本事例の要約
慢性心不全の急性増悪により緊急入院となった72歳男性の事例である。入院3日目において、薬物療法と水分・塩分制限により症状の改善を認めており、今後は再発予防に向けた生活指導と退院支援を要する事例である。
8.身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する
入浴に関して、自宅では一般浴槽での入浴を自立して行えており、入浴動作に支障はなかった。しかし、現在は心不全の急性増悪により入浴は制限されており、清拭での対応となっている。これは心不全患者において、入浴による温熱刺激や体位変換が心負荷を増大させるリスクを考慮した対応である。麻痺や感覚障害は認められず、清潔保持に影響を及ぼす運動機能障害は存在しない。
口腔内の状態や口腔ケアの方法、歯磨きの習慣、義歯の使用有無については具体的な情報が不足している。心不全患者は薬剤による口腔内乾燥や、呼吸困難による口呼吸増加で口腔内環境が悪化しやすいため、この点についての情報収集が必要である。同様に、鼻腔の状態や保清方法、爪の状態についても追加の情報収集が必要である。
排泄に関して、尿失禁や便失禁は認められていない。排尿は1日6-7回と適切な間隔であり、現在は利尿剤使用により尿量が増加し2000-2500mL/日となっているが、トイレでの排尿が確実に行えている。便通も1日1回と規則的で、性状も普通便である。これらの状況から、失禁による清潔保持への影響は現時点では認められない。
皮膚の状態については、両下肢に浮腫が認められているものの、圧痕は改善傾向にある。浮腫のある部位は清潔保持と皮膚観察が特に重要である。また、72歳という年齢を考慮すると、加齢による皮膚の脆弱性や乾燥傾向が予測される。高齢者の皮膚は外傷を受けやすく、治癒も遅延しやすいため、より慎重なスキンケアが必要である。
現在のバイタルサインは安定しており、清潔ケアを実施する上での急性期の制限因子は軽減している。ただし、活動時の息切れが残存しているため、清潔ケアの方法や所要時間については、心負荷を考慮した計画が必要である。
看護介入としては、現在実施している清拭について、温度や方法を患者の状態に合わせて調整する必要がある。特に浮腫のある下肢の清潔保持には注意を払い、皮膚の観察も同時に行う。また、口腔ケアの方法について確認し、必要に応じて指導を行う。爪切りなどのセルフケアについても、実施状況を確認し支援を検討する。
継続的な観察が必要な点として、心不全症状の変化に伴う清潔ケアへの影響、皮膚の状態(特に浮腫部位)、口腔内の状態、爪の状態が挙げられる。また、今後の入浴再開に向けて、心機能の回復状況を踏まえた評価が必要である。
将来的な入浴再開に向けては、以下の点について詳細な計画が必要である。入浴時間や湯温の設定、浴室環境の調整、入浴動作の手順、急変時の対応方法などについて、具体的な指導内容を検討する。また、退院後の自宅での入浴方法についても、安全性を考慮した具体的な指導が必要である。
清潔に対する本人の意識や希望についても、さらなる情報収集が必要である。特に入浴に対する不安や、清潔保持に関する具体的なニーズについて、詳細な聴取が望ましい。
ニーズの充足状況については、現時点では清拭による最低限の清潔保持は行えているものの、入浴による十分な清潔保持が制限されている状態である。ただし、これは治療上必要な制限であり、症状の改善に伴って段階的に解除していく必要がある。口腔ケアや爪切りなどの細部の清潔保持については、情報が不足しており、充足状況の評価には追加の情報収集が必要である。
看護問題の明確化
#心不全に伴う心機能低下に関連したセルフケア制限
事例の目次
【ヘンダーソン】心不全 入院3日目(0005)
1.正常に呼吸する
2.適切に飲食する
3.あらゆる排泄経路から排泄する
4.身体の位置を動かし、また良い姿勢を保持する
5.睡眠と休息をとる
6.適切な衣類を選び、着脱する
7.体温を生理的範囲内に維持する
8.身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する
9.環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする
10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは気分を表現して他者とコミュニケーションを持つ
11.自分の信仰に従って礼拝する
12.達成感をもたらすような仕事をする
13.遊び、あるいはさまざまな種類のレクリエーションに参加する
14.正常な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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