【ゴードン】慢性閉塞性肺疾患”COPD” 入院4日目 (0008)

ゴードン

本事例の要約

慢性閉塞性肺疾患(COPD)の急性増悪により緊急入院となった72歳男性の入院4日目の事例である。長年の喫煙習慣があり、入院前から呼吸困難感の増強を認めていた。入院後、酸素療法と薬物療法により症状は改善傾向にあるが、禁煙への意欲は低く、ADLの低下と再発予防が課題となっている。妻は今後の介護に不安を抱えており、包括的な支援を必要としている事例である。

この事例で勉強できること

COPD・禁煙指導・酸素療法のアセスメント

今回の情報

基本情報

A氏は72歳の男性で、身長165cm、体重48kgと痩せ型である。3ヶ月で7kgの体重減少がみられ、BMIは17.6と低値である。家族構成は70歳の妻との2人暮らしで、キーパーソンは妻である。職業は大工として65歳まで勤務していたが、呼吸困難感の増強により退職している。性格は几帳面で頑固であり、「自分のことは自分でやりたい」という強い意志を持っている。感染症やアレルギーの既往はなく、認知機能は年齢相応で低下は認められない。

病名

慢性閉塞性肺疾患(COPD)の急性増悪により入院加療中である。

既往歴と治療状況

A氏は20歳から現在まで1日20本、52年間の喫煙歴があり、複数回の禁煙指導を受けるも継続している。慢性閉塞性肺疾患(COPD)に対して外来通院中であり、気管支拡張薬(ウノプロスト、テオドール)と吸入薬(スピリーバ、メプチン)による治療を受けている。内服管理は入院前まで自己管理であったが、現在は看護師管理となっている。

入院から現在までの情報

2025年1月28日、数日前からの咳嗽と喀痰の増加、特に階段昇降時の呼吸困難感が顕著となり救急搬送された。入院1日目は酸素療法(2L/分)と抗生剤(CTRX)投与、去痰薬と気管支拡張薬の吸入療法が開始された。2日目からは呼吸リハビリテーションを導入し、「少しずつ呼吸が楽になってきた」との発言が聞かれ、酸素流量を1L/分まで減量することができた。入院時の血液検査では、WBC 12,800/μL、CRP 3.8mg/dLと炎症反応の上昇を認めたが、腎機能(BUN 22mg/dL、Cr 0.9mg/dL)、電解質(Na 142mEq/L、K 4.1mEq/L、Cl 105mEq/L)は正常範囲内であった。胸部レントゲンとCTでは肺の過膨張像と気道壁の肥厚を認めている。

バイタルサイン

来院時のバイタルサインは、体温37.8℃、血圧148/88mmHg、脈拍98回/分、SpO2は室内気で88%と著明な低下を認めた。酸素投与(2L/分)により、SpO2は93%まで改善した。

現在(入院4日目)のバイタルサインは、体温36.8℃、血圧132/78mmHg、脈拍82回/分、SpO2は酸素1L/分投与下で95%と安定している。

食事と嚥下状態

入院前:食事は自立して摂取可能だが、呼吸困難感により時間がかかっていた。嚥下機能に問題はなく、むせ込み等の症状は認められなかった。喫煙は1日20本を継続しており、飲酒はビール350ml/日程度であった。食欲は低下傾向で、3ヶ月で7kgの体重減少がみられていた。

現在:食事は常食を自力摂取可能だが、セッティングに介助を要する。呼吸困難感は軽減し、食事にかかる時間も改善傾向にある。入院中は禁煙・禁酒となっているが、「退院したら吸いたい」との発言がある。

排泄

入院前:排泄は自立しており、日中・夜間ともにトイレで可能であった。排便は1日1回程度で便秘傾向はなく、下剤の使用はなかった。ただし、トイレまでの移動時に息切れを強く自覚していた。

現在:日中・夜間ともに病室外の個室トイレ(病室から10m)まで、歩行器を使用し酸素ボンベに切り替えて看護師が付き添い歩行している。排便コントロールは良好で、下剤の使用は不要である。

睡眠

入院前:夜間の咳嗽と喀痰により睡眠が中断されることがあったが、眠剤等の使用はなかった。日中は趣味の庭いじりや将棋を楽しんでいたが、体力低下により控えめになっていた。

現在:夜間の咳嗽は減少し、睡眠は改善傾向にある。不眠の訴えはなく、眠剤の使用は必要としていない。日中は呼吸リハビリテーションや病棟内の活動で適度な疲労感があり、夜間の睡眠は良好である。

視力・聴力・知覚・コミュニケーション・信仰

視力は老眼があり、近距離での読書時には老眼鏡を使用している。遠方の視力は問題なく、テレビの視聴も支障はない。聴力は年齢相応で、通常の会話は問題なく可能である。

知覚に異常はなく、四肢の感覚障害や痺れは認められない。理解力は良好で、医療者との意思疎通に問題はない。几帳面な性格を反映し、症状や治療に関する質問も具体的である。呼吸困難感については、自身の言葉で「息が詰まる感じ」「胸が重い」と表現することができる。

家族とのコミュニケーションは良好で、特に妻とは互いの考えを共有できている。ただし、禁煙に関する家族からの助言に対しては「こんな年になって今更」と消極的な態度を示している。

特定の宗教や信仰は持っていない。

動作状況

入院前は全般的に自立していたが、呼吸困難感により動作に時間を要していた。特に階段昇降時の息切れが顕著で、2階への移動は5分程度の休憩を要していた。転倒歴はないが、呼吸困難による活動量の低下が見られていた。

歩行は、病棟内を歩行器を使用して移動している。トイレ(病室から10m)への移動時は酸素ボンベに切り替えて看護師が付き添い、適宜休憩を取りながら実施している。立位保持は安定しているが、呼吸困難感により連続歩行距離は20m程度が限度である。

移乗は見守りで自立しており、ベッドから椅子、トイレでの方向転換も安定している。ただし、動作時には呼吸困難感の増強がみられるため、ゆっくりとした動作を促している。

排泄動作は、トイレ内での下衣の上げ下げや後始末は自立している。便器からの立ち上がりも手すりを使用して安定している。

入浴は、明日からシャワー浴を開始する予定である。上肢挙上による呼吸困難感が予測されるため、入浴動作の評価と必要な介助について検討している。

衣類の着脱は、座位で実施している。上着の着脱時に呼吸困難感が増強するため、時間をかけて行っている。ボタンの掛け外しなどの細かい動作は問題なく行える。

内服中の薬

気管支拡張薬:

  • ウノプロスト錠 200μg 1回2錠 1日2回(朝・夕食後)
  • テオドール錠 200mg 1回1錠 1日2回(朝・夕食後)

吸入薬:

  • スピリーバ吸入用カプセル 18μg 1回1カプセル 1日1回(朝)
  • メプチン吸入液ユニット 0.3mL 1回1本 1日2回(朝・夕)

抗生剤:

  • CTRX(セフトリアキソン)2g 1日1回 点滴静注

【服薬状況】
入院前は自己管理であり、吸入手技は習得できており手順書を見ながら正確に実施できていた。内服薬は1週間分を自身でケースに仕分けて管理しており、几帳面な性格から時間を気にして内服を忘れることはなかった。また、症状の変化に応じて医師に確認しながら、吸入薬の使用を適切に行うことができていた。

現在は看護師管理となっており、内服・吸入ともに看護師が管理している。吸入手技は看護師見守りのもと実施し、手技は保たれている。SpO2や呼吸状態を確認しながら、吸入のタイミングを調整している。内服については看護師が配薬し、服用確認を行っている。退院に向けて自己管理への移行を検討しているが、急性増悪からの回復過程であるため、慎重に評価を行っている。

検査データ
検査項目基準値入院時 (1/28)現在 (1/31)
白血球数4000-8500/μL12,8009,200
赤血球数420-550万/μL445万448万
ヘモグロビン13.5-17.0g/dL13.813.9
ヘマトクリット40-50%41.241.5
血小板数15-35万/μL28.4万27.8万
CRP0.3以下mg/dL3.81.2
BUN8-22mg/dL2220
Cr0.6-1.1mg/dL0.90.9
Na135-145mEq/L142140
K3.5-5.0mEq/L4.14.0
Cl98-108mEq/L105104
総蛋白6.7-8.3g/dL6.26.8
アルブミン3.8-5.2g/dL3.53.6
AST10-35U/L2825
ALT5-40U/L3230
動脈血ガス分析(room air)
pH7.35-7.457.327.38
PaO280-100mmHg6575
PaCO235-45mmHg4846
HCO3-22-26mEq/L2425
今後の治療方針と医師の指示

入院時の急性増悪症状は改善傾向にあり、炎症反応も低下している。呼吸状態の安定化に伴い、抗生剤(CTRX)は本日で終了予定である。酸素療法は現在の1L/分を継続し、労作時のSpO2値や自覚症状を観察しながら、離脱を検討していく方針である。

呼吸リハビリテーションは、理学療法士と連携しながら段階的に運動負荷を上げていく。具体的には、病棟内歩行距離の延長や階段昇降練習を導入予定である。また、退院後の再発予防と生活管理に向けて、以下の指示が出ている:

  1. 呼吸法の習得と継続:腹式呼吸、口すぼめ呼吸の練習
  2. 運動耐容能の評価:6分間歩行試験を実施予定
  3. 栄養指導:体重減少に対する栄養補給方法の指導
  4. 禁煙指導:禁煙外来の受診を検討
  5. シャワー浴:明日から開始し、入浴時の呼吸状態を評価

退院時期については、1週間程度を目安とし、以下の条件が満たされることを目標としている:

  • 室内気でSpO2 95%以上の維持
  • 基本的なADLの自立
  • 呼吸管理方法の習得
  • 内服薬の自己管理が可能
  • 家族の受け入れ体制の確立

外来フォローアップは2週間後に予定し、在宅酸素療法の必要性についても評価を行う方針である。

本人と家族の想いと言動

A氏は「自分のことは自分でやりたい」という強い意志を持ち、看護師の介助に対して時に消極的な態度を示すことがある。症状の改善に伴い「少しずつ呼吸が楽になってきた」と話すものの、禁煙に関しては「こんな年になって今更」「どうせ長くない」と投げやりな発言が聞かれる。入院による活動制限にストレスを感じており、「早く家に帰りたい」「庭の手入れが気になる」との発言も聞かれている。

妻は毎日面会に訪れ、A氏の回復を願いながらも、退院後の生活に強い不安を抱えている。「このまま悪化したら介護が必要になるのでは」「夫は頑固で私の言うことを聞かないんです」と涙ぐむ場面もあった。特に喫煙継続に対して「子供たちみんなが心配している」「少しでも長生きしてほしい」と切実な思いを看護師に打ち明けている。

子供たちからも禁煙を勧められているが、A氏は話題を避けるような態度をとっている。ただし、妻の不安そうな表情を見ると「心配かけてすまない」とつぶやく場面もあり、家族への思いやりも垣間見える。医療者に対しては「どうしたら楽に呼吸ができるようになるか」と、呼吸法や運動について積極的に質問する姿勢がみられている。

この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

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