本事例の要約
慢性心不全の急性増悪により緊急入院となった72歳男性の事例である。入院3日目において、薬物療法と水分・塩分制限により症状の改善を認めており、今後は再発予防に向けた生活指導と退院支援を要する事例である。
2.適切に飲食する
A氏は身長165cm、入院時体重68kgであり、体格指数(BMI)は25.0kg/m²と軽度肥満の範囲である。入院後3日間で体重は2kg減少しているが、これは利尿による体液貯留の改善を反映している。心不全患者における体重増加は体液貯留の重要な指標となるため、毎日の体重測定による継続的なモニタリングが必要である。
栄養摂取状況について、入院前は妻が食事管理を担当していたが、甘いものや塩辛いものを好む傾向があり、妻の目を盗んで間食やインスタント食品を摂取する習慣があった。また、日本酒を2合/日摂取していたが、入院を機に禁酒を決意している。現在は心不全食(塩分6g/日制限)が提供され、水分制限(1000mL/日)も実施されている。食事摂取量は7-8割程度を維持できている。食物アレルギーの既往はない。
72歳という年齢を考慮すると、加齢に伴う味覚感受性の低下や唾液分泌の減少が存在する可能性があり、これらは食欲や食事の満足度に影響を与える可能性がある。また、心不全による消化管うっ血は、食欲低下や消化機能障害をもたらす可能性があるため、注意深い観察が必要である。
嚥下機能は正常で、むせや誤嚥の兆候は認められていない。口腔内の状態に関する詳細な情報は不足しているため、口腔内の状態、義歯の適合状態、口腔衛生状態についての評価が必要である。嘔吐や吐気に関する情報も得られていないため、これらの症状の有無についても確認が必要である。
血液データでは、総タンパク6.2g/dL、アルブミン2.8g/dL、ヘモグロビン12.5g/dLと低値を示している。特にアルブミン値の低下は栄養状態の不良を示唆している。これらの値は入院3日目にやや改善傾向を示しているものの、依然として基準値を下回っている。中性脂肪値については情報が不足しているため、評価が必要である。
必要栄養量について、ハリス・ベネディクト式を用いて基礎代謝量を算出すると、男性の計算式(66.47 + 13.75×体重kg + 5.0×身長cm – 6.75×年齢)により、基礎代謝量は約1,327kcal/日となる。これに現在の身体活動レベルを考慮する必要があるが、病棟内歩行が見守りで可能な程度であることから、活動係数は1.2(ベッド上で1日の大半を過ごす場合)から1.3(軽い活動が可能な場合)程度が適切である。したがって、必要エネルギー量は1,592-1,725kcal/日と算出される。さらに、心不全患者では異化亢進により代謝が亢進している可能性があることから、1.1-1.3のストレス係数を考慮する必要がある。これにより、最終的な必要エネルギー量は1,751-2,243kcal/日と見積もられる。タンパク質必要量については、心不全による異化亢進を考慮し、1.0-1.2g/kg/日を目標とすることが推奨され、現在の体重66kg(入院3日目)に基づくと、必要タンパク質量は66-79g/日となる。特に血清アルブミン値が低値であることから、十分なタンパク質摂取が重要である。これらの必要量については、心不全の病態の改善や活動量の変化に応じて、定期的な再評価が必要である。
必要な看護介入として、以下の項目が重要である。毎日の体重測定と食事・水分摂取量の正確な記録を継続する。塩分・水分制限に関する患者教育を実施し、制限の必要性と具体的な管理方法について指導する。妻に対しては、退院後の食事管理に関する具体的な指導を行い、特に塩分制限食の調理方法について栄養士と連携した指導を実施する。また、間食や飲酒に関する生活習慣の改善を支援し、適切な代替行動を提案する。
現在の栄養に関するニーズは、部分的にしか充足されていない状態である。食事摂取量は維持できているものの、血清アルブミン値の低下が示す栄養状態の不良が存在する。また、塩分・水分制限への適応には継続的な支援が必要である。患者本人の生活改善への意欲は高く、家族の支援体制も整いつつあることから、適切な指導と支援により、ニーズの充足に向けた改善が期待できる状態である。
看護問題の明確化
#疾患に伴う代謝亢進に関連した栄養摂取量の不足
#心不全による塩分・水分制限に関連した食生活管理の不効果的対処
#疾患に伴う体液貯留に関連した体重管理の必要性
事例の目次
【ヘンダーソン】心不全 入院3日目(0005)
1.正常に呼吸する
2.適切に飲食する
3.あらゆる排泄経路から排泄する
4.身体の位置を動かし、また良い姿勢を保持する
5.睡眠と休息をとる
6.適切な衣類を選び、着脱する
7.体温を生理的範囲内に維持する
8.身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する
9.環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする
10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは気分を表現して他者とコミュニケーションを持つ
11.自分の信仰に従って礼拝する
12.達成感をもたらすような仕事をする
13.遊び、あるいはさまざまな種類のレクリエーションに参加する
14.正常な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
看護の攻略部屋wiki
看護学生をお助け | 看護過程の見本 | 完全無料でコピー&ペースト(コピペ)OK
コメント