本事例の要約
アルコール性肝硬変による腹水貯留、全身浮腫の増強に加え、血液検査で肝機能の悪化を認めたため緊急入院となった。長年の飲酒習慣があり、これまでも禁酒指導を受けていたが継続できず、今回は黄疸の出現と食欲低下、倦怠感の増強により日常生活に支障をきたすようになったため入院加療となった事例。介入日は1月23日(入院2日目)である。
11.価値-信念
A氏は63歳の男性で、特定の宗教は持っていないが地域の神社には時々参拝する程度であり、入院中の特別な宗教的配慮は必要としていない。このことから、A氏の人生や健康に関する意思決定において、宗教的教義や慣習よりも個人的な価値観や信念が大きな影響力を持っていると考えられる。しかし、A氏の価値観や信念に関する詳細な情報は限られているため、より深い理解のための情報収集が必要である。
A氏は「こんなに具合が悪くなるとは思わなかった。もう二度と酒は飲まない」と話す一方で、「妻に迷惑をかけて申し訳ない。でも、家に帰ればなんとかなる」とも述べている。この言動からは、健康状態の深刻さに対する認識と実際の行動変容への意欲に乖離があることが示唆される。これまでも禁酒の必要性を理解しながらも、実際には断酒が継続できなかった経緯があることからも、A氏の価値体系において「健康」よりも「飲酒による心理的満足」が優先されてきた可能性がある。
また、A氏は建設会社で現場監督として働いていたが体調不良により1年前に退職している。几帳面で頑固な性格であるというA氏にとって、仕事は単なる収入源以上の意味を持っていた可能性が高く、退職によって職業的アイデンティティや社会的役割の喪失を経験している可能性がある。このような喪失体験は、人生の意味や目的に関する再評価を迫られる状況となり、A氏の価値観や信念にも影響を与えていると考えられる。
妻との関係性については、A氏は「妻に迷惑をかけて申し訳ない」と謝罪の気持ちを表明しており、家族関係を重視する価値観を持っていることがうかがえる。しかし同時に、これまで妻の禁酒の勧めを受け入れられなかったことから、家族への配慮と個人的嗜好との間で内的葛藤を抱えている可能性がある。妻が「夫は自分の病気を甘く考えているように思います」と話していることからも、疾患に対する認識や対処方法について夫婦間で価値観の相違があることが示唆される。
A氏の現在の目標や将来展望に関する明確な情報は不足しているが、「早く良くなって帰りたい」という発言からは、病院環境からの脱出と日常生活への復帰を当面の目標としていることがうかがえる。しかし、長期的な健康管理や生活改善に対する具体的な目標設定や意欲については明確でなく、将来の生活に対するビジョンや計画性が不足している可能性がある。
看護介入としては、まずA氏の価値観や信念、人生の優先事項について理解を深めるための対話を重ねることが重要である。特に、健康と飲酒習慣の関係性についての認識、家族との関係性に対する思い、退職後の生活における目標や意味づけなどについて、非判断的な姿勢で傾聴することが求められる。
また、価値の明確化を促す介入も有効である。A氏にとって何が大切なのか、どのような生活を送りたいのか、そのためにはどのような健康行動が必要かを自己探索できるよう支援する。特に、禁酒の継続が重要な健康行動であることを理解した上で、それが可能となる内発的動機づけを強化することが重要である。
さらに、肝硬変の病態や予後、生活習慣の改善がもたらす効果などについての正確な情報提供も必要である。A氏が現実的な健康認識に基づいて意思決定できるよう、疾患教育と自己管理スキルの獲得を支援する。
断酒継続のためには、アルコールに代わる新たな生きがいや楽しみの発見を支援することも重要である。A氏の興味関心や強みを活かした活動を探索し、生活の質を高める方法を共に考えることで、健康行動の継続を促進することができる。
また、妻を含めた家族カンファレンスを設定し、互いの価値観や期待を共有する場を設けることも有効である。特に退院後の生活における役割分担や相互支援のあり方について話し合い、共通の目標設定を行うことで、家族全体での取り組みを強化することができる。
今後も継続的に観察すべき点としては、A氏の断酒に対する意欲や発言の変化、健康行動に対する前向きな言動、家族との相互作用パターン、そして生活の質や意味に関する発言などが挙げられる。特に入院生活の中で価値観や目標に変化が生じる可能性があるため、定期的な再評価と支援方法の調整が必要である。また、必要に応じて医療チーム内で情報共有を行い、一貫性のあるアプローチで患者の自己決定を支援していくことが重要である。
看護問題の明確化
なし
事例の目次
【ゴードン】肝硬変 アルコール依存症 (0016)| 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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