本事例の要約
これは関節リウマチと診断され、疼痛コントロール目的で入院となった60代女性の入院4日目の事例です。入院後、疼痛管理と関節機能の評価が行われている段階であり、今後の治療方針の確立と退院に向けた準備が進められている状況である。11月15日介入。
14.”正常”な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる
A氏は65歳の女性で、退職前は小学校教師として勤務していた。エリクソンの発達段階論に基づけば、A氏は老年期(65歳以上)に位置し、「自我の統合 対 絶望」という発達課題に向き合う時期にある。退職後の生活において新たな役割を模索しながら、これまでの人生を振り返り、意味や価値を見出していく段階である。小学校教師という教育者としての長年の経験は、知的好奇心や学習意欲の高さを示唆するものであり、A氏の人生においてこれまで重要な側面であったと推測される。また、几帳面で丁寧な性格は、物事を正確に理解し、実践することへの志向性の高さを示している。
疾患と治療方法の理解については、A氏は「病気のことをもっと知りたい」「退院後も薬をずっと飲み続けなければならないのか」という疑問を持っており、医療者に積極的に質問していることから、疾患に関する学習意欲が高いことが窺える。しかし、関節リウマチという疾患の特性や治療方法、薬物療法の必要性などについての理解度に関する具体的な情報は得られていないため、更なる情報収集が必要である。特に、メトトレキサートやプレドニゾロンなどの薬剤の作用機序や副作用、服用方法などに関する知識、関節リウマチの進行や予後に関する理解、日常生活での自己管理方法に関する知識などについて評価することが重要である。
認知機能については、認知機能は正常で、日常会話や指示理解に問題はなく、見当識障害も認めていない。これは新しい情報を理解し、学習する能力が保たれていることを示している。コミュニケーション能力も良好で、自分の症状や不安について明確に表現することができる。これらの能力は、疾患や治療に関する情報を理解し、自己管理能力を高めていくうえで重要な基盤となる。
学習意欲については、「病気のことをもっと知りたい」という発言や、医療者に積極的に質問している姿勢から、A氏の学習意欲は高いと評価できる。「病気と上手く付き合っていきたい」という発言も、疾患に対する前向きな姿勢と自己管理への意欲を示している。しかし、具体的にどのような情報を求めているのか、どのような形での学習が希望されているのかについては詳細が不明であり、A氏の学習ニーズをより具体的に把握する必要がある。
家族の参加度合いについては、キーパーソンである夫が「妻の痛みを何とかしてあげたい」「自分にできるサポートは何でもしたい」と話しており、面会時には積極的に医療者とコミュニケーションを取っていることから、支援的な姿勢が窺える。また、「薬の管理は二人で確認しながらやっていきたい」と退院後の服薬管理についても関心を持っていることから、夫もA氏の疾患理解や自己管理を支える重要な役割を担う意向があることが分かる。夫婦の関係は良好で、互いを思いやる言動が多く見られていることから、夫はA氏の学習を支援する重要なリソースとなる可能性が高い。
加齢による影響としては、高齢期には認知機能や記憶力の変化が生じることがあり、新しい情報の理解や記憶に影響を与える可能性がある。特に複雑な医療情報や薬物療法の管理など、専門的な内容の理解には注意が必要である。また、感覚機能(視力や聴力)の低下も情報の取得や理解に影響を与えることがある。A氏は軽度の老眼があり、新聞や書類を読む際には老眼鏡を使用しているため、文字情報の提供においては視力への配慮が必要である。また、高齢者では一度に多くの情報を処理することが困難になることがあるため、情報提供の量やペースにも配慮が必要である。
看護介入としては、まずA氏の関節リウマチと治療に関する知識レベルや理解度を詳細に評価することが重要である。具体的には、疾患の病態生理、薬物療法の目的と方法、副作用とその対処法、自己管理の方法、症状増悪時の対応などについて、A氏がどの程度理解しているかを把握する。
次に、A氏の学習ニーズと学習スタイルに合わせた教育的アプローチを計画する。小学校教師としての経験から、A氏は教育や学習のプロセスに精通していると考えられるため、その経験や能力を活かした形での情報提供が効果的である可能性がある。例えば、書面での情報提供、視覚教材の活用、質疑応答の機会の設定などが考えられる。また、A氏の自立心の強さを考慮し、自己管理能力を高めるための実践的な知識や技術の習得に重点を置くことも重要である。
夫との共同学習の機会を設けることも有効である。夫も参加する薬物療法の説明や自己管理方法の指導を行うことで、退院後の生活における相互支援の基盤を強化することができる。特に「薬の管理は二人で確認しながらやっていきたい」という夫の意向を活かし、服薬管理の方法や注意点について夫婦で学ぶ機会を設けることが重要である。
また、退院後の継続学習を支援するための情報提供も重要である。関節リウマチに関する信頼できる情報源(書籍、ウェブサイト、患者会など)の紹介や、地域の医療・福祉サービスに関する情報提供を行い、A氏と夫が退院後も必要な情報にアクセスできるよう支援することが望ましい。
学習の進捗や理解度を定期的に評価することも重要である。特に薬物療法の管理や自己管理行動については、実際に行ってもらいながら確認し、必要に応じて追加の説明や指導を行うことが効果的である。
総合的に判断すると、A氏の「正常な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる」というニーズについては、学習意欲は高く、認知機能も保たれており、家族(夫)のサポートも期待できる状況である。しかし、関節リウマチという疾患と治療に関する具体的な理解度や知識レベルについての情報が不足しており、また現在の入院環境における学習機会の充足状況も不明である。そのため、現時点ではこのニーズが十分に充足されているとは判断できず、更なる情報収集と教育的支援が必要であると考えられる。特に「病気のことをもっと知りたい」というA氏の希望に応え、疾患と共に生きていくための自己管理能力を高めるための学習支援が重要である。
看護問題の明確化
#疾患に伴う治療の複雑さに関連した知識不足
事例の目次
【ヘンダーソン】関節リウマチ 入院4日目(0017)| 今回の情報
1.正常に呼吸する
2.適切に飲食する
3.あらゆる排泄経路から排泄する
4.身体の位置を動かし、また良い姿勢を保持する
5.睡眠と休息をとる
6.適切な衣類を選び、着脱する
7.体温を生理的範囲内に維持する
8.身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する
9.環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする
10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは気分を表現して他者とコミュニケーションを持つ
11.自分の信仰に従って礼拝する
12.達成感をもたらすような仕事をする
13.遊び、あるいはさまざまな種類のレクリエーションに参加する
14.正常な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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