本事例の要約
85歳の男性A氏は、突然の左半身麻痺と言語障害により発症から2時間以内にrt-PA療法を実施し、その後リハビリテーションを行っている右中大脳動脈領域の脳梗塞の事例。介入は入院7日目である。
2.適切に飲食する
A氏は身長165cm、体重58kgであり、体格指数(BMI)は21.3kg/m²と標準的な体格を維持している。しかし、入院時の血液検査では総タンパク5.8g/dL、アルブミン3.2g/dL、ヘモグロビン13.2g/dLと、特に栄養状態を示す総タンパクとアルブミンが基準値を下回っている。これは急性期の炎症反応による異化亢進状態を反映していると考えられ、入院7日目の検査でも総タンパク6.2g/dL、アルブミン3.4g/dLと改善傾向にあるものの、依然として低値が続いている。
嚥下機能については、3mlの水を嚥下する水飲みテスト(MWST)が3点(むせあり、呼吸の変化あり)であり、明らかな機能低下を認める。これは脳梗塞による球麻痺の影響と考えられ、85歳という高齢による嚥下反射の低下も加わっている。加齢による咀嚼筋の筋力低下や唾液分泌の減少も、嚥下機能に影響を与えている可能性がある。入院前は常食を自力摂取できていたが、現在はとろみ食となっており、食事時は体幹を30度挙上し、頸部を軽度屈曲位にして、ゆっくりと摂取するよう促している状況である。
基礎エネルギー消費量(Harris-Benedict式)は1,321kcal/日(身長165cm、体重58kg、85歳男性)であり、活動係数1.2、ストレス係数1.1を考慮すると、必要エネルギー量は約1,744kcal/日と算出される。1日の必要水分量は体重から算出すると約1,740ml(体重58kg×30ml/kg)である。現在の食事摂取量は7-8割程度を維持できているが、水分摂取に関してはとろみ剤を使用する必要があり、十分な摂取量が確保できているか慎重な観察が必要である。また、左半身麻痺により、自力での食事動作に制限があることから、食事時間の延長や疲労による摂取量低下のリスクがある。環境の変化による不眠や夜間の不穏も、食欲に影響を与える可能性がある。
必要な看護介入として、まず食事時の安全な体位保持と見守りが重要である。食事動作の自立度を評価しながら、必要に応じて自助具の導入や環境調整を行う。食事摂取量は毎食記録し、体重の推移と合わせて栄養状態を評価する。また、生化学検査でのTP値(現在6.2g/dL)とALB値(現在3.4g/dL)の推移を観察し、低栄養のリスクを評価する。毎食前後の口腔ケアを実施し、誤嚥性肺炎の予防に努める。水分出納バランスの確認も必要であり、特に高齢者は脱水のリスクが高いため、1日の尿量や飲水量の記録を継続する。
追加で収集が必要な情報として、嗜好や食習慣の詳細、口腔内の状態(歯の状態、義歯の適合具合など)、体重の経時的変化、血中中性脂肪値などが挙げられる。また、食事に関する本人の意欲や困難感についても、より詳細な情報収集が必要である。
看護師は言語聴覚士と連携しながら、段階的な嚥下訓練を実施し、定期的に嚥下機能の評価を行う必要がある。また、管理栄養士と協力して、栄養状態の改善に向けた食事内容の調整や栄養補助食品の検討も重要である。
ニーズの充足状況としては、現時点で誤嚥予防のための食事形態の調整や体位保持は実施できているものの、栄養状態の改善が十分でなく、また嚥下機能の低下や左半身麻痺による食事動作の制限が続いているため、栄養・食事に関するニーズは部分的な充足に留まっていると判断される。継続的な観察と段階的な介入が必要な状態である。
看護問題の明確化
# 脳梗塞後の嚥下機能低下・左半身麻痺に関連した誤嚥と低栄養のリスク状態
事例の目次
【ヘンダーソン】脳梗塞 左片麻痺(0003)| 今回の内容
1.正常に呼吸する
2.適切に飲食する
3.あらゆる排泄経路から排泄する
4.身体の位置を動かし、また良い姿勢を保持する
5.睡眠と休息をとる
6.適切な衣類を選び、着脱する
7.体温を生理的範囲内に維持する
8.身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する
9.環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする
10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは気分を表現して他者とコミュニケーションを持つ
11.自分の信仰に従って礼拝する
12.達成感をもたらすような仕事をする
13.遊び、あるいはさまざまな種類のレクリエーションに参加する
14.正常な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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