【ゴードン】肝硬変 アルコール依存症(0016)

ゴードン

本事例の要約

アルコール性肝硬変による腹水貯留、全身浮腫の増強に加え、血液検査で肝機能の悪化を認めたため緊急入院となった。長年の飲酒習慣があり、これまでも禁酒指導を受けていたが継続できず、今回は黄疸の出現と食欲低下、倦怠感の増強により日常生活に支障をきたすようになったため入院加療となった事例。介入日は1月23日(入院2日目)である。

この事例で勉強できること

肝硬変・アルコール依存症・セルフケアのアセスメント

今回の情報

基本情報

A氏は63歳の男性で、身長168cm、体重は入院時72kg(浮腫と腹水による体重増加あり)である。妻と二人暮らしで、キーパーソンは妻である。以前は建設会社で現場監督として働いていたが、体調不良により1年前に退職している。性格は几帳面で頑固だが、医療者には協力的である。感染症はなく、アレルギー歴もない。認知機能は正常で、日常的なコミュニケーションや理解に問題はない。

病名

病名はアルコール性肝硬変(Child-Pugh分類 Grade B)、肝性浮腫、腹水である。

既往歴と治療状況

既往歴として、45歳時に高血圧を指摘され降圧薬の内服を開始している。55歳時にアルコール性肝障害を指摘され、近医で定期的に肝機能検査と腹部エコー検査を受けていた。58歳時には脂質異常症を指摘され、投薬治療が開始となっている。60歳時に腹水貯留を初めて認め、利尿薬の内服が開始となった。その際に肝硬変と診断され、禁酒を指導されるも断続的な飲酒を続けていた。62歳時には食道静脈瘤を指摘され、内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)を1回施行している。また、同時期より肝性浮腫に対して利尿薬の増量と食事指導が行われていたが、治療効果は限定的であった。これまでに肝性脳症の既往はない。

入院から現在までの情報

1月21日夕方より全身倦怠感と食欲低下が増強し、腹部膨満感も著明となったため、翌1月22日に妻の付き添いで近医を受診した。診察時に強い黄疸を認め、腹水の増加と下肢浮腫の増強を指摘された。血液検査で肝機能の悪化を認めたため、精査加療目的で当院を紹介され、同日緊急入院となった。

入院時の診察では、眼球結膜の黄染と、腹部の著明な膨満、両下肢の圧痕性浮腫(+3)を認めた。腹部超音波検査では多量の腹水貯留を認め、また肝臓の表面は不整で肝硬変に典型的な所見であった。食道静脈瘤の増悪がないか確認するため、入院2日目に上部消化管内視鏡検査が予定されている。

入院後は安静度が病棟内フリーとなっているが、腹水による腹部膨満と下肢浮腫により移動時の負担が大きく、主にベッド上で過ごしている。塩分制限食(食塩6g/日)が開始となり、利尿薬の投与量も調整されている。不眠の訴えがあり、眠前に睡眠導入剤が使用されている。腹部膨満感による食欲低下があり、食事摂取量は3割程度である。

バイタルサイン

来院時のバイタルサインは、体温36.8℃、血圧156/92mmHg、脈拍92回/分・整、呼吸数18回/分、SpO2 98%(室内気)であった。意識レベルはJCS 0、GCS 15(E4V5M6)で清明であった。
現在(入院2日目)のバイタルサインは、体温36.5℃、血圧142/88mmHg、脈拍84回/分・整、呼吸数16回/分、SpO2 97%(室内気)である。体重は入院時より0.8kg減少し71.2kgとなっている。意識レベルは入院時と変わらずJCS 0、GCS 15(E4V5M6)で清明である。血圧は利尿薬の投与により若干低下傾向にあるが、その他のバイタルサインは安定している。

食事と嚥下状態

入院前の食事は、妻が主に準備をしており、1日3食は摂取できていた。しかし、ここ2週間ほどは食欲が低下しており、食事量は普段の5割程度まで減少していた。嚥下機能に問題はなく、むせこみや誤嚥の既往はない。飲酒歴は20歳頃から始まり、焼酎を中心に1日3合程度を習慣的に摂取していた。禁酒指導を受けても1週間程度で再開してしまい、入院直前まで継続していた。喫煙歴は20本/日を30年間続けていたが、肝硬変と診断された3年前に禁煙に成功している。

現在の食事は塩分制限食(食塩6g/日)が提供されている。腹部膨満感が強く、食欲低下が続いているため、食事摂取量は3割程度である。水分摂取は1日1000ml程度に制限されている。嚥下機能は良好で、食事形態は常食のままである。入院後は禁酒が保たれており、離脱症状は出現していない。医療者からは、退院後の断酒継続の重要性について繰り返し説明を受けている。

排泄

入院前は1日1-2回の普通便で、便秘や下痢の傾向はなかった。排尿は日中5-6回、夜間1-2回程度であった。腹水による腹部膨満感があるものの、トイレまでの移動は自立していた。下剤の使用はなかった。

現在は便秘傾向で最終排便は入院前日である。腹部膨満感が強く、腹圧がかけづらい状態である。排尿は利尿薬の投与により、日中7-8回、夜間2-3回と増加している。現在は緩下剤(酸化マグネシウム 1回330mg 1日3回)の内服を開始している。排泄は看護師の付き添いのもと、手すりを使用してトイレまでの歩行を行っている。

睡眠

入院前は午後11時頃就寝し、午前6時頃起床していた。腹部膨満感や下肢のだるさにより、夜間の体動が増え、熟睡感は得られにくい状態であったが、日中の活動には支障がなかった。睡眠薬の使用はなかった。

現在は環境の変化と腹部症状により入眠困難を訴えている。21時頃から臥床するものの、なかなか寝付けず、夜間の排尿による中途覚醒も多い。そのため、眠前にブロチゾラム(0.25mg)1錠を使用している。日中は疲労感が強く、臥床して過ごすことが多い。

視力・聴力・知覚・コミュニケーション・信仰

視力は両眼とも0.7で、老眼鏡を使用している。聴力は正常で、会話に支障はない。知覚に関しては、黄疸による皮膚掻痒感と下肢浮腫によるだるさの訴えがあるが、温痛覚や触覚に異常はない。コミュニケーションは良好で、医療者や家族との意思疎通に問題はない。質問の意図を理解し、自分の症状や希望を明確に伝えることができる。特定の宗教は持っていないが、地域の神社には時々参拝する程度である。入院中の特別な宗教的配慮は必要としていない。

動作状況

入院前は日常生活動作の全てが自立していたが、最近は腹水による腹部膨満と下肢浮腫の影響で動作に時間がかかるようになっていた。歩行は独歩可能だが、息切れと下肢のだるさにより、連続歩行距離は約50メートルほどに制限されている。階段の昇降は手すりを使用して可能だが、疲労が強く、できるだけ避けていた。

現在の病棟での移動は、腹水による重心移動の不安定さがあるため、看護師の付き添いのもと、手すりを使用してトイレまでの歩行を行っている。移乗に関しては、ベッドから車椅子やトイレへの移動は自力で可能だが、めまいの訴えがあるため見守りを要する。夜間のトイレ歩行時も、必ずナースコールで看護師を呼び、付き添いを依頼している。

入浴は入院後まだ実施していないが、シャワー浴を予定しており、看護師の介助のもとで行う予定である。更衣は腹水による腹部膨満のため、前屈位での動作が困難で、特にズボンの着脱に介助を要する。上半身の更衣は自立している。

これまでの転倒歴はないが、入院後は疲労感と浮腫による下肢の不安定さがあるため、転倒リスクが高い状態にある。そのため、ベッド柵を4点設置し、移動時にはナースコールを使用するよう指導されている。

内服中の薬

[内服薬]

  • フロセミド錠(40mg) 1回1錠 1日2回 朝・夕食後
  • スピロノラクトン錠(25mg) 1回1錠 1日2回 朝・夕食後
  • アムロジピン錠(5mg) 1回1錠 1日1回 朝食後
  • ウルソデオキシコール酸錠(100mg) 1回1錠 1日3回 毎食後
  • 酸化マグネシウム(330mg) 1回1錠 1日3回 毎食後
  • ブロチゾラム錠(0.25mg) 1回1錠 1日1回 眠前(不眠時)
  • ラベプラゾール錠(10mg) 1回1錠 1日1回 朝食後

[服薬状況]
現在は看護師管理となっている。入院前は妻が薬のセットを行い、本人が内服していた。しかし、入院後は初めての薬剤も追加されており、安全な投薬管理のため、看護師が配薬を行っている。内服の必要性は理解しており、服薬の拒否はない。今後、状態が安定すれば自己管理に移行することも検討されている。

検査データ
検査項目基準値入院時(1/22)現在(1/23)
WBC3300-8800/μL102009800
RBC435-555万/μL386382
Hb13.7-16.8g/dL11.211.0
Ht40.7-50.1%33.633.1
Plt15.8-34.8万/μL8.28.0
PT70-140%5254
PT-INR0.85-1.151.481.45
TP6.6-8.1g/dL5.85.9
Alb4.1-5.1g/dL2.82.9
T-Bil0.4-1.5mg/dL4.23.9
D-Bil0.0-0.3mg/dL2.11.9
AST13-30U/L8982
ALT10-42U/L4542
LDH124-222U/L298285
ALP106-322U/L428415
γ-GTP13-64U/L182175
BUN8-20mg/dL2825
Cre0.65-1.07mg/dL0.890.92
Na138-145mEq/L132134
K3.6-4.8mEq/L4.24.1
Cl101-108mEq/L9899
NH312-66μg/dL8982
CRP0.00-0.14mg/dL2.822.45
今後の治療方針と医師の指示

現在の治療方針として、まず腹水と浮腫の軽減を目的とした利尿薬治療と水分・塩分制限(1日水分摂取量1000ml以下、食塩6g/日)を継続する。腹水が十分に減少しない場合は腹水穿刺を検討する。また、明日予定されている上部消化管内視鏡検査で食道静脈瘤の状態を評価し、増悪が認められた場合は内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)の実施を検討する。

肝機能改善のため、安静度は病棟内フリーとし、必要に応じて活動範囲を拡大していく。栄養状態の改善も重要であり、分岐鎖アミノ酸製剤の追加も検討されている。また、アルブミン製剤の投与も状態に応じて実施する方針である。

医師からの具体的な指示として以下が出されている:
・ベッドサイドでの血圧測定を1日3回実施
・1日2回の体重測定
・厳密な水分出納の記録
・腹囲測定を1日1回実施
・意識レベルの観察(肝性脳症の早期発見)
・食事摂取量の記録
・活動時の転倒予防
・必要時の疼痛評価

退院に向けては、禁酒を継続できる環境調整と生活指導が重要となる。そのため、断酒外来の受診と、アルコール依存症専門医への相談も予定されている。

本人と家族の想いと言動

本人は「こんなに具合が悪くなるとは思わなかった。もう二度と酒は飲まない」と話すものの、これまでも同様の発言を繰り返しながら断酒が継続できなかった経緯がある。今回の入院に関しては「妻に迷惑をかけて申し訳ない。でも、家に帰ればなんとかなる」と話しており、病状の深刻さに対する認識が十分とは言えない様子である。医療者に対しては「早く良くなって帰りたい」と焦りを見せているが、具体的な生活改善への意欲は乏しい。

妻は毎日面会に訪れ、「主人の体のことを考えると眠れない日もあります」と涙ぐみながら話す。これまでも何度か禁酒を勧めてきたが、夫の飲酒を止められなかったことを悔やんでいる。「今回こそは本当に酒を止めてほしい。私にできることは何でもしますから」と医療者に協力を申し出ている。また、「退院後の生活が心配。夫は自分の病気を甘く考えているように思います」と不安を表出している。退院後は、より積極的に夫の生活管理に関わっていきたいという強い意志を示している。

この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

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