【ヘンダーソン】慢性膵炎 入院2日目(0019)| 14.”正常”な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる

ヘンダーソン

事例の要約

慢性膵炎の急性増悪で緊急入院となった65歳男性の事例。強い腹痛、背部痛、嘔吐を主訴に救急搬送され、入院となる。長年のアルコール多飲が原因と考えられる。入院後は絶食・補液管理となり、疼痛コントロールを実施している。介入日は6月15日(入院2日目)である。

14.”正常”な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる

A氏は65歳の男性であり、エリクソンの発達段階理論によれば「老年期(統合 対 絶望)」に該当する。この段階では、これまでの人生を振り返り、受容し、意味を見出すことが重要な発達課題となる。A氏は現役の経理部長として社会的役割を維持しており、職業的アイデンティティが確立されていることがうかがえる。しかし、仕事のストレス解消法として不適切な飲酒行動を選択してきたことが現在の健康問題につながっており、健康管理に関する学習と自己管理能力の発達に課題がある状態である。

疾患と治療方法の理解については、A氏は60歳時に慢性膵炎と診断され、内服治療を行っていたが、その後の定期受診を自己判断で中断していた経緯がある。また、膵炎に関する消化酵素薬の服用も自己判断で中断しており、アルコール摂取制限についても医師からの指導を守れていなかった。「医者の言うことを聞いておけばよかった」という発言から、今回の入院を契機に疾患の重大性について一定の理解が深まったと考えられるが、これまでの経過から疾患の慢性的な性質や自己管理の重要性についての十分な理解が不足していたと判断される。

A氏は認知機能に問題はなく、意識清明で見当識も保たれており、医療者とのコミュニケーションは良好である。このことから、認知面での学習障壁はないと考えられる。また、眼鏡を持参し新聞や書類の閲覧に使用していることから、文字情報の取得も問題なく行えている。しかし、A氏の学習意欲や健康管理に対する積極的な姿勢については、過去の治療中断の経緯から十分ではない可能性がある。「こんなに痛いなら、もう酒は控えなきゃいけないのかな」という発言は、痛みという直接的な体験を通じて学習が促されている状態を示しているが、症状が改善した後も学習内容を維持・実践できるかは注意深く観察する必要がある。

家族の参加度合いについては、キーパーソンである妻が「夫の健康のためなら何でもします」と協力的な姿勢を示しており、毎日面会に訪れている。妻は家庭での食事内容も見直す意向を示しており、A氏の学習と健康管理を支援する重要な資源となり得る。長男と長女も父親の健康を気にかけており、週末には来院する予定である。このような家族の協力的な態度は、A氏の学習環境を整え、学びを実践に移す上で大きな支えになると考えられる。特に妻との良好な関係性は、退院後の生活における自己管理の継続において重要な意味を持つ。

加齢の影響としては、65歳という年齢から感覚機能の微細な変化や情報処理速度の低下が生じている可能性があるが、現時点での情報からは顕著な影響は確認されていない。ただし、新しい情報の習得や行動変容においては、若年者と比較してより具体的で反復的な指導が必要となる場合があることを考慮すべきである。

必要な看護介入としては、まずA氏の慢性膵炎に関する知識レベルと自己管理に対する理解度を詳細に評価することが重要である。そのうえで、A氏の学習スタイルや好みに合わせた教育方法を選択し、疾患の病態生理、治療の必要性、アルコールと膵炎の関連性、そして再発予防のための具体的な自己管理方法について指導を行う。特に、アルコールに代わる健康的なストレス対処法についての学習機会を提供することが、行動変容を促すうえで効果的であろう。

教育内容は一度に多くの情報を提供するのではなく、短時間のセッションを複数回に分けて実施することで理解と定着を促進する。また、妻を含めた家族への教育も並行して行い、家庭内でのサポート体制を強化することが望ましい。特に妻がA氏の学習を支援し、習得した知識を日常生活に適用できるよう促す役割を担えるようにすることが重要である。

また、A氏が医療者から一方的に情報を受け取るだけでなく、自ら疑問点を表明し、理解を深めるための質問ができるような対話的な学習環境を整えることも重要である。A氏が自身の健康に関心を持ち、能動的に情報を求めるような姿勢を育むことで、長期的な自己管理能力の向上につながる。

退院後の継続的な学習と支援のために、外来フォローでの定期的な教育セッションの計画や、必要に応じて断酒会などの社会資源の活用についても情報提供を行うことが望ましい。また、産業医との連携を通じて、職場環境においても健康管理がサポートされる体制づくりを検討することが効果的である。

A氏の「正常な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる」というニーズの充足状況は、現時点では不十分である。これは、過去の治療中断や医師の指導を守れなかった経緯から、健康に関する学習と自己管理の実践に乖離があったことを示している。しかし、A氏には認知機能の問題がなく、今回の痛みを伴う体験を通じて学習意欲が高まっている可能性があること、また家族の協力的な姿勢が得られていることから、適切な看護介入により、このニーズを充足させる見込みは十分にある。

看護問題の明確化

#疾患に伴う知識不足に関連した健康管理の自己効力感の低下

事例の目次

この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

看護の攻略部屋wiki

看護学生をお助け | 看護過程の見本 | 完全無料でコピー&ペースト(コピペ)OK


コメント

タイトルとURLをコピーしました