本事例の要約
これは関節リウマチと診断され、疼痛コントロール目的で入院となった60代女性の入院4日目の事例です。入院後、疼痛管理と関節機能の評価が行われている段階であり、今後の治療方針の確立と退院に向けた準備が進められている状況である。11月15日介入。
10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは”気分”を表現して他者とコミュニケーションを持つ
A氏は65歳の女性で、関節リウマチの治療のため入院中である。A氏の表情は穏やかであり、医療者との会話においても適切な応答ができている。几帳面で丁寧な性格であり、自立心が強く自分でできることは自分でやりたいという意思が明確である。この性格特性は、疾患による制限がある中でも自己効力感を維持する上で重要な強みとなっている。一方で、このような性格は、身体機能の低下によって自立した行動ができなくなることへの不安や焦りを生じさせる要因ともなっている。実際にA氏は「自分のことは自分でできるようになりたい」「このまま悪化して家事や趣味の編み物ができなくなるのではないか」という不安を明確に表現している。
A氏の言語能力は良好で、自分の症状や不安について明確に表現することができている。視力については軽度の老眼があり、新聞や書類を読む際には老眼鏡を使用しているが、日常生活に大きな支障はない。聴力は正常であり、通常の会話音量での意思疎通に問題はない。認知機能も正常で、日常会話や指示理解に問題はなく、見当識障害も認めていない。これらのコミュニケーション機能が保たれていることは、A氏が自分の状態や感情を適切に表現し、医療者や家族との関係を構築する上で重要な基盤となっている。
A氏は医療者との関係性も良好に保たれており、穏やかな口調で話し、質問に対して適切に応答している。特に「病気のことをもっと知りたい」「退院後も薬をずっと飲み続けなければならないのか」など、自分の疾患や治療に関する具体的な疑問を医療者に積極的に質問している点は、A氏が自分の健康管理に主体的に関わろうとしていることを示している。このような姿勢は、慢性疾患である関節リウマチの自己管理において重要であり、支援すべき点である。
家族関係については、キーパーソンである夫との関係が良好であり、互いを思いやる言動が多く見られている。夫は「妻の痛みを何とかしてあげたい」「自分にできるサポートは何でもしたい」と話しており、面会時には積極的に医療者とコミュニケーションを取っている。また退院後の生活について「家事は自分も分担する」「必要なら手すりをつけるなど家の改修も考えている」と具体的な支援の意向を示しており、夫からの実質的・情緒的サポートが期待できる状況である。A氏にとって夫の存在は重要な心理的支えとなっていると考えられ、夫婦間のコミュニケーションを通じて感情表出や不安の軽減が図られている可能性が高い。
面会者については具体的な情報がないが、キーパーソンである夫の面会があることは確認されている。他の家族や友人の面会状況については情報収集が必要である。社会的なつながりはA氏の精神的健康を支える重要な要素であり、面会者の有無や面会時のA氏の反応を観察することで、退院後の社会的サポート体制を評価する必要がある。
A氏の感情表現としては、「少しでも痛みが和らいでほしい」「このまま悪化して家事や趣味の編み物ができなくなるのではないか」という不安を訴えている。しかし同時に「病気と上手く付き合っていきたい」という前向きな発言もみられており、疾患への適応プロセスの途上にあると考えられる。関節リウマチという慢性疾患の診断を受け、初めての入院を経験していることから、疾患受容や将来への不安に対する心理的支援が必要である。
A氏は65歳という年齢から、加齢に伴う心理社会的変化も考慮する必要がある。退職前は小学校教師として勤務しており、社会的役割の変化を経験している。また、関節リウマチに加えて高血圧症、右膝変形性関節症、骨粗鬆症といった複数の健康問題を抱えている。高齢者では複数の健康問題が重なることで不安や抑うつ傾向が強まることがあり、A氏の心理状態を継続的に観察していく必要がある。
看護介入としては、まずA氏が自分の感情や不安を表現できる機会を定期的に設けることが重要である。特に関節リウマチという慢性疾患に対する理解を深めるための情報提供や教育的支援を行い、自己管理能力の向上を図ることが必要である。薬物療法については、メトトレキサートやステロイド製剤の作用・副作用、服用方法などについて具体的な説明を行い、退院後の自己管理に向けた準備を進めるべきである。また、A氏の自立心を尊重しながらも、必要な援助を適切に提供するバランスを取ることが重要である。特に朝の手指のこわばりが強い時間帯には、自己効力感を損なわないよう配慮しつつ援助を提供する必要がある。
夫との良好な関係を維持・強化するために、夫も含めた指導や説明の機会を設け、退院後の生活における具体的な支援方法についても話し合うことが望ましい。特に薬の管理や日常生活動作の援助方法、症状悪化時の対応などについて、夫婦で共有できるよう支援する必要がある。
A氏のニーズとしては、①疼痛の軽減、②自立した日常生活の維持、③疾患に関する理解の深化、④将来への不安の軽減、⑤夫との良好な関係の維持が挙げられる。現時点では、薬物療法により疼痛は軽減傾向にあるものの完全には解消されておらず、特に朝のこわばりによる日常生活動作の制限が残存している。疾患に関する理解については積極的に質問する姿勢が見られるが、まだ十分とは言えない可能性がある。将来への不安については表出されており、心理的支援が必要な状態である。夫との関係は良好で互いを思いやる関係性が構築されている。
総合的に判断すると、A氏は自分の感情、欲求、恐怖あるいは”気分”を表現して他者とコミュニケーションを持つというニーズについては、基本的なコミュニケーション能力は充足されているが、疾患に対する不安や将来への懸念については十分に充足されていない状態である。今後も継続的な観察と心理的支援を行いながら、A氏が疾患と共に生きていくための自己管理能力の向上と心理的適応を促進していく必要がある。
看護問題の明確化
#疾患に伴う慢性的経過と機能制限に関連した不安
事例の目次
【ヘンダーソン】関節リウマチ 入院4日目(0017)| 今回の情報
1.正常に呼吸する
2.適切に飲食する
3.あらゆる排泄経路から排泄する
4.身体の位置を動かし、また良い姿勢を保持する
5.睡眠と休息をとる
6.適切な衣類を選び、着脱する
7.体温を生理的範囲内に維持する
8.身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する
9.環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする
10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは気分を表現して他者とコミュニケーションを持つ
11.自分の信仰に従って礼拝する
12.達成感をもたらすような仕事をする
13.遊び、あるいはさまざまな種類のレクリエーションに参加する
14.正常な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
看護の攻略部屋wiki
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