【ゴードン】心筋梗塞 入院2日目 (0014)

ゴードン

本事例の要約

右胸部痛を主訴に救急搬送され、急性心筋梗塞と診断された65歳男性に対し、緊急カテーテル検査の結果、右冠動脈#2に99%狭窄を認め、経皮的冠動脈形成術(PCI)を施行。術後、CCUでの管理を経て、一般病棟へ転棟となった入院2日目の事例。介入日は3月15日である。

この事例で勉強できること

心筋梗塞における、循環動態の観察と評価、術後の段階的リハビリテーション、再発予防に向けた患者教育

今回の情報

基本情報

A氏は65歳の男性で、身長168cm、体重75kg(BMI26.6)である。妻と二人暮らしで、キーパーソンは妻である。職業は会社経営者で、経営者として責任感が強く几帳面な性格である。感染症やアレルギーの既往はなく、認知機能も正常である。

病名

病名は急性心筋梗塞であり、右冠動脈#2の99%狭窄に対して、3月13日に経皮的冠動脈形成術(PCI)を施行し、ベアメタルステントを留置した。

既往歴と治療状況

既往歴として、45歳時から高血圧症を指摘され、近医で定期的に降圧薬を処方されていた。55歳時に2型糖尿病と診断され、経口血糖降下薬による治療を継続している。また、60歳時に健康診断で脂質異常症を指摘され、投薬治療を受けていた。しかし、多忙な仕事のため通院は不規則で、服薬コンプライアンスは良好とは言えない状況であった。また、定期的な運動習慣はなく、外食が多い生活を送っていた。入院直前の健康診断では、HbA1cは7.2%、LDLコレステロール値は148mg/dlと、いずれも治療目標値には達していなかった。

入院から現在までの情報

3月13日午前10時頃、仕事中に突然の胸痛と発汗が出現し、救急要請。救急隊接触時、胸痛はNRSで8/10であった。救急搬送中の心電図でST上昇を認め、当院救急外来に搬送された。来院後すぐに心臓カテーテル検査を実施し、右冠動脈#2に99%狭窄を認めたため、緊急PCIを施行。ベアメタルステントを留置し、TIMI 3の血流が得られた。
術後はCCUに入室し、心電図モニター管理下で経過観察となった。術後の胸痛は消失し、心電図上も経時的にST変化は改善傾向を示した。血行動態は安定しており、術後24時間の心臓超音波検査でも明らかな壁運動異常を認めなかったため、3月14日にCCUから一般病棟へ転棟となった。
現在は入院2日目で、ベッド上での体位変換や食事は自立している。心電図モニター管理は継続中で、心拍数60-80台、洞調律で経過している。今後は主治医の指示のもと、段階的に安静度を拡大していく予定である。

バイタルサイン

来院時のバイタルサインは、血圧168/92mmHg、脈拍92回/分・整、体温36.8℃、呼吸数24回/分、経皮的動脈血酸素飽和度98%(室内気)であった。意識レベルはJCS 0、胸痛はNRSで8/10であった。

現在(入院2日目)のバイタルサインは、血圧132/78mmHg、脈拍68回/分・整、体温36.6℃、呼吸数16回/分、経皮的動脈血酸素飽和度99%(室内気)で安定している。意識は清明で、胸部症状の訴えはない。血圧は4時間ごとの測定で収縮期血圧120-140mmHg、拡張期血圧70-85mmHgで推移している。

食事と嚥下状態

入院前は1日3食摂取しており、嚥下機能は良好であった。ただし、社用での会食が週3-4回あり、塩分・脂質の多い食事が続いていた。喫煙歴は20本/日を30年間継続しており、禁煙の指導を受けるも継続できていなかった。飲酒は機会飲酒で、週2-3回程度のビール500ml摂取があった。現在は心臓病食1600kcal・塩分6g/日の制限食が開始となっており、3割程度の摂取ができている。嚥下機能は問題なく、禁煙・禁酒を継続している。

排泄

入院前は1日1-2回の普通便で、便秘の自覚はなかった。排尿は日中5-6回、夜間1-2回であった。現在は術後の安静による活動制限と環境の変化により、排便は2日目で未だ認めていない。排尿はベッド上で尿器を使用しており、1回排尿量は200-300ml、1日尿量は2000ml程度である。下剤の使用はないが、排便がない場合は主治医に相談の上、緩下剤の使用を検討する。

睡眠

入院前は仕事の都合で就寝時刻が不規則であったが、1日6-7時間の睡眠は確保できていた。眠剤の使用習慣はなかった。現在は心電図モニターの装着や病室の環境変化により、入眠に時間がかかり、夜間に2-3回程度の中途覚醒がある。眠剤は使用していないが、不眠が続く場合は主治医に相談することとしている。日中は疲労感があり、短時間の仮眠を取ることがある。

視力・聴力・知覚・コミュニケーション・信仰

A氏は視力は両眼とも裸眼で0.7であり、必要時に老眼鏡を使用している。聴力は正常で、会話に支障はない。知覚に異常はなく、四肢の感覚も良好である。コミュニケーションは良好で、医療者の説明を理解し、自身の状態や症状を適切に表現することができる。終始穏やかな態度で医療者とコミュニケーションを取っているが、今後の生活や仕事に対する不安を時折表出している。特定の宗教は持っておらず、信仰による制限はない。

動作状況

入院前は日常生活動作すべて自立しており、転倒歴はなかった。現在は入院2日目のため、主治医の指示により安静度はベッド上での体位変換と食事のみ許可されている状態である。体位変換は自力で可能で、上半身を45度まで挙上している。食事は自力摂取が可能である。排尿は尿器を使用しており、看護師の見守りのもと自己にて実施できている。排便はまだないが、必要時はベッド上での便器使用が指示されている。更衣に関しては、上着の着脱は自立しているが、下衣の着脱は看護師の介助を要する。清潔ケアは現在、看護師による清拭のみ実施している。明日からは病棟内歩行が許可される予定であり、理学療法士による歩行訓練も開始となる。

内服中の薬

【内服薬】

  • バイアスピリン錠100mg 1錠 1日1回 朝食後
  • クロピドグレル錠75mg 1錠 1日1回 朝食後
  • アトルバスタチン錠10mg 1錠 1日1回 夕食後
  • カルベジロール錠10mg 1錠 1日2回 朝夕食後
  • エナラプリル錠5mg 1錠 1日1回 朝食後
  • メトホルミン錠250mg 2錠 1日2回 朝夕食後
  • ファモチジン錠20mg 1錠 1日2回 朝夕食後

【臨時処方】

  • 硝酸イソソルビドテープ40mg 1枚 1日1回 胸部に貼付
  • ロキソプロフェン錠60mg 1錠 疼痛時 1日3回まで

【服薬管理】 現在は看護師管理とし、内服確認を行っている。退院に向けて服薬指導を実施し、自己管理へ移行する方針である。入院前は自己管理であったが、多忙により内服を忘れることがあり、自己判断で内服を中止することもあった。

検査データ

検査データ比較表

検査項目基準値入院時(3/13)現在(3/15)
血算
WBC3.5-9.0×10³/μL12.5×10³/μL9.8×10³/μL
RBC4.2-5.5×10⁶/μL4.8×10⁶/μL4.6×10⁶/μL
Hb13.0-17.0g/dL14.2g/dL13.8g/dL
Ht40.0-50.0%42.5%41.2%
Plt15.0-35.0×10⁴/μL22.8×10⁴/μL21.5×10⁴/μL
生化学
AST10-35U/L285U/L125U/L
ALT5-40U/L98U/L62U/L
LDH120-240U/L598U/L342U/L
CK50-230U/L2856U/L1254U/L
CK-MB0-25U/L156U/L45U/L
BUN8-20mg/dL18.5mg/dL19.2mg/dL
Cr0.6-1.2mg/dL0.9mg/dL0.8mg/dL
Na135-145mEq/L140mEq/L138mEq/L
K3.5-5.0mEq/L4.2mEq/L4.0mEq/L
Cl98-108mEq/L102mEq/L101mEq/L
心筋マーカー
トロポニンT<0.1ng/mL2.85ng/mL0.95ng/mL
凝固系
PT-INR0.9-1.11.01.0
APTT25-35秒32秒31秒
血糖関連
血糖値70-110mg/dL235mg/dL142mg/dL
HbA1c4.6-6.2%7.2%
脂質
T-Cho130-220mg/dL245mg/dL228mg/dL
LDL-C70-140mg/dL148mg/dL142mg/dL
HDL-C40-80mg/dL42mg/dL41mg/dL
TG30-150mg/dL182mg/dL145mg/dL

*太字の値は基準値から外れていることを示す

今後の治療方針と医師の指示

今後の治療方針と医師の指示として、冠危険因子の是正と二次予防を中心に進めていく。心電図モニター管理を継続し、バイタルサインは4時間ごとの測定で、収縮期血圧が160mmHg以上または100mmHg以下の場合は報告とする。3月16日より理学療法士による心臓リハビリテーションを開始し、病棟内歩行から段階的に運動負荷を増やしていく。食事は心臓病食1600kcal、塩分制限6g/日を継続する。3月17日に心臓超音波検査を予定しており、心機能評価後に退院時期を検討する。禁煙指導を含めた生活指導を行い、退院後は外来での定期的なフォローアップを実施する。

点滴に関しては、入院時は右前腕に静脈路を確保し、生理食塩水500ml/24時間の持続点滴とヘパリン10000単位/生理食塩水50mlを持続投与していた。現在は輸液とヘパリン投与は終了しているが、急変時対応のため右前腕の静脈路は維持している。PCIは右大腿動脈アプローチで実施し、止血デバイスによる圧迫止血後、穿刺部の状態は良好である。

本人と家族の想いと言動

A氏は「今まで仕事一筋で、自分の健康管理は後回しにしてきた。まさか自分が心筋梗塞になるとは思わなかった」と話し、自身の生活習慣を振り返る様子が見られる。今後の生活改善に対しては「確かに仕事は大切だが、これを機に生活を見直したい。でも会社のことが心配で、早く仕事に戻りたい」と話しており、仕事と健康管理の両立に不安を感じている。

妻は毎日面会に訪れ、「主人は几帳面な性格なのに、体調管理だけは疎かにしていました。私も気づいてはいたのですが、強く言えませんでした」と話す。今後については「食事の管理や服薬の確認など、私にできることはしっかりとサポートしていきたい」と前向きな姿勢を示している。また「主人の性格を考えると、退院後すぐに仕事中心の生活に戻ってしまうのではないかと心配です」と不安も表出している。

この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

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