本事例の要約
イレウスと診断され入院した88歳男性のA氏。腹痛と嘔吐を主訴に救急搬送され、腸閉塞と診断された。保存的治療目的で入院となり、現在はイレウス管による減圧治療中である。入院2日目の11月15日に介入するという事例。
6.認知-知覚
A氏の意識レベルは清明であり、現在のところ意識障害は認められない。認知機能は年齢相応であり、MMSE 27点と高得点を示している。これは認知機能が比較的良好に保たれていることを示しており、軽度認知障害(MCI)の基準とされる26点以上を満たしている。日常会話に支障はなく、自分の状態や治療内容について理解し、医療者とのコミュニケーションも適切に行えている。A氏は質問に対して適切に応答でき、自分の意思や希望を明確に伝えることができている。特に「早く良くなって帰りたい」という発言からは、現状認識と将来への見通しを持っていることが窺える。
視力に関しては、老眼があり近くを見る際には老眼鏡を使用している。遠くの視力は問題なく、日常生活に支障はない状態である。老眼は水晶体の弾力性低下による調節力の低下であり、加齢に伴う生理的変化として一般的である。現在の入院環境では、イレウス管の管理や点滴の観察、ナースコールの使用など近距離視が必要な場面があるため、老眼鏡の使用を確認し、必要時には手の届く位置に配置するなどの配慮が必要である。
聴力については軽度の難聴があり、特に騒がしい環境では聞き返すことがあるが、通常の会話は支障なく行える状態である。補聴器の使用はしていない。高齢者の難聴は主に内耳の有毛細胞の変性や聴神経の変化による感音性難聴であり、特に高音域から聴力低下が進行することが多い。A氏の難聴は軽度であるが、病院環境では複数の医療者からの説明や指示を正確に理解する必要があるため、コミュニケーション時の配慮が求められる。具体的には、騒音の少ない環境での会話、適切な音量と速度での話しかけ、必要に応じて視覚的情報の併用などが有効である。イレウス管管理に関する説明や、今後の治療方針についての理解を確認する際には特に注意が必要である。
知覚に関しては、両下肢に軽度のしびれ感を自覚しているが、触覚・痛覚・温度覚に異常はない。下肢のしびれ感は、腰椎圧迫骨折の既往や加齢に伴う脊柱管狭窄症などの可能性が考えられるが、現時点では詳細な評価が行われていない。このしびれ感が日常生活動作に与える影響や、安静臥床による症状の変化についての情報収集が必要である。
現在、A氏は腹部の痛みと不快感を訴えているが、部位を明確に指し示すことができており、痛みの知覚と表現に問題はない。疼痛スケール(NRS)による評価では安静時3/10、体動時5/10であり、中等度の疼痛を示している。痛みの増強や性質の変化は、イレウスの状態変化を示す重要な徴候となるため、継続的な疼痛評価が重要である。また、高齢者では痛みの表現が非定型的であったり、痛みに対する閾値が変化している場合があるため、言語的訴えだけでなく、表情や姿勢、バイタルサインの変化なども含めた総合的な評価が必要である。
A氏の表情については、入院による不安から時折表情が硬くなることがあるとの記載がある。また、「早く良くなって帰りたい」と話し、不安な表情も見られるとの情報がある。これらの情報から、A氏は入院生活や病状に対する不安を抱えていることが推測される。特に、「前の手術のように、また手術になるのでは」という発言は、過去の手術体験に基づく具体的な不安内容を示している。この不安は認知機能に影響を与え、注意集中力の低下や思考の混乱を招く可能性があるため、適切な情報提供や精神的サポートが重要である。
A氏は几帳面で自分のことは自分でしようとする意志の強さがあるという性格特性を持っているが、現在はイレウス管挿入やベッド上安静という制限された状況にあり、自律性が制限されている。このギャップがストレスや不安を増強させている可能性がある。高齢者にとって、自己決定権や自律性の維持は精神的健康に重要な要素であるため、可能な範囲での選択肢の提供や意思決定への参加を促すことが望ましい。
看護介入としては、まず情報提供と教育的支援が重要である。イレウスの病態や治療方針、予測される経過について、A氏の認知機能と感覚機能を考慮した方法で説明することで、状況の理解を促し不安の軽減を図る。特に、保存的治療の効果や回復の兆候となる指標(排ガスの有無、腹部症状の変化など)についての情報提供が有用である。
次に、感覚刺激の適正化を図る。病室の照明調整、必要時の老眼鏡の使用支援、騒音の軽減など、A氏の視聴覚機能を考慮した環境調整を行う。また、下肢のしびれ感に対しては、安楽な体位の工夫や、医師の許可が得られれば軽度のマッサージなどを検討する。
疼痛管理については、定期的なアセスメントと記録を行い、薬物療法(現在はペンタジン15mg筋注が頓用で使用可能)と非薬物療法(体位変換、リラクセーション法の指導など)を組み合わせたアプローチを行う。特に体動時の疼痛増強に対しては、事前の鎮痛薬投与や動作時の介助方法の工夫が有効である。
不安への対応としては、傾聴と共感的態度で関わり、A氏の思いや懸念を表出できる機会を設ける。必要に応じて、主治医からより詳細な説明を受ける機会を調整することも有用である。また、家族(特に面会に来る妻や電話で状況を確認する長男)と連携し、A氏の精神的サポートを強化することも検討する。
継続的な認知機能の評価も重要である。高齢者はせん妄のリスクが高く、特に入院環境や疼痛、薬物療法(特に鎮痛薬や睡眠薬の使用)、電解質異常などの複数の危険因子を有するA氏においては、認知状態の変化に注意深く観察する必要がある。日々の意識レベル、見当識、注意集中力などの評価と記録を行い、変化が見られた場合には早期に対応することが重要である。
看護問題の明確化
#疾患に伴う腹痛と治療経過への不確かさに関連した不安
事例の目次
【ゴードン】イレウス 入院2日目(0018)| 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
看護の攻略部屋wiki
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