハイマー型認知症と診断され5年が経過した83歳女性が、自宅で転倒し入院となった事例である。30年間小学校教諭として勤務していた患者は、夫の他界後に認知症症状が急速に進行し、長男夫婦との同居を機に医療機関を受診していた。入院後は環境の変化により見当識障害が悪化し、教師時代の記憶と現実が混在した発言が増加。さらに誤嚥性肺炎を合併し、食事摂取量が著しく低下している。長男の妻が献身的にケアを続けているものの、介護負担が限界に近づいており、今後の療養方針の検討が必要な状況である。20XX年1月15日入院、介入7日目の事例である。
8.身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する
入院前のA氏は、長男の妻の介助のもと週3回の入浴を実施していた。自宅での入浴は浴室で行われており、介助を要するものの、基本的な清潔保持は維持できていた状況である。しかし、現在は誤嚥性肺炎の治療のためベッド上での安静が必要な状態となっている。パーキンソニズムによる動作の緩慢さと、認知症による見当識障害があることから、清潔保持には全面的な援助が必要な状況である。
高齢者の皮膚は、加齢に伴う生理的変化により乾燥しやすく、バリア機能が低下している。また、アルブミン値が2.8g/dLと低値であることは、皮膚の脆弱性を増加させる要因となっている。現在の発熱(37.8℃)と活動性の低下は発汗を促進し、皮膚の清潔保持により一層の注意が必要である。特に、オムツ使用による失禁管理が行われている現状では、頻回な排泄物との接触による皮膚トラブルのリスクが高い。入院前は日中のトイレ動作は自立していたが、夜間の失禁がみられ、現在は終日オムツを使用している状況である。便失禁に関する具体的な情報は不足しているが、排便コントロールは良好とされている。
口腔内の状態については、むせ込みや誤嚥のリスクが高く、誤嚥性肺炎を発症している状況から、口腔内の衛生状態の詳細な評価と管理が必要である。特に、ミキサー食やとろみ剤の使用により、口腔内に食物残渣が残りやすい状況であることが推測される。歯の状態、義歯の使用有無、口腔粘膜の状態などの情報が不足しており、これらの情報収集が必要である。
鼻腔の清潔に関しては、経鼻カニューレによる酸素投与を実施していることから、定期的な観察と清拭が必要である。爪の状態や手指の清潔に関する情報も不足しており、パーキンソニズムによる動作制限が爪切りなどのセルフケアに影響を与えている可能性がある。
これらの状況を踏まえ、必要な看護介入として、現在のベッド上での清拭方法の確立、陰部の清潔保持と皮膚保護、口腔ケアの徹底、経鼻カニューレ装着部位の皮膚ケア、適切な保湿ケアの実施が求められる。特に認知症患者であることを考慮し、ケアの実施時には現在の状況を理解できるような説明と、安心できる環境づくりが重要である。また、発熱を伴う状態であることから、清拭時の体温管理や環境調整にも配慮が必要である。
総合的に評価すると、身体の清潔を保持し、皮膚を保護するというニーズは現時点では十分に充足されていない。今後は、誤嚥性肺炎の治療状況を見ながら、段階的な清潔ケアの拡大を検討する必要がある。特に、オムツ使用に伴う皮膚トラブルの予防と、口腔内の衛生管理による誤嚥性肺炎の再発予防に重点を置いた介入が重要である。また、長期的な視点から、退院後の清潔ケアの継続に向けて、家族への指導と支援体制の確立も検討が必要である。
看護問題の明確化
#誤嚥性肺炎と認知機能低下に伴う活動制限に関連したセルフケア不足
事例の目次
【ヘンダーソン】アルツハイマー型認知症 入院7日目(0007)| 今回の情報
1.正常に呼吸する
2.適切に飲食する
3.あらゆる排泄経路から排泄する
4.身体の位置を動かし、また良い姿勢を保持する
5.睡眠と休息をとる
6.適切な衣類を選び、着脱する
7.体温を生理的範囲内に維持する
8.身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する
9.環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする
10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは気分を表現して他者とコミュニケーションを持つ
11.自分の信仰に従って礼拝する
12.達成感をもたらすような仕事をする
13.遊び、あるいはさまざまな種類のレクリエーションに参加する
14.正常な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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