本事例の要約
慢性膵炎の急性増悪で緊急入院となった65歳男性の事例。強い腹痛、背部痛、嘔吐を主訴に救急搬送され、入院となる。長年のアルコール多飲が原因と考えられる。入院後は絶食・補液管理となり、疼痛コントロールを実施している。介入日は6月15日(入院2日目)である。
1.正常に呼吸する
A氏は65歳男性で、慢性膵炎の急性増悪により入院している。慢性膵炎の急性増悪は膵臓の炎症が急激に悪化する状態であり、A氏の場合は長期間のアルコール摂取が主要な誘因と考えられる。膵炎による強い腹痛や背部痛は、呼吸運動に影響を与える可能性がある。特に上腹部の疼痛は横隔膜の動きを制限し、呼吸の深さや効率性を低下させることがある。また、炎症反応による発熱も呼吸数増加の要因となりうる。
A氏の呼吸状態について、来院時は呼吸数22回/分と頻呼吸を呈し、SpO₂は96%(room air)であった。これは疼痛による交感神経亢進状態を反映していると考えられる。入院2日目には呼吸数18回/分、SpO₂98%(room air)と改善傾向を示している。これは補液療法と疼痛コントロールの効果と推察される。ただし、肺雑音の聴取所見や呼吸機能検査、胸部レントゲン検査についての情報は得られていないため、今後これらの評価を行う必要がある。特に65歳という年齢を考慮すると、加齢に伴う肺弾性の低下や呼吸筋力の減弱が基礎にある可能性があり、さらに慢性膵炎の急性増悪による腹部症状が呼吸機能に及ぼす影響を詳細に評価することが重要である。
A氏の自覚症状として、明確な呼吸苦の訴えは記録されていないが、深呼吸時に疼痛が増強(NRS 6~7/10)することから、無意識的に浅い呼吸パターンになっている可能性がある。この浅い呼吸は肺の換気不全や無気肺のリスクを高める。咳嗽や喀痰の有無については情報がないため、これらの症状についても評価する必要がある。特に長期臥床や疼痛による深呼吸の制限は、気道クリアランスの低下を招きやすいため注意が必要である。
喫煙歴については、A氏は20本/日×30年の喫煙歴があるが、5年前に禁煙に成功している。この長期間の喫煙は慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器疾患のリスク因子であり、禁煙後も気道の慢性的な変化が残存している可能性がある。禁煙後5年が経過しているとはいえ、30年間の喫煙による気道や肺実質への影響は完全には回復しておらず、特に呼吸器感染症への抵抗性低下や気道過敏性が残存している可能性がある。 このため、入院中の呼吸器合併症予防のための深呼吸や早期離床の指導が重要となる。
呼吸に関するアレルギーについては、花粉症(スギ・ヒノキ)があるが薬剤アレルギーの既往はない。花粉症は季節性のアレルギー性鼻炎であり、現時点での症状の有無や重症度についての情報は得られていない。花粉症が活動期にある場合、鼻閉や鼻汁の症状により口呼吸になりやすく、気道の乾燥や上気道感染のリスクが高まる可能性がある。現在の季節と症状の有無について確認し、必要に応じて対応策を講じることが望ましい。
看護介入としては、まず疼痛コントロールを適切に行い、呼吸への影響を最小限にすることが重要である。ペンタゾシンによる疼痛管理が行われているが、疼痛スケールを用いた定期的な評価と、体位変換時や深呼吸時などの疼痛増強場面での予防的な疼痛管理を考慮する必要がある。また、深呼吸や効果的な咳嗽を促進するための指導、腹部に負担をかけない体位の工夫も重要である。疼痛により動きたがらない場合でも、呼吸器合併症予防のために早期離床を促すことが望ましい。
さらに、喫煙歴のある65歳男性であることから、無症候性の呼吸器疾患の存在も念頭に置き、肺音の聴取や酸素化状態の継続的なモニタリングを行う必要がある。特に夜間や活動後の酸素化状態の変化に注意を払い、必要に応じて医師と連携して呼吸機能検査や胸部画像検査の実施を検討することが望ましい。
以上のアセスメントから、A氏の呼吸に関するニーズは現時点では基本的に充足されていると考えられる。SpO₂値は98%と良好で、明らかな呼吸困難の訴えはなく、呼吸数も正常範囲内に改善している。しかし、腹部疼痛による呼吸制限や長期喫煙歴による潜在的な呼吸機能低下の可能性があり、現在は代償されているものの、入院の長期化や合併症の発生によって呼吸状態が悪化するリスクがある。 そのため、継続的な観察と予防的介入を行いながら、ニーズの充足状態を維持していくことが重要である。
看護問題の明確化
#慢性膵炎の急性増悪に伴う疼痛に関連した非効果的呼吸パターン
事例の目次
【ヘンダーソン】慢性膵炎 入院2日目(0019)| 今回の情報
1.正常に呼吸する
2.適切に飲食する
3.あらゆる排泄経路から排泄する
4.身体の位置を動かし、また良い姿勢を保持する
5.睡眠と休息をとる
6.適切な衣類を選び、着脱する
7.体温を生理的範囲内に維持する
8.身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する
9.環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする
10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは気分を表現して他者とコミュニケーションを持つ
11.自分の信仰に従って礼拝する
12.達成感をもたらすような仕事をする
13.遊び、あるいはさまざまな種類のレクリエーションに参加する
14.正常な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
看護の攻略部屋wiki
看護学生をお助け | 看護過程の見本 | 完全無料でコピー&ペースト(コピペ)OK
コメント