本事例の要約
アルツハイマー型認知症と診断され5年が経過した83歳女性が、自宅で転倒し入院となった事例である。30年間小学校教諭として勤務していた患者は、夫の他界後に認知症症状が急速に進行し、長男夫婦との同居を機に医療機関を受診していた。入院後は環境の変化により見当識障害が悪化し、教師時代の記憶と現実が混在した発言が増加。さらに誤嚥性肺炎を合併し、食事摂取量が著しく低下している。長男の妻が献身的にケアを続けているものの、介護負担が限界に近づいており、今後の療養方針の検討が必要な状況である。20XX年1月15日入院、介入7日目の事例である。
3.あらゆる排泄経路から排泄する
A氏の排泄状況について、入院前は日中のトイレ動作は自立していたが、夜間は失禁がみられる状態であった。現在は誤嚥性肺炎の治療のため、ベッド上での安静が必要であり、オムツを使用した全介助の状態となっている。排便に関しては下剤の使用なく良好なコントロールが得られているとの情報があるが、具体的な回数、性状、量については情報が不足しているため、詳細な観察と記録が必要である。排尿に関しても、回数、量、性状についての具体的な情報収集が必要である。発汗については、現在37.8℃の発熱がみられており、発熱に伴う発汗状態の観察が重要である。
必要水分量について検討する。標準体重48.1kgから算出すると、1日の必要水分量は48.1×30ml/kg=1,443mlとなる。これに発熱による追加必要量(体温1℃上昇につき体重1kgあたり約2ml)を考慮すると、37.8℃の発熱により追加で約77ml(48.1kg×2ml×0.8℃)が必要となる。さらに不感蒸泄(15ml/kg/日)による損失約722mlを考慮すると、1日の総必要水分量は約2,242mlと算出される。
輸液・食事・水分の出納バランスについて、現在セフトリアキソン注射用1gを1日2回点滴静注で投与中であるが、詳細な輸液量は不明である。食事は3割程度の摂取にとどまっており、水分摂取量も不明確である。そのため、正確な水分出納バランスの評価ができない状態である。
排泄に関連した食事・水分摂取状況については、ミキサー食でとろみ剤を使用しており、一回量を少なくして時間をかけて摂取している。しかし、摂取量が3割程度と著しく低下しているため、適切な食物繊維や水分の確保が困難な状態である。
麻痺の有無については、パーキンソニズムによる動作の緩慢さはみられるものの、明確な麻痺の記載はない。ただし、加齢による筋力低下とパーキンソニズムの影響により、排泄動作の遂行に支障をきたしている。腹部膨満や腸蠕動音に関する情報は得られていないため、定期的な腹部の観察とアセスメントが必要である。
腎機能に関する血液データでは、尿素窒素28mg/dL(基準値8-20mg/dL)とクレアチニン0.72mg/dL(基準値0.46-0.79mg/dL)を示している。尿素窒素の上昇は、脱水傾向を示唆する可能性がある。糸球体濾過率(GFR)については、情報が得られていないため、算出と評価が必要である。
必要な看護介入として、以下の対応が重要である。排泄物の性状、量、回数の詳細な観察と記録を行う。定時的なオムツ交換とスキンケアを実施し、皮膚トラブルの予防に努める。水分・食事摂取量の正確な把握と記録を行い、必要に応じて輸液による補正を検討する。発熱時の発汗状態を観察し、適切な清潔ケアを実施する。
継続的な観察が必要な項目として、排便・排尿の回数、性状、量の記録、皮膚の状態、腹部症状の有無、バイタルサインの変化、水分摂取量と排泄量のバランス、発汗状態などが挙げられる。また、認知機能低下による排泄認識への影響についても注意深く観察を続ける必要がある。
以上のアセスメントから、A氏の排泄に関するニーズは十分に充足されていない状態にあると判断される。その理由として、オムツ使用による自立性の低下、水分摂取量の不足、排泄状況の詳細な把握が不十分である点が挙げられる。加えて、認知機能低下による排泄認識の低下も影響している可能性がある。これらの問題に対する看護介入と継続的な観察が必要である。
看護問題の明確化
#認知機能低下と活動制限に関連した機能的尿失禁
#誤嚥性肺炎と発熱に関連した体液量不足のリスク状態
事例の目次
【ヘンダーソン】アルツハイマー型認知症 入院7日目(0007)| 今回の情報
1.正常に呼吸する
2.適切に飲食する
3.あらゆる排泄経路から排泄する
4.身体の位置を動かし、また良い姿勢を保持する
5.睡眠と休息をとる
6.適切な衣類を選び、着脱する
7.体温を生理的範囲内に維持する
8.身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する
9.環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする
10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは気分を表現して他者とコミュニケーションを持つ
11.自分の信仰に従って礼拝する
12.達成感をもたらすような仕事をする
13.遊び、あるいはさまざまな種類のレクリエーションに参加する
14.正常な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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