【ヘンダーソン】慢性心不全 急性増悪[高血圧・糖尿病あり](0023)| 5.睡眠と休息をとる

ヘンダーソン

事例の要約

慢性心不全を基礎疾患に持つ患者が、急性増悪により救急搬送され入院した事例。患者は高血圧症と2型糖尿病の既往があり、自宅で突然の呼吸困難と胸部不快感を自覚し救急要請した。入院後は心不全治療とともに、患者の日常生活動作の拡大と再発予防に向けた指導を行っている。介入日は11月15日、入院後5日目である。

5.睡眠と休息をとる

A氏の入院前の睡眠状態は比較的良好で、22時頃に就寝し6時頃に起床する生活リズムであった。ただし、夜間の排尿で1〜2回起きることはあった。これは高齢者に多くみられる睡眠パターンであり、加齢に伴う膀胱容量の減少や夜間の抗利尿ホルモン分泌の減少が影響していると考えられる。また、A氏は心房細動や高血圧、糖尿病などの慢性疾患を有しており、これらの疾患や内服薬も夜間頻尿に影響している可能性がある。入院前は眠剤の使用はなかったとのことであり、基本的な睡眠の質は保たれていたと推測される。

入院後は環境の変化や治療に伴う不安から入眠困難が見られた。また、夜間のバイタルサイン測定や点滴管理、尿量増加による頻回のトイレ通いにより睡眠が分断されることがあった。入院3日目からはゾルピデム5mgが眠前に処方され、内服後は6時間程度の連続した睡眠が取れるようになった。現在も同様の眠剤を継続中である。日中の傾眠はみられないとのことである。このことから、眠剤の使用により一定の睡眠時間は確保されているが、睡眠の質については更なる評価が必要である。特に、ゾルピデムは高齢者では翌日の持ち越し効果による転倒リスク増加の可能性もあるため、使用状況の継続的な評価が重要である。

疼痛や掻痒感の有無については明確な記載がないが、主訴や症状の記載からは強い疼痛や掻痒感は認められていないと推測される。ただし、心不全患者では胸部不快感や呼吸困難感が睡眠を妨げる要因となることがあるため、これらの症状が夜間に増強しないか観察する必要がある。A氏は入院時に胸部不快感を訴えており、夜間の体位変換時など、状況によって症状が出現する可能性も考慮すべきである。

安静度については、入院時は急性心不全の症状が強く、安静臥床を指示されていた。入院3日目からはトイレ歩行が許可され、入院4日目には病棟内の歩行が許可された。現在(入院5日目)は病棟内の歩行が可能となっているが、まだふらつきがみられることがある。安静度の拡大に伴い、日中の活動量が増えることで夜間の睡眠が促進される可能性もあるが、一方で過度な活動は心不全症状を悪化させるリスクもある。適切な活動と休息のバランスを取ることが重要である。

疲労の状態については、現在も労作時の息切れが残存しており、特に階段昇降や長距離歩行では息切れが出現するため、無理のない範囲での活動が指導されている。心不全患者では易疲労性が特徴的であり、日常生活動作でも疲労感を生じやすい。A氏の場合、かがむ動作や上肢を挙上する動作で息切れが生じるため、時間をかけてゆっくりと行っているとの記載がある。また、入浴に関しては、長時間の立位では疲労感が強くなるため、シャワーチェアを使用しているとのことである。これらの状況から、A氏は日常生活動作を行う中で疲労が蓄積しやすく、十分な休息が必要な状態と考えられる。

療養環境への適応状況については、コミュニケーションは良好で、質問に対して適切に応答でき、医療スタッフとも良好な関係が構築できているとの記載がある。また、医療者からの説明も十分理解できていると記載されていることから、療養環境への基本的な適応はできていると推測される。しかし、入院による環境の変化がストレス要因となり、入眠困難の原因となったことは注目すべき点である。特に高齢者は環境変化に対する適応力が低下しているため、慣れない環境での睡眠は阻害されやすい。

ストレス状況としては、「また同じことを繰り返してしまった」と落胆していたとの記載があり、心不全の再発による心理的負担が窺える。ただし、徐々に「今回こそは医師や看護師の言うことをしっかり守らないといけない」と前向きな発言が増えてきたとのことであり、心理的状態は改善傾向にあると考えられる。一方で「好きな料理や飲み物を我慢するのは辛い」と退院後の食事管理への葛藤も見られており、これらがストレス要因となっている可能性がある。

A氏の睡眠と休息に関する看護介入としては、まず睡眠環境の調整が重要である。夜間の処置やケアは可能な限りまとめて行い、睡眠の分断を最小限にする工夫が必要である。また、不必要な物音やライトを減らすなど、物理的環境の調整も重要である。次に、日中の適度な活動と夕方以降のリラクセーションを促進することで、自然な眠気を誘導する支援が有効である。就寝前のリラクセーション技法(深呼吸、軽いストレッチなど)の指導も考慮する。

薬物療法については、現在使用しているゾルピデムの効果と副作用を評価し、必要に応じて用量や薬剤の調整を検討する。特に高齢者では、最小有効量での使用が原則であり、長期使用は避けることが望ましい。非薬物療法を併用しながら、徐々に減量していく方針も検討する必要がある。

また、夜間頻尿による睡眠中断を減らすための工夫として、就寝前の水分摂取を控えめにする(ただし水分制限の範囲内で)、排尿しやすい環境を整える(ポータブルトイレの位置の工夫など)などの対策も有効である。

退院に向けては、在宅での良好な睡眠習慣の確立を支援する必要がある。規則正しい就寝・起床時間の維持、寝室環境の整備、就寝前のルーティン確立などについて指導する。また、睡眠薬に頼らない睡眠方法を段階的に身につけられるよう支援することも重要である。

以上のことから、A氏の睡眠と休息に関するニーズは、現時点では薬物療法によって部分的に充足されている状態である。しかし、薬物に依存した睡眠は質的な面で課題があり、また加齢や疾患による睡眠への影響も考慮すると、より自然で質の高い睡眠の獲得に向けた継続的な支援が必要である。特に退院後の生活を見据えた睡眠習慣の確立と、疲労管理を含めた適切な休息の取り方について、具体的な指導と支援が重要である。

看護問題の明確化

環境変化と治療に伴う不安に関連した睡眠パターンの障害
心不全に伴う労作時呼吸困難に関連した易疲労性 
利尿薬治療と心不全に関連した夜間頻尿

事例の目次

この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

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