本事例の要約
慢性心不全の急性増悪により緊急入院となった72歳男性の事例である。入院3日目において、薬物療法と水分・塩分制限により症状の改善を認めており、今後は再発予防に向けた生活指導と退院支援を要する事例である。
4.身体の位置を動かし、また良い姿勢を保持する
A氏の日常生活動作(ADL)について、入院前は基本的な動作は自立していたが、心不全症状により連続歩行距離が50m程度に制限されていた状況であった。麻痺や骨折の既往はなく、基本的な運動機能は保持されている。入院後は心不全の急性増悪に伴い、活動範囲がさらに制限された状態となっている。
現在の動作状況として、ベッドからの起き上がりや移乗動作は自立しているものの、病棟内歩行時には看護師の見守りを要する状態である。これは心不全による活動耐性の低下が主な要因である。衣類の着脱は時間をかければ自立して行えるが、上着の着脱時に軽度の息切れがみられる。入浴は現在未実施であり、清拭で対応している。72歳という年齢を考慮すると、加齢に伴う筋力低下や平衡機能の低下が基礎にあり、これらは活動時のリスクを高める要因となりうる。
治療に関連した制限として、フロセミドの静脈内投与が行われており、点滴ラインの管理が必要である。ドレーン類の挿入は行われていない。点滴実施中の活動には特に注意が必要であり、ラインの抜去のリスクに留意する必要がある。
生活習慣について、入院前は日常生活動作全般において自立していた。認知機能は正常で、日常生活に支障をきたすような認知機能の低下は認められていない。これらは活動の自立に向けたリハビリテーションを進める上で有利な要因である。
ADLに関連した呼吸機能について、入院時は起座呼吸を呈し、室内気での経皮的動脈血酸素飽和度は94%であった。現在は治療により呼吸状態は改善し、1-2個の枕を使用して臥床可能となっている。ただし、活動時の息切れは残存しており、特に歩行時や着替え時に症状が出現する。このため、活動時の呼吸状態の観察が重要である。
転倒転落のリスク要因として、以下の項目が挙げられる。夜間のトイレ歩行が2-3回必要であり、夜間の活動による転倒リスクが存在する。心不全による活動耐性の低下があり、動作時の息切れや疲労が生じやすい。加齢による筋力低下や平衡機能の低下の可能性がある。点滴ラインの存在が動作の制限因子となりうる。これらの要因から、転倒リスクは中等度から高度と評価される。
必要な看護介入として、以下の項目が重要である。活動時の呼吸状態を観察し、過度な負荷を避けるよう活動と休息のバランスを調整する。病棟内歩行時は看護師が見守り、必要に応じて介助を行う。夜間のトイレ歩行時はナースコールの使用を促し、必要時は付き添う。点滴ラインの管理を適切に行い、活動時の抜去を予防する。理学療法士と連携し、段階的な活動範囲の拡大を図る。活動時の安全な動作方法について患者教育を行う。
現在の運動機能に関するニーズは、十分には充足されていない状態である。基本的な運動機能は保持されているものの、心不全症状により活動が制限されており、見守りや介助を必要とする状況である。しかし、治療による症状改善と理学療法士による介入が開始されており、患者の意欲も高いことから、適切な支援により段階的な改善が期待できる状態である。
看護問題の明確化
#疾患に伴う心機能低下に関連した活動耐性低下
#疾患と活動制限に関連した転倒転落リスク状態
事例の目次
【ヘンダーソン】心不全 入院3日目(0005)
1.正常に呼吸する
2.適切に飲食する
3.あらゆる排泄経路から排泄する
4.身体の位置を動かし、また良い姿勢を保持する
5.睡眠と休息をとる
6.適切な衣類を選び、着脱する
7.体温を生理的範囲内に維持する
8.身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する
9.環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする
10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは気分を表現して他者とコミュニケーションを持つ
11.自分の信仰に従って礼拝する
12.達成感をもたらすような仕事をする
13.遊び、あるいはさまざまな種類のレクリエーションに参加する
14.正常な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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