【発熱】症状解説と看護のポイント

症状解説

1. はじめに

実習中に「37.8℃です」「熱が上がってきました」という報告を受けたとき、皆さんはどのような観察とケアを考えますか?発熱は医療現場で最も頻繁に遭遇する症状の一つですが、単に体温が高いというだけでなく、体の中で起きている複雑な生体反応の現れです。

発熱は、体が感染症や炎症などの異常事態に対して起こす生体防御反応です。しかし、過度の発熱は患者さんの体力を消耗させ、時として生命に危険をもたらすこともあります。看護師には、発熱の意味を正しく理解し、患者さんの状態に応じた適切な観察とケアを提供することが求められます。

この記事で学べること

  • 発熱のメカニズムと体内で起きている変化
  • 発熱の分類と各段階での身体反応
  • 患者さんの安全を守る観察ポイント
  • 解熱と体温調節に関する具体的な看護介入
  • 年齢や疾患に応じた個別的なケアの考え方

2. 病態の基本情報

定義

体温調節中枢の設定温度が上昇し、正常体温を超えて体温が維持される状態

疫学

発熱は全ての年齢層に見られる症状ですが、特に小児では年間3-8回、成人では年間2-4回程度の発熱エピソードがあるとされています。病院では入院患者の約30-50%が入院中に何らかの発熱を経験し、救急外来を受診する患者の約20%が発熱を主訴としています。感染症による発熱が最も多く、全体の約80%を占めています。

分類・病型

発熱は原因別に感染性発熱と非感染性発熱に大別されます。感染性発熱は細菌、ウイルス、真菌などの病原体によるもので、非感染性発熱は悪性腫瘍、膠原病、薬剤性、中枢性などが原因となります。

体温の程度別では、微熱(37.0-37.9℃)、中等度発熱(38.0-38.9℃)、高熱(39.0℃以上)に分類され、41℃以上は生命に危険を及ぼす可能性が高くなります。

発熱パターン別では、稽留熱(1日の体温変動が1℃以内)、弛張熱(1日の体温変動が1℃以上で正常に戻らない)、間歇熱(発熱と平熱を繰り返す)、回帰熱(数日間の発熱の後、無熱期を挟んで再び発熱)などがあり、原因疾患の診断に役立ちます。


3. 病態生理

基本メカニズム

発熱は、まるで家のエアコンの設定温度を上げるような現象です。通常、私たちの体温は視床下部にある体温調節中枢によって約37℃に保たれています。これは家のエアコンのサーモスタットのような働きをしています。

感染症などで体内に異物(病原体)が侵入すると、マクロファージなどの免疫細胞が発熱物質(パイロジェン)を産生します。この物質が血液を通じて脳に到達し、体温調節中枢の設定温度を上昇させます。すると、体は新しい設定温度(例えば39℃)に到達しようとして、熱産生を増加させ、熱放散を減少させます。

この過程でプロスタグランジンE2(PGE2)という物質が重要な役割を果たします。解熱薬(アセトアミノフェンやNSAIDs)は、このPGE2の産生を阻害することで解熱効果を発揮します。

進行過程

発熱の経過は、まるで山登りのような3つの段階を辿ります。

上昇期(体温上昇期)では、体は設定温度に到達しようと必死になります。患者さんは「寒い、寒い」と訴え、震えが見られます。これは筋肉の収縮により熱を作り出そうとする反応です。皮膚は血管が収縮するため冷たく、蒼白に見えます。患者さんからは「毛布をもう1枚ください」「エアコンを止めてください」という訴えが聞かれます。

極期(高体温期)では、体温が設定温度に達し安定します。震えは止まり、皮膚は温かく紅潮して見えます。患者さんは「暑い」と感じ、「毛布を取ってください」「氷枕が欲しい」と訴えるようになります。この時期は最も体力を消耗し、脱水や電解質異常のリスクが高まります。

下降期(解熱期)では、原因が除去されたり解熱薬の効果により、設定温度が正常に戻ります。体は余分な熱を放散しようと、大量の発汗や血管拡張を起こします。患者さんは「汗がすごく出る」と訴え、急激な体液喪失により脱水のリスクが高まります。

病型別の違い

  • 感染性発熱:比較的急激に発症し、悪寒戦慄を伴うことが多い。解熱薬に反応しやすい
  • 悪性腫瘍による発熱:持続的で解熱薬に反応しにくく、夜間に上昇する傾向
  • 薬剤性発熱:薬剤開始後数日から数週間で出現し、薬剤中止により改善
  • 中枢性発熱:脳血管疾患や脳腫瘍により体温調節中枢が障害されて起こる。解熱薬が効きにくい

合併症・併発する病態

高熱による主な合併症として脱水があります。体温が1℃上昇すると、体の水分需要量は約15%増加し、発汗により体液が失われます。特に高齢者や小児では急速に脱水が進行する可能性があります。

熱性痙攣は主に6か月から6歳の小児に見られ、急激な体温上昇により脳の神経細胞が異常興奮を起こす状態です。また、熱中症との鑑別も重要で、環境温度が高い状況での体温上昇は生命に危険をもたらします。

心疾患のある患者では、発熱により心拍数が増加し心不全が悪化する可能性があります。また、長期間の高熱はタンパク質の変性を起こし、多臓器不全につながることもあります。

看護に活かすポイント

発熱の看護で重要なのは「なぜその時期にその症状が現れるのか」を理解することです。上昇期の患者さんが「寒い」と訴えるのは、体が熱を作ろうとしているからです。この時期に無理に冷やそうとすると、体はさらに熱を作ろうとして逆効果になります。

一方、極期や下降期では積極的な冷却が効果的です。このように、発熱の段階に応じたケアを提供することが、患者さんの苦痛軽減と安全確保につながります。


4. 症状・検査・治療

代表的な症状・徴候

発熱時の症状は、体温の変化とともに変動します。全身症状として、倦怠感、頭痛、関節痛、筋肉痛などが見られ、患者さんからは「体がだるい」「頭がガンガンする」「節々が痛い」という訴えが聞かれます。

循環器症状では、心拍数の増加(体温1℃上昇につき約20回/分増加)、血圧の変動が見られます。呼吸器症状として呼吸数の増加、消化器症状として食欲不振、嘔気、下痢などが現れることがあります。

神経症状では、特に高齢者で意識レベルの低下や失見当識が見られることがあり、「いつもと様子が違う」「ぼんやりしている」という家族からの訴えが重要な手がかりとなります。

小児では熱性痙攣のリスクがあり、「白目をむいて手足をつっぱった」「呼びかけに反応しない」という症状に注意が必要です。

主要な検査・診断

発熱の原因を特定するため、まず血液検査が行われます。白血球数(正常値4000-8000/μL)の増加は細菌感染を、CRP(正常値0.3mg/dL以下)の上昇は炎症反応を示します。プロカルシトニンは細菌感染症の早期診断に有用で、0.25ng/mL以上で細菌感染症を疑います。

血液培養は感染症の起因菌を特定する重要な検査で、発熱の初期段階で複数回採取することが推奨されます。また、感染巣を特定するため胸部X線尿検査、必要に応じてCTMRIなども実施されます。

体温測定では、中枢温に近い直腸温が最も正確ですが、実際の臨床では腋窩温が一般的です。腋窩温は中枢温より約0.5℃低く、このことを考慮した評価が必要です。

治療の基本

発熱の治療は原因治療対症治療に分けられます。感染症による発熱では抗生物質による原因治療が最優先され、非感染性発熱では原因疾患に応じた治療が行われます。

解熱薬として、アセトアミノフェン(成人500-1000mg、6時間毎)やNSAIDs(イブプロフェン、ジクロフェナクなど)が使用されます。ただし、解熱薬は体温を下げるだけで原因を治療するものではないため、過度の使用は診断を困難にする可能性があります。

物理的冷却として、氷枕、冷却マット、アルコール清拭などがありますが、上昇期には逆効果となるため、発熱の段階を見極めた使用が重要です。


5. 看護のポイント

主な看護診断

  • 体温調節無効
  • 体液量不足
  • 活動耐性低下
  • 感染リスク状態

ゴードンの機能的健康パターン別観察項目

栄養代謝パターンでは、発熱により代謝が亢進し、エネルギー消費量が増加します。体温1℃上昇につき代謝率は約13%増加するため、適切な栄養・水分補給が重要です。食欲不振、体重減少、脱水の兆候(皮膚のツルゴール低下、尿量減少、口渇など)を観察します。

活動運動パターンでは、発熱による倦怠感や体力低下により、日常生活活動に支障をきたします。安静度の評価、転倒リスクの評価、呼吸・循環動態の変化を継続的に観察します。

睡眠休息パターンでは、発熱により睡眠の質が低下し、これがさらに免疫機能の低下を招く可能性があります。睡眠時間、中途覚醒の頻度、日中の傾眠傾向などを評価します。

認知知覚パターンでは、特に高齢者で発熱により意識レベルの変化や見当識障害が生じることがあります。Glasgow Coma Scale、見当識、疼痛の程度を定期的に評価します。

ヘンダーソンの基本的欲求からみた看護

正常な呼吸の維持では、発熱により呼吸数が増加し、酸素消費量も増加します。呼吸状態の観察、必要に応じた酸素投与、気道確保に注意を払います。

適切な食物と水分の摂取では、発熱により食欲が低下し、同時に水分需要は増加します。患者さんの嗜好に合わせた摂取しやすい食事の提供、こまめな水分補給、経口摂取困難時の代替手段を検討します。

身体の清潔と身だしなみを整え、皮膚を保護するでは、発汗による皮膚の汚染や褥瘡リスクの増加に対応します。こまめな更衣、皮膚の清拭、寝具の交換を行い、皮膚の integrity を保持します。

体温を正常範囲に保持するでは、発熱の段階に応じた体温調節援助を行います。環境温度の調整、寝具の調節、適切な冷却方法の選択が重要です。

病態に応じた具体的な看護介入

微熱期(37.0-37.9℃)では、予防的な観察とケアが中心となります。水分摂取の促進、安静の保持、原因の早期発見を目的とした症状観察を行います。患者さんには「少し熱っぽいですが、しっかり水分を取って様子を見ましょう」と説明し、不安を軽減します。

中等度発熱期(38.0-38.9℃)では、より積極的な介入が必要です。体温測定の頻度を増やし、脱水予防のための積極的な水分補給、解熱薬の投与準備、物理的冷却の検討を行います。患者さんの苦痛軽減を図りながら、原因検索のための検査にも協力します。

高熱期(39.0℃以上)では、緊急度の高い観察とケアが求められます。バイタルサインの頻回測定、意識レベルの評価、輸液管理、医師との密な連携が必要です。特に小児では熱性痙攣、高齢者では意識障害のリスクが高まるため、24時間体制での観察が必要になることもあります。

予防・悪化防止のポイント

感染予防として、手指衛生の徹底、標準予防策の実施、免疫力低下患者への感染対策の強化を行います。また、早期発見のための定期的な体温測定、症状の変化に対する迅速な対応、患者・家族への教育も重要です。

脱水予防では、発熱時の水分需要量の増加を考慮し、こまめな水分補給を促します。経口摂取困難時は輸液による補給も検討し、電解質バランスにも注意を払います。


6. よくある質問・Q&A

Q:解熱薬はいつ使用すべきですか?

A: 解熱薬の使用は、単純に体温の数値だけで判断するのではなく、患者さんの症状と全身状態を総合的に評価して決定します。一般的には38.5℃以上で患者さんに苦痛がある場合や、心疾患など基礎疾患がある場合に使用を検討します。ただし、発熱は生体防御反応でもあるため、過度の解熱は感染の治癒を遅らせる可能性もあります。医師の指示に従い、患者さんの状態を見ながら適切に使用することが重要です。

Q:体温測定の正確性を保つにはどうすればよいですか?

A: 体温測定の正確性を保つには、測定部位と方法の標準化が重要です。腋窩温では、体温計を腋窩の最も深い部分に密着させ、上腕を体幹に密着させて10分間(水銀体温計の場合)測定します。測定前30分間は入浴、運動、冷温飲料の摂取を避けるようにします。また、同一患者では可能な限り同じ部位、同じ時間帯で測定し、測定値は小数点第1位まで正確に記録します。電子体温計の場合は、測定音が鳴った後もしばらく測定を続けることで、より正確な値を得ることができます。

Q:発熱している患者さんに冷却を行うタイミングはいつですか?

A: 冷却のタイミングは発熱の段階によって異なります。上昇期(悪寒戦慄がある時期)では、患者さんは寒がっているため冷却は逆効果です。この時期は保温を優先します。極期(体温が高く安定し、患者さんが暑がっている時期)や下降期では、積極的な冷却が効果的です。冷却方法としては、氷枕、冷却マット、微温湯での清拭などがあります。患者さんの訴えと皮膚の状態(冷たく蒼白 vs 温かく紅潮)を観察し、適切なタイミングで冷却を開始することが重要です。

Q:高齢者の発熱で特に注意すべき点はありますか?

A: 高齢者では、発熱に対する反応が若年者と異なるため、特別な注意が必要です。まず、感染症があっても発熱しない場合があります。むしろ、普段より元気がない、食欲がない、ぼんやりしているなどの非特異的な症状が初期症状となることが多いです。また、発熱時の脱水リスクが高く、急速に進行する可能性があります。認知機能への影響も大きく、軽度の発熱でも意識レベルの低下や見当識障害を起こすことがあります。さらに、複数の基礎疾患を持つことが多いため、発熱により心不全や腎機能低下などの合併症を起こしやすくなります。些細な変化も見逃さず、早期発見・早期対応を心がけることが重要です。


7. まとめ

発熱は単なる症状ではなく、体の重要な防御反応であり、その背景にある病態を理解することが質の高い看護につながります。発熱の段階に応じた適切な観察とケアを提供し、患者さんの苦痛を軽減しながら安全を確保することが看護師の重要な役割です。

常に患者さんの個別性を尊重し、多職種と連携しながら、根拠に基づいたケアを実践することが大切です。

覚えるべき数値

  • 正常体温:36.0-37.0℃(腋窩温)
  • 微熱:37.0-37.9℃
  • 中等度発熱:38.0-38.9℃
  • 高熱:39.0℃以上
  • 体温1℃上昇時の心拍数増加:約20回/分
  • 体温1℃上昇時の代謝率増加:約13%
  • 体温1℃上昇時の水分需要量増加:約15%
  • 白血球正常値:4000-8000/μL
  • CRP正常値:0.3mg/dL以下

実習・現場で活用できるポイント

実習では、発熱を数値だけで判断するのではなく、患者さんの全身状態と発熱の段階を総合的に評価することを心がけましょう。「患者さんは今、上昇期なのか、極期なのか、下降期なのか」を観察し、それに応じたケアを選択できるようになることが重要です。

また、発熱は多くの疾患の共通症状です。原因となる疾患の特徴を理解し、適切な観察項目を設定できるよう、日々の学習を積み重ねてください。患者さんの訴えに耳を傾け、変化を敏感に察知できる看護師を目指しましょう。行い、多職種と連携しながら患者さんの安全な血糖管理と生活の質向上を支援してください。

免責事項

本記事は教育・学習目的の情報提供です。

・一般的な医学知識の解説であり、個別の患者への診断・治療の根拠ではありません

・実際の看護実践は、患者の個別性を考慮し、指導者の指導のもと行ってください

・記事の情報は公開時点のものであり、最新の医学的知見と異なる場合があります

・本記事を課題としてそのまま提出しないでください

正確な情報提供に努めていますが、内容の完全性・正確性を保証するものではありません。

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