【ゴードン】肝硬変 アルコール依存症(0016) | 2.栄養-代謝

ゴードン

本事例の要約

アルコール性肝硬変による腹水貯留、全身浮腫の増強に加え、血液検査で肝機能の悪化を認めたため緊急入院となった。長年の飲酒習慣があり、これまでも禁酒指導を受けていたが継続できず、今回は黄疸の出現と食欲低下、倦怠感の増強により日常生活に支障をきたすようになったため入院加療となった事例。介入日は1月23日(入院2日目)である。

2.栄養-代謝

A氏は身長168cm、体重71.2kg(入院時72kgから0.8kg減少)であり、標準体重は62.2kg(身長(m)²×22)である。現在の体格指数は25.2kg/㎡(体重÷身長㎡)であり、軽度肥満に分類される。しかし、この体重には著明な腹水貯留と下肢の圧痕性浮腫(+3)による体液貯留が含まれているため、実質的な栄養状態は著しく低下している。体液貯留の程度を正確に評価するために、腹囲測定と体重測定を1日1回以上実施し、利尿薬治療の効果を継続的にモニタリングする必要がある。

必要栄養量については、まずハリス・ベネディクト式を用いて基礎エネルギー消費量を算出する。計算式(男性:66.47+13.75×体重+5×身長-6.76×年齢)に基づき、66.47+13.75×71.2+5×168-6.76×63 = 1,489kcal/日となる。これに活動係数1.2(ベッド上で過ごす時間が長いが、病棟内フリーの指示があるため)とストレス係数1.1(肝機能障害による代謝亢進を考慮)を乗じると、1日の必要エネルギー量は約1,970kcalと算出される。タンパク質必要量は、肝硬変患者の推奨量である1.2-1.5g/kg/日を考慮すると、85-107g/日が目標となる。しかし、現在の食事摂取量は提供量の3割程度(約600kcal/日)であり、著しいエネルギーおよびタンパク質不足の状態にある。

血液検査データの詳細な分析からは、複数の栄養障害を示す所見が認められる。アルブミン値2.9g/dL(基準値4.1-5.1)、総タンパク値5.9g/dL(基準値6.6-8.1)と著明な低下を認め、重度の低栄養状態にあることが示唆される。これは肝臓での合成能低下と、長期的な栄養摂取不足の両方が原因として考えられる。また、ヘモグロビン値11.0g/dL(基準値13.7-16.8)、ヘマトクリット値33.1%(基準値40.7-50.1)、赤血球数382万/μL(基準値435-555)と貧血所見を認める。この貧血は、肝硬変による造血能の低下と栄養障害が複合的に関与していると考えられる。血清電解質値については、ナトリウム値134mEq/L(基準値138-145)とやや低値、カリウム値4.1mEq/L(基準値3.6-4.8)は基準範囲内である。低ナトリウム血症の傾向は、腹水貯留による体液分布異常と、肝不全に伴う水・電解質代謝異常を反映している。

食事摂取状況の経時的変化を見ると、入院前2週間は食欲低下により摂取量が通常の5割程度まで減少し、入院後は腹部膨満感の増強により更に3割程度(約600kcal/日)まで低下している。この急激な摂取量の低下は、栄養状態の更なる悪化を招く危険性が高い。水分摂取は浮腫と腹水のコントロールのため1日1000ml以下に制限されており、塩分制限食(食塩6g/日)が提供されている。嚥下機能は良好で、むせこみや誤嚕の既往はなく、常食の摂取が可能である。ただし、口腔内の状態(歯の状態、口腔衛生状態、口腔乾燥の有無など)や、食事に対する嗜好については詳細な情報が不足しているため、追加の情報収集が必要である。

食欲不振の主たる要因は腹水による腹部膨満感であり、利尿薬(フロセミド40mg×2回/日、スピロノラクトン25mg×2回/日)による治療が行われているが、現時点での効果は限定的である。また、アルコール性肝硬変による消化・吸収機能の低下も栄養状態悪化の一因となっている。医師からは分岐鎖アミノ酸製剤の追加も検討されており、これは肝硬変患者における筋タンパク質の異化抑制と栄養状態の改善に有効と考えられる。アルブミン製剤の投与も状態に応じて実施される方針であり、これにより膠質浸透圧の改善と栄養状態の一時的な改善が期待できる。

皮膚・粘膜の状態については、眼球結膜の黄染と皮膚の黄疸が認められ、それに伴う掻痒感の訴えがあることから、総ビリルビン値4.2mg/dL(基準値0.4-1.5)の上昇を反映した症状が出現している。下肢の著明な圧痕性浮腫(+3)は、低アルブミン血症による膠質浸透圧の低下と門脈圧亢進による静脈還流障害が原因と考えられる。現時点では褥瘡の形成は認められていないが、低栄養(アルブミン値2.9g/dL)、浮腫、活動量の低下という複数の危険因子を有しており、褥瘡発生のリスクは非常に高い状態にある。

これらの問題に対する看護介入として、以下の対応が重要である。まず、食事摂取量の改善に向けて、食事時の体位を工夫し、ファーラー位30度程度での摂取を促すことで腹部膨満感の軽減を図る。食事は少量ずつ、時間をかけて摂取することを推奨し、必要に応じて間食を提供することも検討する。本人の嗜好を詳しく確認し、可能な範囲で食事内容の調整を依頼する。毎食の摂取量を正確に記録し、栄養状態の評価を継続する。水分摂取量と排泄量のバランスを1日3回以上チェックし、体重と腹囲の測定を毎日実施する。褥瘡予防のために、2時間ごとの体位変換とエアマットレスの使用を検討し、皮膚の観察を1日1回以上実施する。掻痒感に対しては清潔ケアを丁寧に行い、爪は短く切り、皮膚の保湿を十分に行う。また、リハビリテーションスタッフと連携し、過度な負荷を避けながら、筋力低下を予防するための運動プログラムを立案する。

退院後の栄養管理に向けて、妻への具体的な栄養指導も重要である。塩分制限(6g/日)と水分制限(1000ml/日)を継続しながら、必要な栄養を確保するための調理方法(だしを活用した味付け、少量多品目の献立作成など)や食品選択(高タンパク質食品の活用方法など)について、具体的な指導を行う。また、アルコールには高カロリーでありながら栄養価が低く、肝臓に負担をかけるという特徴があることを説明し、禁酒の継続が栄養状態の改善に不可欠であることを、本人と妻の双方に繰り返し説明していく必要がある。

看護問題の明確化

#食事摂取不足に関連した栄養状態低下
#肝機能障害に関連した体液貯留
#利尿薬使用に関連した体液量不足のリスク
#低栄養状態と活動低下に関連した皮膚統合性障害のリスク

事例の目次

この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

看護の攻略部屋wiki

看護学生をお助け | 看護過程の見本 | 完全無料でコピー&ペースト(コピペ)OK


コメント

タイトルとURLをコピーしました