【ヘンダーソン】慢性心不全 急性増悪[高血圧・糖尿病あり](0023)| 10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは”気分”を表現して他者とコミュニケーションを持つ

ヘンダーソン

事例の要約

慢性心不全を基礎疾患に持つ患者が、急性増悪により救急搬送され入院した事例。患者は高血圧症と2型糖尿病の既往があり、自宅で突然の呼吸困難と胸部不快感を自覚し救急要請した。入院後は心不全治療とともに、患者の日常生活動作の拡大と再発予防に向けた指導を行っている。介入日は11月15日、入院後5日目である。

10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは”気分”を表現して他者とコミュニケーションを持つ

A氏は72歳の男性で、慢性心不全の急性増悪により入院中である。A氏の表情や言動について具体的な記述は限られているが、入院当初は「また同じことを繰り返してしまった」と落胆していたことから、自身の状況に対する受け止めや感情表現ができていることがわかる。徐々に「今回こそは医師や看護師の言うことをしっかり守らないといけない」と前向きな発言が増えてきており、病状の改善とともに心理的にも前向きな変化が生じていることが示唆される。一方で「好きな料理や飲み物を我慢するのは辛い」と退院後の食事管理への葛藤も表現しており、自分の感情や気持ちを言語化する能力を有していると考えられる。

性格については、几帳面で真面目だが、自分の体調管理には無頓着な一面もあるとされている。このような性格特性は、治療や療養生活への取り組み方にも影響を与えている可能性がある。真面目で几帳面な性格は医療者からの指示を守ろうとする姿勢につながる一方で、体調管理への無頓着さは自己管理の継続に課題をもたらす可能性がある。

家族や医療者との関係性については、キーパーソンは妻(69歳)であり、入院時の手続きや面会に来ているとされている。妻は「夫が友人と会う機会が増えると、つい飲酒や塩分の多い食事を摂ってしまう」と心配している一方で、「食事の工夫をもっと勉強したい」と前向きな姿勢も示しており、A氏の療養を支える意欲がうかがえる。ただし、妻は「私が目を光らせていないといけないのが大変」と介護負担も感じており、夫婦間の関係性や役割分担にストレスが生じている可能性がある。医療者との関係については、「性格は温厚で医療スタッフとも良好な関係が構築できている」との記述から、コミュニケーションに問題はないと考えられる。

言語障害や感覚機能については、A氏に言語障害はなく、会話の理解力も良好で医療者の説明を理解する能力に問題はないとされている。視力については近視であり、老眼鏡を使用している。新聞や書類の読み書きは眼鏡使用下で問題なく行えているため、視覚情報の理解に支障はないと考えられる。聴力は年齢相応で、通常の会話には支障はないが、やや大きめの声で話しかけると反応が良いとの記述から、軽度の聴力低下が示唆される。これは加齢による聴力変化として一般的なものであるが、コミュニケーションにおいては配慮が必要である。補聴器の使用については情報がないため、確認が必要である。

認知機能については、良好で日常生活に支障をきたすような認知機能の低下は認められないとされている。このことからコミュニケーションに認知機能が影響を与える可能性は低いと考えられる。ただし、心不全患者では低酸素状態や薬剤の副作用などにより一時的な認知機能の変動が生じる可能性があるため、継続的な観察が必要である。

面会者の来訪については、妻が面会に来ていることは確認されているが、それ以外の家族や友人などの来訪に関する具体的な情報は提供されていない。長男と長女は独立しており別世帯であるが、面会の頻度や内容については記載がないため、家族のサポート体制を評価するためにも追加情報が必要である。A氏にとって「入院中の精神的支えは家族、特に妻の存在が大きく、面会時には表情が明るくなる傾向がある」とされており、家族の面会が精神的安定に重要な役割を果たしていることがわかる。

A氏は72歳と高齢であり、加齢に伴うコミュニケーション能力の変化が生じている可能性がある。高齢者ではしばしば聴力の低下、特に高音域の聴取困難が生じることがあり、これがコミュニケーションに影響を与える場合がある。また、加齢に伴い情報処理速度が低下することがあり、複雑な説明や早口の会話の理解が困難になる場合もある。A氏の場合、現時点では重度のコミュニケーション障害は認められていないが、やや大きめの声で話しかけると反応が良いという特徴は、高齢者に一般的に見られる聴覚の変化に合致している。

看護介入としては、まずA氏のコミュニケーション特性に配慮した関わりが重要である。具体的には、聴力低下に対応し、やや大きめの声ではっきりと話しかける、騒音の少ない環境で会話する、必要に応じて視覚的な情報(文字や図など)を併用するなどの工夫が有効である。また、複雑な説明は分割して伝え、理解を確認しながら進めることも重要である。

次に、A氏の感情表現や心理的変化の観察と支援が必要である。心不全という慢性疾患を抱えながら生活していくことへの不安や葛藤に対して、傾聴し共感的に関わることが重要である。特に「好きな料理や飲み物を我慢するのは辛い」という気持ちを受け止めつつ、生活の質を維持しながら疾患管理を行う方法を一緒に考えていく姿勢が求められる。

また、家族、特に妻とのコミュニケーションも重要である。妻は介護負担を感じつつも前向きに支援しようとしており、このような家族の負担や思いを定期的に確認し、必要なサポートを提供することが大切である。家族も含めた療養指導を行い、A氏と妻が共に疾患管理に取り組める体制を整えることが望ましい。

退院に向けては、A氏と家族が疾患に関する正確な情報と自己管理の方法を理解し、必要時に適切に医療者とコミュニケーションを取れるよう支援することが重要である。具体的には、心不全症状の悪化サインとその対応方法、服薬管理の方法、生活上の注意点などについて、A氏の認知特性や学習スタイルに合わせた方法で指導することが効果的である。特に真面目で几帳面な性格を活かし、自己管理への積極的な参加を促すアプローチが有効と考えられる。

自分の感情、欲求、恐怖あるいは”気分”を表現して他者とコミュニケーションを持つというニーズに関しては、現在のところ概ね充足されている状態であると考えられる。A氏は自分の感情や思いを表現する能力を有しており、医療者との良好な関係も構築できている。また、家族特に妻との関係も良好で、精神的な支えとなっている。しかし、聴力の軽度低下や、疾患管理に関する葛藤など、コミュニケーションに影響を与える要因も存在するため、これらに配慮した継続的な支援が必要である。特に退院後の自己管理に関するコミュニケーションを強化し、A氏と家族が必要時に適切に医療者と連絡を取り、支援を受けられる体制を整えることが重要である。

看護問題の明確化

なし

事例の目次

この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

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