本事例の要約
これは関節リウマチと診断され、疼痛コントロール目的で入院となった60代女性の入院4日目の事例です。入院後、疼痛管理と関節機能の評価が行われている段階であり、今後の治療方針の確立と退院に向けた準備が進められている状況である。11月15日介入。
9.環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする
A氏は65歳の女性で、関節リウマチのために入院中である。認知機能は正常で、日常会話や指示理解に問題はなく、見当識障害も認めない。このことから、危険箇所の理解や環境認識に関する認知的な問題はないと考えられる。しかし、関節リウマチによる両手指の朝のこわばりと関節痛、右膝変形性関節症による膝関節痛があり、これらの症状が身体機能に制限をもたらし、二次的な転倒リスクを高めている可能性がある。特に朝方は特に関節のこわばりがあるため、起き上がりや立ち上がりに時間を要し、この時間帯の動作に注意が必要である。
現時点で点滴やルート類の使用に関する記載はないが、薬物療法として週1回のメトトレキサートやプレドニゾロンなどの内服治療を行っている。点滴やルート類などの医療機器に関連した危険因子は少ないと考えられるが、今後の治療過程で点滴が必要になった場合には、関節痛による不意の動きでの自己抜去リスクについても考慮する必要がある。
術後せん妄に関する情報は記載されていないが、A氏は手術を受けた記録はなく、関節リウマチの薬物療法を目的とした入院であるため、術後せん妄のリスクは現時点では低いと考えられる。ただし、65歳という年齢と初めての入院による環境変化、睡眠障害(入眠困難や早朝覚醒)があることから、せん妄のリスク因子は存在している。そのため、今後も認知機能や睡眠状態の変化について注意深く観察を継続する必要がある。
皮膚損傷の有無については、具体的な記載がないため詳細な情報収集が必要である。関節リウマチと変形性関節症があることから、関節部位の変形や腫脹による皮膚への圧迫や摩擦が生じている可能性がある。また、メトトレキサートやプレドニゾロンの副作用として皮膚の脆弱化が起こることがあるため、皮膚の状態に関する詳細な観察が必要である。特に、ステロイド長期使用による皮膚の菲薄化や紫斑の有無、関節部位の発赤や損傷の有無について評価すべきである。
感染予防対策については、メトトレキサートとプレドニゾロンという免疫抑制作用のある薬剤を使用していることから、感染リスクが上昇していると考えられる。特に、メトトレキサートは細胞分裂を抑制し、プレドニゾロンは免疫応答を抑制するため、感染に対する抵抗力が低下している可能性が高い。そのため、手洗いの徹底、面会者の制限や体調不良者との接触制限、環境整備などの感染予防対策が重要である。しかし、現在の感染予防対策の実施状況に関する具体的な情報がないため、これらについても詳細な情報収集と指導が必要である。
血液データを見ると、白血球数(WBC)は入院時9,200/μLから最近8,800/μLとやや高値を示しているが、正常範囲上限に近い値である。C反応性蛋白(CRP)は入院時4.2mg/dLから最近3.8mg/dLと高値を示しており、炎症反応の持続を示唆している。これらの所見は関節リウマチの疾患活動性を反映していると考えられるが、感染症を示唆する明らかな上昇傾向は認められない。ただし、免疫抑制状態にあることから、軽微な感染であっても重症化するリスクがあるため、炎症反応の変動には注意が必要である。
転倒リスクについては、関節痛により歩行が緩慢であること、膝関節痛のため階段の昇降時に痛みを訴えることなどから、移動時の転倒リスクが存在すると考えられる。また、排尿回数が夜間1回程度あることから、夜間のトイレ移動時の転倒リスクも考慮する必要がある。これまでに転倒歴はないとのことだが、入院環境への不慣れさや関節症状の変動により、転倒のリスクは常に存在している。特に、朝方のこわばりが強い時間帯や疼痛増強時、夜間のトイレ移動時には注意が必要である。
A氏は65歳であり、加齢に伴う運動機能や感覚機能の変化も考慮する必要がある。高齢者は一般的に反射機能の低下、筋力低下、平衡感覚の低下などにより転倒リスクが高まりやすい。これらの加齢変化に関節リウマチによる関節痛とこわばりが加わることで、さらにリスクが増大する可能性がある。また、軽度の老眼があり、近方視に老眼鏡を使用していることから、老眼鏡の使用・非使用の切り替え時の視覚的な調整不全による転倒リスクも考慮する必要がある。
必要な看護介入としては、まず環境整備が重要である。病室内や廊下、トイレなどの移動経路に障害物がないか確認し、必要に応じて手すりの使用を促進する。特に、夜間のトイレ移動時には足元灯を点灯し、安全な移動をサポートする必要がある。また、ベッドの高さや位置、トイレの配置などを調整し、移動距離を最小限にすることも有効である。
転倒予防のために、A氏の関節症状の日内変動を把握し、特に朝方のこわばりが強い時間帯や疼痛増強時には見守りや介助を強化する必要がある。また、適切な履物の選択(滑りにくい、足にフィットするものなど)や、必要に応じて歩行補助具の使用も検討すべきである。
感染予防対策としては、手洗い・うがいの徹底、面会者の制限と体調確認、環境整備(定期的な清掃、換気など)を行う必要がある。また、A氏自身への感染予防教育を行い、自己管理能力を高めることも重要である。特に、免疫抑制剤使用中は感染のリスクが高まることを理解し、発熱や咳、倦怠感などの感染兆候があれば早期に報告するよう指導することが必要である。
皮膚保護の観点からは、定期的な皮膚観察を行い、発赤や損傷の早期発見に努めるとともに、適切な保湿ケアや体位変換の指導を行うことが重要である。特に、関節部位や圧迫を受けやすい部位の皮膚状態に注意を払う必要がある。
退院に向けては、自宅環境の評価と調整が必要である。段差の解消、手すりの設置、転倒リスクとなる環境因子の除去など、自宅での安全確保について夫も含めた指導が重要である。また、関節リウマチの長期管理において、感染予防や転倒予防の重要性を理解し、継続的な自己管理ができるよう支援することが必要である。
以上のことから、A氏の環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにするというニーズは、認知機能は保たれているものの、関節リウマチによる身体機能の制限や免疫抑制剤使用による感染リスクの上昇があるため、完全には充足されていないと判断される。特に、転倒予防と感染予防の観点からの継続的な観察と支援が必要であり、これらの介入を通じて安全確保を図ることが重要である。
看護問題の明確化
#疾患に伴う関節機能障害に関連した転倒リスク状態
#疾患治療に伴う免疫抑制状態に関連した感染リスク状態
事例の目次
【ヘンダーソン】関節リウマチ 入院4日目(0017)| 今回の情報
1.正常に呼吸する
2.適切に飲食する
3.あらゆる排泄経路から排泄する
4.身体の位置を動かし、また良い姿勢を保持する
5.睡眠と休息をとる
6.適切な衣類を選び、着脱する
7.体温を生理的範囲内に維持する
8.身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する
9.環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする
10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは気分を表現して他者とコミュニケーションを持つ
11.自分の信仰に従って礼拝する
12.達成感をもたらすような仕事をする
13.遊び、あるいはさまざまな種類のレクリエーションに参加する
14.正常な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
看護の攻略部屋wiki
看護学生をお助け | 看護過程の見本 | 完全無料でコピー&ペースト(コピペ)OK
コメント