本事例の要約
アルコール性肝硬変による腹水貯留、全身浮腫の増強に加え、血液検査で肝機能の悪化を認めたため緊急入院となった。長年の飲酒習慣があり、これまでも禁酒指導を受けていたが継続できず、今回は黄疸の出現と食欲低下、倦怠感の増強により日常生活に支障をきたすようになったため入院加療となった事例。介入日は1月23日(入院2日目)である。
6.認知-知覚
意識レベルは入院時からJCS 0、GCS 15(E4V5M6)で清明を維持しており、現時点では肝性脳症の徴候は認められない。しかし、アルコール性肝硬変患者である点を考慮すると、潜在的な肝性脳症のリスクがあるため、継続的な意識レベルの観察が必要である。特にアンモニア値が82μg/dLと高値を示していることから、見当識障害や異常行動、睡眠覚醒リズムの乱れなどの早期発見に努める必要がある。
視力は両眼とも0.7で老眼鏡を使用しているが、日常生活に支障のない程度である。63歳という年齢を考慮すると、老眼は生理的な範囲内であり、適切な補正がなされている。聴力は正常で会話に支障はなく、医療者からの説明や指示も正確に理解できている。
知覚に関しては、黄疸による皮膚掻痒感と下肢浮腫によるだるさを訴えているが、温痛覚や触覚に異常は認められない。これらの不快な症状は睡眠や日常生活動作に影響を与えているため、症状緩和に向けた介入が必要である。
認知機能は正常で、質問の意図を理解し、自分の症状や希望を明確に伝えることができている。しかし、病状の深刻さに対する認識が十分とは言えない状況にある。「家に帰ればなんとかなる」という発言や、これまでも断酒の必要性を理解しながら実行できなかった経緯から、疾患の重症度や生活改善の必要性について、現実的な認識が不足していると考えられる。
不安に関しては、「早く良くなって帰りたい」という焦りの表出がみられるものの、その背景にある疾患の予後や治療の必要性についての不安は表面化していない。これは病状の否認や回避的な心理機制が働いている可能性を示唆している。一方で医療者には協力的な態度を示しており、治療に対する基本的な受容はできている。
看護介入としては、まず肝性脳症の予防と早期発見に重点を置く必要がある。具体的には、定期的な意識レベルの評価、見当識の確認、異常行動の観察を実施する。また、睡眠覚醒リズムの乱れや、突然の性格変化などにも注意を払う。現在使用している睡眠薬(ブロチゾラム)による意識レベルへの影響についても観察を継続する。
皮膚掻痒感に対しては、皮膚の清潔保持と保湿ケアを実施し、必要に応じて医師と相談の上で外用薬の使用を検討する。下肢浮腫に対しては、適切な圧迫療法と挙上による軽減を図る。
また、病識の向上に向けた教育的介入も重要である。現在の病状や治療の必要性について、患者が理解しやすい方法で説明を行い、段階的に受容を促していく。その際、一方的な指導を避け、患者の思いや不安を傾聴しながら進める必要がある。特に断酒の継続に関しては、これまでの失敗体験を踏まえ、実現可能な目標設定と具体的な方策について、患者と共に検討していく。
妻の存在は重要な支援要因であり、妻の「今回こそは本当に酒を止めてほしい」という強い思いを踏まえ、家族を含めた包括的な支援体制を構築していく。妻の不安や負担感にも配慮しながら、退院後の生活管理について具体的な指導を行っていく必要がある。
今後の継続的な観察ポイントとしては、意識レベルの変化や見当識障害の有無、掻痒感や浮腫の程度とそれらが日常生活に与える影響、病識の変化、不安の表出状況などについて、経時的な評価を行っていく。また、妻との面会時の言動や関わりについても注意深く観察し、家族支援の必要性についても随時評価していく。特に、これまでの断酒失敗の経験から、退院後の再飲酒リスクが高いことを考慮し、患者の心理状態の変化や社会的支援の必要性についても継続的な評価が必要である。
看護問題の明確化
#アルコール性肝硬変に伴う疾患管理に関連した知識不足
事例の目次
【ゴードン】肝硬変 アルコール依存症 (0016)| 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
看護の攻略部屋wiki
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