本事例の要約
55歳女性の胃癌(stageⅡA)症例。
職場健診を契機に発見され、7月8日に胃全摘術およびルーY法を施行。
既往に高血圧、脂質異常症あり。
術後経過は良好で、術後5日目より氷片摂取開始、7日目から流動食を開始している。点滴は減量中で、疼痛コントロール良好、ADLも病棟内歩行が自立している。
退院は術後14日目を予定。早期の職場復帰を希望する患者に対し、食事への不安があり、夫は協力的で食事管理に関心が高い。今後は合併症予防に努めながら、段階的な食事進行と活動範囲の拡大を図り、補助化学療法の必要性を検討する方針である。
12.達成感をもたらすような仕事をする
A氏は経理課の主任として管理職の立場にあり、55歳という職業人としての円熟期を迎えている。夫との2人暮らしで、子どもたちは独立しており、仕事を通じた自己実現と社会貢献が生活の重要な部分を占めていたと考えられる。几帳面な性格であることからも、業務遂行への責任感が強く、主任としての役割に誇りを持って取り組んでいたことが予測される。
今回の胃癌診断と胃全摘術は、A氏の職業生活に重大な影響を及ぼしている。現在の休職により、経理課主任としての業務が中断され、部下の指導や管理業務の継続性が損なわれている状況である。「できるだけ早く仕事に戻りたい。部下たちに心配をかけているから」という発言からは、管理職としての強い使命感と部下への思いやりが表れている一方で、早期職場復帰への焦りも感じられる。しかし、術前から既に6kgの体重減少が認められ、現在は流動食(1食150ml)の段階であることから、体力や栄養状態の回復には相当の時間を要すると予測される。また、「どのくらい食べられるようになるのか」「体重は戻るのか」という不安の表出からも、職場復帰後の業務遂行に対する具体的な懸念を抱えていることが理解できる。
疾患が仕事に与える具体的な影響として、以下の三点が特に重要である。
・体力面での制限:術後の回復過程にあり、現時点では病棟内歩行が可能な段階だが、職場での終日の勤務に耐えうる体力の回復には時間を要する。
・食事に関する制約:職場での食事時間の確保や摂取方法の調整が必要となる。
・術後補助化学療法の可能性:化学療法が必要となった場合、治療スケジュールと業務との調整が新たな課題となる。
家庭における役割の変化も見られる。夫は「妻の体調が一番大事。仕事のことは焦らなくていい」と支援的である一方、A氏自身は早期の社会復帰を強く望んでいる。この意識の差は、A氏の自己役割認識と現実の回復過程との間にギャップを生じさせる可能性がある。
今後の看護介入として、まず短期的には、確実な術後回復を支援しながら、職場復帰に向けた具体的な段階計画を立案する必要がある。具体的には、現在の流動食から段階的に食事形態を進め、職場での食事時間の確保や少量頻回摂取の方法について実践的な指導を行う。また、体力回復状況を確認しながら、現在の病棟内歩行から徐々に活動範囲を広げ、職場での終日勤務に耐えうる体力の回復を目指す。さらに、退院後の外来通院時には、実際の職場での困難さや対処方法について継続的に確認し、必要に応じて勤務時間や業務内容の調整について主治医を交えた検討を行うことが重要である。
以上の状況から、達成感をもたらすような仕事をするというニーズは現時点では未充足である。これは、身体的回復が途上であることに加え、職場復帰後の具体的な業務遂行方法が明確になっていないためである。今後は、A氏の回復状況と職場復帰への思いを丁寧に確認しながら、現実的かつ段階的な職場復帰計画を共に構築していく必要がある。
看護問題の明確化
# 胃癌の手術に関連した社会復帰への不安
事例の目次
【ヘンダーソン】胃癌 術後7日目(0001) | 今回の情報
1.正常に呼吸する
2.適切に飲食する
3.あらゆる排泄経路から排泄する
4.身体の位置を動かし、また良い姿勢を保持する
5.睡眠と休息をとる
6.適切な衣類を選び、着脱する
7.体温を生理的範囲内に維持する
8.身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する
9.環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする
10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは気分を表現して他者とコミュニケーションを持つ
11.自分の信仰に従って礼拝する
12.達成感をもたらすような仕事をする
13.遊び、あるいはさまざまな種類のレクリエーションに参加する
14.正常な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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