【ヘンダーソン】アルツハイマー型認知症 入院7日目(0007)| 10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは気分を表現して他者とコミュニケーションを持つ

ヘンダーソン

事例の要約

アルツハイマー型認知症と診断され5年が経過した83歳女性が、自宅で転倒し入院となった事例である。30年間小学校教諭として勤務していた患者は、夫の他界後に認知症症状が急速に進行し、長男夫婦との同居を機に医療機関を受診していた。入院後は環境の変化により見当識障害が悪化し、教師時代の記憶と現実が混在した発言が増加。さらに誤嚥性肺炎を合併し、食事摂取量が著しく低下している。長男の妻が献身的にケアを続けているものの、介護負担が限界に近づいており、今後の療養方針の検討が必要な状況である。20XX年1月15日入院、介入7日目の事例である。

10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは気分を表現して他者とコミュニケーションを持つ

A氏は元小学校教諭として30年間勤務し、温厚で几帳面な性格であり、教師時代は生徒思いで信望が厚かった。しかし、現在は認知機能の著明な低下がみられ、長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)は12点と低値である。入院後は環境の変化により見当識障害が増悪し、「ここは学校?」「授業の準備をしないと」などの発言が頻回にみられ、現実認識に齟齬が生じている。

コミュニケーション能力に関して、簡単な質問への応答は可能であるが、内容の一貫性を欠くことが多い。特徴的な点として、教師時代の長期記憶は比較的保たれており、その時期の話をすると表情が明るくなるという状況がある。この特徴は、A氏とのコミュニケーションを図る上で重要な手がかりとなる。視力については軽度の老眼があり読書時には眼鏡を使用しているが、日常的なコミュニケーションに支障はない。聴力は年齢相応であり、通常の会話は可能である。

家族関係については、2年前に夫を亡くしており、現在は長男夫婦と同居している。キーパーソンである長男の妻は、「できるだけ家で看たいのですが、夜も眠れず体力的に厳しくなってきました」「認知症が進んでしまって、どう接していいのか分からなくなることがあります」と介護の限界と不安を訴えている。長男は仕事が忙しく平日の面会は難しい状況だが、週末は必ず来院し母の状態を心配している。夜間には「家に帰りたい」「主人が待っているの」との訴えが聞かれ、喪失体験や環境変化に対する不安が表出されている。

医療者との関係性については、入院後の環境変化による混乱や、食事摂取時の拒否的な態度がみられることがある。しかし、これらは認知機能低下による状況理解の困難さや不安から生じている可能性が高く、敵対的な態度というよりは、環境適応の困難さの表れとして理解する必要がある。

必要な看護介入として、まず教師時代の記憶や経験を活用したコミュニケーションの確立が重要である。また、家族の面会時には、A氏の心理状態が安定する機会として積極的に活用し、家族との交流を支援することが必要である。医療者は、A氏の発言や行動の背景にある感情や不安を理解し、適切な距離感を保ちながら信頼関係を構築することが求められる。

総合的に評価すると、感情や欲求を表現し、他者とコミュニケーションを持つというニーズは部分的にしか充足されていない。認知機能の低下により、自身の感情や欲求を適切に表現することが困難な状況にあるが、教師時代の記憶に関連した話題では良好なコミュニケーションが可能である。今後は、この強みを活かしながら、A氏の感情表現を支援し、家族や医療者との信頼関係を構築していく必要がある。また、認知機能の低下により言語的コミュニケーションが困難な場合でも、表情やしぐさなどの非言語的コミュニケーションに注目し、A氏の感情や欲求を理解するよう努める必要がある。

看護問題の明確化

#認知機能低下に関連したコミュニケーション障害

事例の目次

この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

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