本事例の要約
これは関節リウマチと診断され、疼痛コントロール目的で入院となった60代女性の入院4日目の事例です。入院後、疼痛管理と関節機能の評価が行われている段階であり、今後の治療方針の確立と退院に向けた準備が進められている状況である。11月15日介入。
12.達成感をもたらすような仕事をする
A氏は65歳の女性で、退職前は小学校教師として勤務していた。現在は退職しており、夫と二人暮らしをしている。小学校教師という職業は、子どもたちの成長や学びに直接関わる仕事であり、A氏にとって社会的な役割や責任を持ち、達成感を得られる職業であったと推測される。几帳面で丁寧な性格であることから、教育者として真摯に児童と向き合ってきたことが窺える。また、自立心が強く、常に自分でできることは自分でやりたいという思いを持っていることから、職業生活においても主体的に取り組む姿勢があったと考えられる。
退職後の社会的役割については具体的な情報が得られていないため、家庭内外での役割や地域社会との関わり、趣味やボランティア活動などについての情報収集が必要である。しかし、趣味として編み物をしていることが情報から読み取れ、これがA氏にとって達成感や充実感をもたらす活動の一つとなっている可能性がある。「このまま悪化して家事や趣味の編み物ができなくなるのではないか」という不安を抱いていることからも、家事や編み物がA氏の現在の生活において重要な役割や活動となっていることが示唆される。
家庭内での役割としては、夫と二人暮らしであり、食事の準備は主にA氏が担当していたことが窺える。関節症状が悪化してからは食事の準備に時間がかかるようになり、夫の協力を得るようになったという情報から、これまでA氏が家庭内での家事を主体的に担っていたことが推測される。このような家庭内での役割遂行が、A氏にとって一定の責任感や達成感をもたらしていた可能性がある。
現在A氏は関節リウマチの治療のために入院中であり、日常的な役割や活動が一時的に中断されている状態である。入院という環境の変化と、疾患による身体機能の制限によって、これまで担ってきた役割や活動が制限されることで、達成感や自己価値感に影響を与える可能性がある。特に初めての入院であるため、環境の変化や日常生活の変容に対する適応が求められる状況である。
疾患が仕事や役割に与える影響としては、関節リウマチによる関節痛と朝のこわばりが日常生活動作に制限をもたらしている。特に手指の関節症状は、編み物や細かい作業を必要とする活動に直接的な影響を与えると考えられる。朝のこわばりにより箸の使用が困難な場合があり、スプーンを使用して自力摂取している状況や、衣類の着脱において特に上着のボタンやファスナーの操作、靴下の着脱に時間がかかるなどの情報から、細かい手指の動作を必要とする活動に制限が生じていることが分かる。このような制限は、A氏が退職後に従事している家事や趣味活動の遂行に影響を与え、それによって得られる達成感や充実感を減少させる可能性がある。
また、疾患の慢性的な経過と進行性という特性から、A氏は将来的な役割遂行能力の低下を懸念している。「自分のことは自分でできるようになりたい」という願望は、自立した生活の維持への強い希望を示しており、自立性の喪失に対する不安が存在することを示唆している。このような不安は、疾患と共に生きていく中での心理的な課題となり得る。
加齢による影響としては、65歳という年齢は一般的に定年退職後の時期に当たり、職業人としての役割から引退し、新たな生活スタイルや役割への移行期にある。この時期の心理社会的発達課題として、これまでの人生を振り返り統合する「自我の統合 対 絶望」があり、人生における達成感や満足感が重要となる。また、加齢に伴い身体機能や認知機能の変化が生じる可能性があり、これらの変化と疾患の症状が相互に影響し合うことで、役割遂行能力に複合的な影響を与える可能性がある。
看護介入としては、まずA氏の退職後の生活における役割や活動、それらに対する価値観や意味づけについて詳細に情報収集することが重要である。特に、現在の家庭内での役割、地域社会との関わり、趣味や余暇活動などについて把握し、それらがA氏にとってどのような達成感や満足感をもたらしているかを理解する必要がある。
また、関節リウマチの症状による役割遂行への影響を最小限にするための支援も重要である。リハビリテーションと連携し、関節可動域の維持・改善や疼痛コントロールを図るとともに、日常生活動作の工夫や補助具の活用についての指導を行うことが有効である。特に手指の細かい動作に制限がある場合には、編み物などの趣味活動を継続するための道具の工夫や代替的な方法の提案も検討できる。
入院中においても、A氏が達成感を得られる活動を取り入れることが重要である。例えば、セルフケアへの積極的な参加や、病棟内でできる範囲での役割を持つことなどが考えられる。また、関節リウマチの自己管理能力を高めるための教育的支援も、新たな役割の獲得と自己効力感の強化につながる可能性がある。
退院後の生活に向けては、家族(特に夫)との役割分担の再調整や、必要に応じた社会資源の活用についても検討する必要がある。A氏の自立心を尊重しつつも、必要な支援を適切に取り入れることで、無理なく役割を遂行し、達成感を得られるような環境調整が重要である。
また、疾患の慢性的経過による長期的な影響についても考慮し、疾患の進行に伴う役割の変化や喪失に対する心理的な適応を支援することも重要である。疾患と共に生きる中での新たな意味や価値の発見を促進し、変化する状況の中でも達成感や満足感を得られる活動や役割について共に考えていく姿勢が求められる。
総合的に判断すると、A氏の「達成感をもたらすような仕事をする」というニーズについては、退職後の生活における役割や活動に関する情報が限られているものの、家事や趣味の編み物などの日常的な活動が制限されていることから、現在このニーズは十分に充足されていない状態にあると考えられる。関節リウマチの症状によって、これまで担ってきた役割や活動の遂行が困難になっている面があり、それに伴う達成感や満足感の減少が生じている可能性がある。今後は、症状コントロールの改善とともに、A氏の価値観や希望に沿った形で、達成感を得られる活動や役割を維持・発展させていくための支援が必要である。
看護問題の明確化
#疾患に伴う関節機能の制限に関連した役割遂行の障害
事例の目次
【ヘンダーソン】関節リウマチ 入院4日目(0017)| 今回の情報
1.正常に呼吸する
2.適切に飲食する
3.あらゆる排泄経路から排泄する
4.身体の位置を動かし、また良い姿勢を保持する
5.睡眠と休息をとる
6.適切な衣類を選び、着脱する
7.体温を生理的範囲内に維持する
8.身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する
9.環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする
10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは気分を表現して他者とコミュニケーションを持つ
11.自分の信仰に従って礼拝する
12.達成感をもたらすような仕事をする
13.遊び、あるいはさまざまな種類のレクリエーションに参加する
14.正常な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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