【ヘンダーソン】脳梗塞 左片麻痺(0003)| 10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは気分を表現して他者とコミュニケーションを持つ

ヘンダーソン

事例の要約

85歳の男性A氏は、突然の左半身麻痺と言語障害により発症から2時間以内にrt-PA療法を実施し、その後リハビリテーションを行っている右中大脳動脈領域の脳梗塞の事例。介入は入院7日目である。

10.自分の感情、欲求、恐怖あるいは気分を表現して他者とコミュニケーションを持つ

A氏は温厚で几帳面な性格の持ち主であり、脳梗塞発症前は地域の将棋サークルや学習支援ボランティアに参加するなど、社会的な交流を積極的に持っていた。現在は左半身麻痺による身体機能の低下により、「こんな状態では家族に迷惑をかけるばかりだ」という発言が聞かれ、自尊心の低下が認められる。特に夜間のトイレ介助を申し訳なく思う気持ちを表出している。

コミュニケーション機能については、脳梗塞発症直後は失語症状が認められたが、現在は発語明瞭度が3/5まで改善している。簡単な日常会話は可能で、質問への応答も概ね問題なく行えるが、複雑な内容を話す際は時間を要する状態である。声量は十分で表情も豊かであり、非言語的コミュニケーションは良好に保たれている。

視力は軽度の老眼があり、新聞を読む際は老眼鏡を使用している。聴力は左右ともに会話に支障のない程度であり、補聴器の使用は必要としていない。認知機能評価では長谷川式認知症スケール25点、ミニメンタルステート検査26点と軽度の低下を認めるが、医療者の指示理解は良好である。

家族関係については、82歳の妻をキーパーソンとし、長男家族との3世代同居である。妻は「私たち家族がいるから心配しないで」と声をかけ、長男家族も「父のことは家族で支えていきたい」と話すなど、良好な関係性が保たれている。家族の面会状況に関する具体的な情報は不足しているため、確認が必要である。

バイタルサインについては、入院7日目の時点で脈拍72回/分と安定している。呼吸数の記載はないため、観察が必要である。日中は1~2回のリハビリテーションに意欲的に取り組んでおり、「早く家に帰って盆栽の世話がしたい」という希望を持っている。

必要な看護介入として、まず心理的サポートが重要である。身体機能の低下による自尊心の低下に対して、できていることを肯定的に評価し、リハビリテーションの進捗状況を具体的に伝えることで、意欲の維持・向上を図る必要がある。また、家族との良好な関係性を活かし、面会時には家族と過ごす時間を確保することも重要である。発語に時間を要する際は、急かすことなく待つ姿勢で接し、必要に応じて筆談などの代替手段も検討する。夜間の不眠や不穏に対しては、日中の活動性を維持し、生活リズムを整えることで、心身の安定を図る必要がある。

継続的な観察が必要な項目として、発語明瞭度の変化、認知機能の状態、不眠や不穏の有無、家族との関係性の変化が挙げられる。特に、夜間の心理状態や睡眠状況については注意深い観察が必要である。

以上のことから、コミュニケーションに関するニーズは、基本的な意思疎通は可能で家族関係も良好であることから、ある程度充足されている。しかし、身体機能の低下による自尊心の低下や、複雑な内容の表出に時間を要することから、心理的サポートと継続的な観察が必要な状態であり、完全な充足には至っていないと判断される。また、退院後の社会的交流の再構築に向けて、家族を含めた支援体制の調整が必要である。

看護問題の明確化

# 脳梗塞に伴う左半身麻痺による身体機能低下に関連した自尊心の低下
# 脳梗塞後の言語機能低下に関連したコミュニケーション障害
# 環境の変化と身体機能低下に関連した不眠・不穏

事例の目次

この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

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