【ヘンダーソン】慢性膵炎 入院2日目(0019)| 今回の情報
1.正常に呼吸する
2.適切に飲食する
3.あらゆる排泄経路から排泄する
4.身体の位置を動かし、また良い姿勢を保持する
5.睡眠と休息をとる
6.適切な衣類を選び、着脱する
7.体温を生理的範囲内に維持する
8.身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する
9.環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする
10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは気分を表現して他者とコミュニケーションを持つ
11.自分の信仰に従って礼拝する
12.達成感をもたらすような仕事をする
13.遊び、あるいはさまざまな種類のレクリエーションに参加する
14.正常な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる
看護計画
本事例の要約
慢性膵炎の急性増悪で緊急入院となった65歳男性の事例。強い腹痛、背部痛、嘔吐を主訴に救急搬送され、入院となる。長年のアルコール多飲が原因と考えられる。入院後は絶食・補液管理となり、疼痛コントロールを実施している。介入日は6月15日(入院2日目)である。
この事例で勉強できること
・アルコール性慢性膵炎の病態と看護
・急性期の疼痛・症状管理
・検査値の解釈とモニタリング
・患者教育と退院支援の方法
今回の情報
基本情報
A氏、65歳、男性。身長168cm、体重65kg(BMI 23.0)。家族構成は妻(63歳)と二人暮らしで、長男(38歳)と長女(35歳)はそれぞれ独立し別居している。キーパーソンは妻であり、治療方針の説明や面会時の対応も主に妻が行っている。職業は中小企業の経理部長で現役で働いているが、今回の入院に際して3週間の休職届を提出した。性格は几帳面で真面目だが、仕事のストレスから休日の飲酒量が多い傾向にある。感染症はなく、アレルギーは花粉症(スギ・ヒノキ)があるが、薬剤アレルギーの既往はない。認知機能に問題はなく、意識清明で見当識も保たれている。入院による環境変化での一時的な混乱もなく、医療者とのコミュニケーションは良好である。
病名
病名は慢性膵炎の急性増悪である。
既往歴と治療状況
既往歴としては、45歳時に高血圧を指摘され降圧剤の内服を開始。53歳時に十二指腸潰瘍で3週間入院治療を受けた経験がある。58歳時に健康診断で脂質異常症を指摘され、食事療法と内服治療を継続中である。60歳時には慢性膵炎と診断され、内服治療を行っていたが、その後の定期受診を自己判断で中断していた。また、62歳時に痛風発作の既往があり、発作時のみ内服治療を受けている。現在は高血圧、脂質異常症に対する投薬治療を継続中である。膵炎に関しては、過去2年間は症状がほぼなかったため、消化酵素薬の服用を自己判断で中断していた。アルコール摂取制限については医師から指導を受けていたが、守れていない状況であった。
入院から現在までの情報
A氏は6月14日朝から強い腹痛と背部痛を自覚し、その後嘔吐を繰り返すようになった。自宅で様子を見ていたが症状が改善せず、午後3時頃に妻が救急車を要請し当院救急外来に搬送された。来院時、上腹部から背部にかけての激しい痛みを訴え、顔面蒼白で冷汗を認めた。血液検査でアミラーゼ値の上昇(1250 U/L)とCRP上昇(5.8 mg/dL)を認め、腹部CTで膵臓の腫大と周囲の炎症所見を確認。慢性膵炎の急性増悪と診断され、同日夕方に緊急入院となった。
入院後は絶食・安静の上、末梢静脈路を確保し補液療法を開始した。疼痛コントロールとしてペンタゾシン15mg/回を4〜6時間ごとに静脈注射で実施している。入院当日は疼痛により睡眠が断続的であったが、6月15日(入院2日目)の朝には疼痛はやや軽減しているものの、依然として腹部不快感と背部痛が続いている状態である。嘔吐は入院後落ち着いているが、軽度の吐き気が持続している。入院時よりアルコール離脱症状に注意し観察を続けているが、現時点では振戦や発汗過多、幻覚などの明らかな離脱症状は認めていない。
バイタルサイン
来院時のバイタルサインは、体温37.8℃、脈拍96回/分・整、血圧158/92mmHg、呼吸数22回/分、SpO₂96%(room air)であった。疼痛による交感神経亢進状態を反映し、脈拍数増加、血圧上昇、軽度の頻呼吸を認めた。また、膵炎に伴う炎症反応を反映し微熱を呈していた。
現在(入院2日目)のバイタルサインは、体温37.2℃、脈拍84回/分・整、血圧142/88mmHg、呼吸数18回/分、SpO₂98%(room air)である。補液療法と疼痛コントロールにより、来院時と比較してやや安定傾向にある。ただし、まだ体温はやや高めであり、脈拍・血圧も基準値より若干高値を示している。疼痛刺激が持続していることを示唆している。疼痛時には一過性に血圧が160/90mmHg程度まで上昇することがある。
食事と嚥下状態
入院前の食事は1日3食摂取していたが、仕事の関係で朝食は軽めに済ませることが多かった。嚥下状態に問題はなく、普通食を摂取できていた。喫煙歴は20本/日×30年であったが、5年前に禁煙に成功している。飲酒は日本酒を毎晩2〜3合、週末は4〜5合と大量に摂取する習慣があった。過去に医師から膵炎のためアルコール摂取を控えるよう指導を受けていたが、ストレス解消を理由に制限を守れていなかった。特に入院1週間前から仕事のストレスが増大し、飲酒量が増加していた。
現在は膵臓の安静のため絶食管理となっており、末梢静脈からの補液で水分・電解質・カロリーを補給している。嚥下機能自体に問題はなく、少量の水分摂取は可能だが、医師の指示で制限されている。口渇感が強く、口腔内の不快感を訴えるため、口腔ケアを1日3回実施している。入院による強制的な断酒状態となっているが、現時点ではアルコール離脱症状の出現はない。
排泄
入院前の排泄状況は、排尿は1日7〜8回で夜間尿は1〜2回程度であった。排便は1日1回の習慣があり、特に問題はなかった。便秘傾向や下痢などの消化器症状はなく、下剤の使用歴もなかった。
現在の排泄状況は、尿量は補液量に応じて1日1500〜2000ml程度あり、尿の色調は濃く、膵炎による軽度脱水状態を反映している。尿器での自力排尿が可能である。排便は入院後まだなく、腹部膨満感を訴えている。腸蠕動音はやや減弱しており、絶食と安静、疼痛による腸管機能低下が考えられる。現時点では下剤の使用はないが、排便がない状態が続けば緩下剤の使用を検討する予定である。
睡眠
入院前の睡眠状態は、仕事の疲れもあり入眠は比較的容易であったが、アルコールの影響で睡眠の質は良くなかった。中途覚醒が多く、特に夜間3時頃に目覚め、その後再入眠困難なことがしばしばあった。睡眠時間は平均5〜6時間程度であった。眠剤の常用はなかった。
現在の睡眠状態は、入院初日は腹痛により断続的な睡眠となり、疼痛時には看護師を呼び鎮痛薬の投与を受けていた。入院2日目の夜間は疼痛のコントロールが改善し、4時間程度のまとまった睡眠が取れるようになったが、病棟環境に慣れていないこともあり浅眠傾向である。眠剤は使用していないが、疼痛コントロール目的でペンタゾシンを投与しており、それにより若干の鎮静効果も得られている状態である。
視力・聴力・知覚・コミュニケーション・信仰
視力は左右とも矯正視力1.0で、普段は近用眼鏡を使用している。入院時には眼鏡を持参しており、新聞や書類の閲覧に使用している。聴力は正常で、普通の会話音量でのコミュニケーションに問題はない。
知覚に関しては、現在上腹部から背部にかけての疼痛があるが、その他の感覚異常は認めない。疼痛の程度はNRS(Numerical Rating Scale)で評価しており、安静時は3〜4/10、体動時や深呼吸時には6〜7/10程度と変動する。冷たいタオルを腹部に当てると疼痛が和らぐと本人が訴えるため、適宜実施している。
コミュニケーションは良好で、質問の理解や意思表示に問題はない。医療者に対して協力的な態度を示しているが、病状や今後の治療についての不安から時折緊張した表情を見せる。妻との面会時は表情が和らぎ、リラックスした様子が見られる。
信仰については特になく、宗教的な配慮は必要としていない。ただし、病室の位置や向きについての強いこだわりはなく、療養環境の調整は容易である。
動作状況
歩行については、入院前は問題なく独歩可能だったが、現在は腹痛・背部痛のため短距離のみゆっくり歩行可能で、長距離は車椅子を使用している。移乗動作は自立しているが、急な体動で痛みが増強するため慎重に行動している。排尿は尿器を自力で使用可能だが、腹圧による疼痛増強がある。排便は入院後まだなく、腹痛のためトイレでの排便に不安がある。入浴は実施せず、清拭で身体清潔を保持している。衣類の着脱は基本的に自立だが、上肢挙上時に疼痛増強があり、一部介助を要する。転倒歴はない。
内服中の薬
内服中の薬
- アムロジピン5mg 1錠 朝食後
- アトルバスタチン10mg 1錠 夕食後
- パンクレリパーゼ(リパクレオンカプセル)150mg 3錠 毎食後(現在は絶食中のため中止)
- フェブキソスタット(フェブリク錠)10mg 1錠 朝食後
- レバミピド100mg 1錠 朝・夕食後
- ペンタゾシン15mg 疼痛時 4〜6時間ごと静脈注射(医師の指示による)
服薬状況は入院中のため看護師管理となっている。入院前は自己管理していたが、時折服薬を忘れることがあり、特にパンクレリパーゼは自己判断で中止していた経緯がある。入院中は絶食のため経口薬の一部が中止となっているが、高血圧と脂質異常症の薬は継続されている。退院後の確実な服薬に向けて、薬剤師による服薬指導を予定している。
検査データ
検査データ比較表
検査項目 | 基準値 | 入院時(6月14日) | 最近(6月15日) |
---|---|---|---|
血液一般検査 | |||
WBC | 3500-9500/μL | 12500/μL | 10800/μL |
RBC | 410-530万/μL | 452万/μL | 448万/μL |
Hb | 13.0-17.0g/dL | 14.2g/dL | 13.8g/dL |
Ht | 39.0-52.0% | 42.5% | 41.0% |
Plt | 14.0-34.0万/μL | 28.5万/μL | 27.8万/μL |
生化学検査 | |||
AST(GOT) | 10-40U/L | 85U/L | 62U/L |
ALT(GPT) | 5-45U/L | 76U/L | 58U/L |
LDH | 120-240U/L | 360U/L | 290U/L |
ALP | 100-325U/L | 450U/L | 420U/L |
γ-GTP | 0-79U/L | 380U/L | 350U/L |
T-Bil | 0.2-1.2mg/dL | 0.9mg/dL | 0.8mg/dL |
TP | 6.5-8.2g/dL | 6.8g/dL | 6.7g/dL |
Alb | 3.8-5.2g/dL | 3.4g/dL | 3.5g/dL |
BUN | 8-20mg/dL | 18mg/dL | 16mg/dL |
Cre | 0.6-1.2mg/dL | 0.8mg/dL | 0.7mg/dL |
eGFR | ≧60mL/min/1.73m² | 78mL/min/1.73m² | 80mL/min/1.73m² |
Na | 135-145mEq/L | 138mEq/L | 140mEq/L |
K | 3.5-5.0mEq/L | 3.8mEq/L | 4.0mEq/L |
Cl | 98-108mEq/L | 102mEq/L | 104mEq/L |
Ca | 8.5-10.5mg/dL | 9.2mg/dL | 9.0mg/dL |
Glu | 70-110mg/dL | 142mg/dL | 128mg/dL |
HbA1c | 4.6-6.2% | 5.8% | 未測定 |
膵酵素 | |||
血清アミラーゼ | 40-130U/L | 1250U/L | 850U/L |
リパーゼ | 13-55U/L | 420U/L | 280U/L |
炎症マーカー | |||
CRP | 0-0.3mg/dL | 5.8mg/dL | 4.2mg/dL |
脂質検査 | |||
T-Chol | 130-219mg/dL | 245mg/dL | 未測定 |
HDL-C | 40-80mg/dL | 42mg/dL | 未測定 |
LDL-C | 70-139mg/dL | 158mg/dL | 未測定 |
TG | 30-149mg/dL | 210mg/dL | 未測定 |
尿検査 | |||
尿蛋白 | (−) | (±) | (−) |
尿糖 | (−) | (−) | (−) |
ケトン体 | (−) | (−) | (−) |
潜血 | (−) | (−) | (−) |
ビリルビン | (−) | (−) | (−) |
画像検査 | |||
腹部CT | 膵臓の腫大・周囲脂肪織の毛羽立ち像 | 未実施 | |
腹部エコー | 膵臓の腫大、膵管の拡張 | 未実施 |
今後の治療方針と医師の指示
今後の治療方針は、慢性膵炎の急性増悪に対する保存的治療を継続することが基本となる。当面は絶食・補液による膵臓の安静を保ち、疼痛コントロールを行いながら炎症の沈静化を図る。現在の計画では、腹痛の改善と血液検査値(特に膵酵素値)の低下傾向を確認しながら、3〜4日後を目安に段階的な経口摂取の再開を検討している。まずは消化の良い流動食から開始し、患者の状態に合わせて徐々に食上げを行う予定である。
医師からは具体的に以下の指示が出されている。末梢静脈からの補液を1日2000ml継続し、水分・電解質・カロリーの補給を行う。疼痛管理としてペンタゾシン15mgを4〜6時間ごとの定期的な投与から疼痛時の頓用へと移行させ、痛みの程度に応じて使用していく。血液検査は隔日で実施し、膵酵素値と炎症反応の推移を確認する。また、アルコール依存に関する評価と指導も平行して行い、精神科医師との連携も検討されている。
患者教育として、膵炎の再発予防のための生活指導、特に禁酒の重要性について強調するよう指示があった。退院後の外来フォローは2週間後に予定され、その際に消化酵素薬の再開や継続的な生活指導を行う方針である。また、長期的なアルコール問題への対応として、断酒会などの社会資源の情報提供も行うよう指示がある。患者の同意があれば、職場環境の調整や産業医との連携も視野に入れることが推奨されている。
本人と家族の想いと言動
本人であるA氏は入院後、痛みが和らいできたことに安堵しながらも、入院の原因が自身の飲酒習慣にあることを認識し、複雑な心境を抱えている。「こんなに痛いなら、もう酒は控えなきゃいけないのかな」と自問自答する様子が見られるが、一方で「仕事のストレスを解消する唯一の方法が飲酒だった」と述べ、禁酒への不安も口にしている。今後の仕事への影響を心配しており、「早く復帰しないと部下に迷惑がかかる」と焦りの言葉も聞かれる。また、過去に医師から受けた生活指導を守れなかったことへの後悔の念も表しており、「医者の言うことを聞いておけばよかった」と繰り返し話している。
家族については、妻が毎日面会に訪れており、A氏の回復を心から願っている様子である。妻は「夫の健康のためなら何でもします」と看護師に伝え、協力的な姿勢を示している。しかし、面会時に「家に帰っても以前と同じ生活に戻るのではないか」という不安を看護師に打ち明けることもある。妻によれば、A氏は家庭ではストレスや体調の変化を口にすることが少なく、「具合が悪いと言いながらも酒を飲んでしまう」状況が続いていたという。妻は「今回の入院を機に夫の生活習慣が変わることを願っている」と述べており、必要なら家庭での食事内容も見直したいとの意向を示している。
長男と長女は仕事の都合で頻繁な面会は難しいが、電話で父親の状態を気にかけており、週末には来院する予定である。長男からは「父は仕事熱心で自分の体調を後回しにするところがある」との言葉が聞かれ、長女は「父の健康のために家族みんなで協力したい」と話している。
【ヘンダーソン】慢性膵炎 入院2日目(0019)| 今回の情報
1.正常に呼吸する
2.適切に飲食する
3.あらゆる排泄経路から排泄する
4.身体の位置を動かし、また良い姿勢を保持する
5.睡眠と休息をとる
6.適切な衣類を選び、着脱する
7.体温を生理的範囲内に維持する
8.身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する
9.環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする
10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは気分を表現して他者とコミュニケーションを持つ
11.自分の信仰に従って礼拝する
12.達成感をもたらすような仕事をする
13.遊び、あるいはさまざまな種類のレクリエーションに参加する
14.正常な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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