【ヘンダーソン】慢性膵炎 入院2日目(0019)| 10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは”気分”を表現して他者とコミュニケーションを持つ

ヘンダーソン

事例の要約

慢性膵炎の急性増悪で緊急入院となった65歳男性の事例。強い腹痛、背部痛、嘔吐を主訴に救急搬送され、入院となる。長年のアルコール多飲が原因と考えられる。入院後は絶食・補液管理となり、疼痛コントロールを実施している。介入日は6月15日(入院2日目)である。

10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは”気分”を表現して他者とコミュニケーションを持つ

A氏は65歳の男性で、慢性膵炎の急性増悪により入院中である。性格は几帳面で真面目であり、中小企業の経理部長として責任ある立場で働いている。A氏の表情や言動については、医療者とのコミュニケーションは良好であると記載されているが、病状や今後の治療についての不安から時折緊張した表情を見せることがある。特に「早く復帰しないと部下に迷惑がかかる」という発言からは、仕事への責任感と焦りの感情が表出されており、自分の状況に対する懸念を言語化できていることが分かる。また、「こんなに痛いなら、もう酒は控えなきゃいけないのかな」「医者の言うことを聞いておけばよかった」という自問自答や後悔の言葉からは、自己の生活習慣への内省と今後の変化に対する葛藤が垣間見える。

家族との関係性については、妻(63歳)がキーパーソンであり、治療方針の説明や面会時の対応も主に妻が行っている。妻は毎日面会に訪れており、A氏の回復を心から願い「夫の健康のためなら何でもします」と看護師に伝えるなど、協力的な姿勢を示している。面会時にはA氏の表情が和らぎ、リラックスした様子が見られることから、妻との関係性は良好であることがうかがえる。しかし、妻の話によると、A氏は家庭ではストレスや体調の変化を口にすることが少なく、「具合が悪いと言いながらも酒を飲んでしまう」状況が続いていたという。このことから、A氏は家庭内では感情や体調の変化を十分に表現できていない可能性がある。

長男(38歳)と長女(35歳)はそれぞれ独立し別居しているため頻繁な面会は難しいが、電話で父親の状態を気にかけており、週末には来院する予定である。子どもたちからは父親への心配や協力の姿勢が示されており、家族全体としての支援体制は整っていると考えられる。

言語障害、視力、聴力などのコミュニケーション障害については、視力は左右とも矯正視力1.0で、普段は近用眼鏡を使用している。入院時には眼鏡を持参しており、新聞や書類の閲覧に使用している。聴力は正常で、普通の会話音量でのコミュニケーションに問題はない。言語障害の記載はなく、質問の理解や意思表示に問題はないことから、基本的なコミュニケーション機能は保たれていると判断できる。

認知機能に関しては、問題はなく、意識清明で見当識も保たれており、入院による環境変化での一時的な混乱もないとされている。医療者とのコミュニケーションも良好であり、治療や看護に対する理解と協力が得られている状態である。

加齢に関連する要素としては、A氏は65歳であり、顕著な認知機能の低下は認められていないものの、新しい環境への適応能力がやや低下している可能性がある。また、長年の仕事によるストレスや、飲酒習慣などが感情表現のパターンに影響を与えている可能性も考慮する必要がある。

心理的側面では、A氏は仕事のストレスを飲酒で解消する傾向があり、「仕事のストレスを解消する唯一の方法が飲酒だった」と述べている。このことから、ストレス対処法が限定的であり、感情表現よりも行動(飲酒)による発散を選択していた可能性がある。現在は入院により強制的な断酒状態となっているため、ストレス対処法の変更を余儀なくされており、新たな感情表現や対処法の獲得が必要な段階にあると考えられる。

看護介入としては、まず信頼関係の構築に基づく心理的支援が重要である。A氏の表情や言動を注意深く観察し、不安や懸念を表出できる環境を整える。特に疼痛の評価とコントロールは、コミュニケーションの質にも影響を与えるため、定期的な疼痛評価と適切な緩和措置を講じることが必要である。

また、A氏の仕事に対する責任感や焦りの感情を理解し、現在の休養の必要性と回復過程についての見通しを丁寧に説明することで、心理的な安心感を提供する。「部下に迷惑をかける」という懸念に対しては、適切な休養が早期回復と長期的な健康維持につながることを伝え、焦らずに治療に専念できるよう支援する。

飲酒習慣と膵炎の関連についての理解を深めるための健康教育も重要である。A氏自身が「こんなに痛いなら、もう酒は控えなきゃいけないのかな」と考え始めていることを支持し、断酒の意義や具体的な方法について情報提供を行う。同時に、飲酒以外のストレス対処法について一緒に考える機会を設け、新たな感情表現や対処法の獲得を支援する。

家族とのコミュニケーションを促進するための支援も有効である。妻との面会時には、A氏が自分の感情や体調を素直に表現できるよう、適切な環境設定や話題提供を行う。必要に応じて、妻とA氏の間でのより効果的なコミュニケーション方法について助言することも考慮する。

長男や長女の面会が予定されている週末には、家族全体でのコミュニケーションの機会を大切にし、必要に応じて家族会議の場を設定することも検討する。家族全員がA氏の回復と生活習慣の改善をサポートする方法について話し合う機会を提供することで、退院後の支援体制の強化につなげることができる。

入院中のストレス軽減のための工夫も重要である。読書や音楽鑑賞など、A氏の興味や関心に応じた活動を提案し、飲酒に代わるリラクゼーション方法を見つける手助けをする。また、徐々に回復してきた段階では、病棟内での適度な活動や他の患者との交流機会を提供することで、社会的なコミュニケーションの維持を図る。

以上のアセスメントから、A氏の「自分の感情、欲求、恐怖あるいは”気分”を表現して他者とコミュニケーションを持つ」ニーズは、基本的なコミュニケーション機能は保たれているものの、特に家庭内での感情表現や体調変化の伝達が不十分であり、ストレス対処法が限定的であることから、部分的に充足されていない状態であると判断される。適切な看護介入により、感情表現の幅を広げ、効果的なコミュニケーションを通じて対処能力を高めることで、このニーズの充足を図ることが重要である。

看護問題の明確化

#慢性膵炎の急性増悪に伴う治療環境の変化に関連した非効果的コーピング

事例の目次

この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

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