本事例の要約
アルコール性肝硬変による腹水貯留、全身浮腫の増強に加え、血液検査で肝機能の悪化を認めたため緊急入院となった。長年の飲酒習慣があり、これまでも禁酒指導を受けていたが継続できず、今回は黄疸の出現と食欲低下、倦怠感の増強により日常生活に支障をきたすようになったため入院加療となった事例。介入日は1月23日(入院2日目)である。
10.コーピング-ストレス耐性
A氏は63歳の男性で、アルコール性肝硬変(Child-Pugh分類 Grade B)、肝性浮腫、腹水の診断で入院している。入院環境に関しては、環境の変化と腹部症状により入眠困難を訴えており、眠前にブロチゾラム(0.25mg)を使用している状況である。病棟での移動は腹水による重心移動の不安定さから看護師の付き添いを要し、活動制限を強いられている。また、腹部膨満感が強く、食欲低下が続いているため食事摂取量は3割程度にとどまっている。これらの状況から、入院環境への適応が十分でなく、ストレスを感じている状態であると考えられる。特に「早く良くなって帰りたい」という発言からは、入院生活への焦りや不安が読み取れる。
仕事や生活でのストレス状況については、A氏は建設会社で現場監督として働いていたが、体調不良により1年前に退職している。長年の職業生活からの離脱は大きな環境変化であり、社会的役割や自己アイデンティティの喪失感をもたらす可能性がある。退職後の生活状況や日常的な活動内容についての詳細な情報は不足しているが、飲酒が主なストレス対処手段となっていた可能性が高い。A氏は20歳頃から始まり、焼酎を中心に1日3合程度を習慣的に摂取しており、禁酒指導を受けても1週間程度で再開するパターンが続いていた。この状況から、アルコールへの依存がストレス対処の主要な方法となっており、他の健康的なストレス対処法を習得していない可能性が考えられる。
性格は几帳面で頑固であるが医療者には協力的との情報があり、真面目で自己規制的な性格が基盤にあると推測される。このような性格特性を持つ人は、強いストレス下では柔軟性を失い、一度選択した行動パターン(この場合は飲酒)から脱却することが困難になりやすい傾向がある。また、「こんなに具合が悪くなるとは思わなかった。もう二度と酒は飲まない」という発言がある一方で、「妻に迷惑をかけて申し訳ない。でも、家に帰ればなんとかなる」とも話しており、疾患の重症度に対する認識と行動変容への意欲に乖離がみられる。これは現実的なストレス認知と対処能力に課題があることを示唆している。
家族のサポート状況については、妻がキーパーソンであり、毎日面会に訪れ強い関心と支援の意志を示している。妻は「主人の体のことを考えると眠れない日もあります」と涙ぐみながら話し、「今回こそは本当に酒を止めてほしい。私にできることは何でもしますから」と医療者に協力を申し出ている。このように妻は強い支持的存在であるが、同時に妻自身も大きな心理的負担を抱えており、共依存的な関係性に陥っている可能性も否定できない。妻が「夫は自分の病気を甘く考えているように思います」と不安を表出していることからも、夫婦間でのストレスコミュニケーションに課題がある可能性が高い。
生活の支えとなるものについては、明確な情報が不足している。趣味や信仰、社会的活動、友人関係など、アルコール以外のストレス発散方法や精神的支柱となるものについての情報収集が必要である。特に退職後の日常生活の過ごし方や社会的交流の状況を把握することは、退院後の生活設計において重要となる。
看護介入としては、まず入院環境への適応を促進するための支援が必要である。具体的には、腹部膨満感や不眠などの身体的不快感の緩和、安全な移動の確保、日中の活動性の適切な維持などが含まれる。また、アルコール依存からの回復を支援するため、断酒に伴う離脱症状の観察と適切な対応、禁酒の重要性についての教育的介入も重要である。
特に重要なのは、健康的なストレス対処法の獲得を支援することである。リラクセーション技法の指導、趣味や関心のあることの再発見、短期的な達成可能な目標設定などを通じて、アルコール以外のストレス対処法を習得できるよう支援する。また、夫婦間のコミュニケーションを促進し、互いの思いや期待、不安を共有できる場を設けることも有効である。
さらに、退院後の生活を見据えた地域資源の活用も検討すべきである。断酒会やアルコール依存症の自助グループへの参加、地域保健師との連携、必要に応じて精神保健福祉サービスの利用なども考慮する。妻に対してもレスパイトケアの機会を提供するなど、介護者支援の視点も重要である。
今後の観察ポイントとしては、A氏の気分の変動や焦燥感の出現、睡眠パターンの変化、対人関係の様子などを継続的に評価する必要がある。特に禁酒に伴う情緒的変化や、ストレスへの反応パターンを注意深く観察する必要がある。また、妻の言動や表情からストレス状況を評価し、必要に応じて妻への心理的サポートも提供していく必要がある。
看護問題の明確化
#アルコール性肝硬変の治療に伴う生活習慣の変更に関連した非効果的コーピング
事例の目次
【ゴードン】肝硬変 アルコール依存症 (0016)| 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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